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 かなえが言った。

「あんなに光が出るほど強くぶつかったんだ。衝撃で耳も聞こえないのかも」

 目が見えるようになったのか、晶紀がゆっくり体を回し、ようやく児玉に向き合った。

 震えながら神楽鈴を振り上げ、光る剣を伸ばす。

 児玉も差し棒を振り上げると、小さい雷を落とした。

 雷の下から、土坊主が浮き上がってきた。

「ここで土坊主をだすとは……」

 かなえは、知世の手を引いた。

「死ねっ!」

 児玉が先に差し棒を振り下ろした。

 霊光に包まれ、鋭い刃物のような差し棒が、晶紀の脳天に達したか、という時ようやく晶紀も神楽鈴を振り上げた。

 大きな音が鳴って、差し棒と神楽鈴の刃がぶつかった。

 その轟音が合図になったかのように、お互いの剣技が繰り出される。

 頭、胴、足の三段の高さを同時に振り抜くような児玉の攻撃を、動いたのか動いていないのか見えないほどギリギリの動作で避ける晶紀。

 最初の打撃をかわされると、そのままのスピードで光る剣を回しながら、無限を描くように攻撃する晶紀。

 児玉は時に素早く、時にギリギリまで待機してそれを避ける。

 お互いが攻撃の手を緩めず、互いに体力だけが削られていく。

 晶紀の振り返りざまの一撃に対し、児玉は避ける訳ではなく、差し棒を振り上げた。

「まずい!」

 かなえは叫んだ。

 児玉の差し棒から、雷が発せられ、それは晶紀の手に落ちた。

「!」

 神楽鈴は晶紀の手を離れ、光る剣が失われた。

 激しく回転しながら宙を舞って、グランドに落ち、止まる。

 勝ち誇ったように笑う児玉。

 差し棒を更に振り上げると、差し棒を包んでいる霊光が強くなった。

 無防備な晶紀に向けて、差し棒が振り下ろされる。

 その刃は晶紀の体を切り裂く…… はずだった。

「なんだ、何が起こった」

 かなえの竹刀が光って、児玉の差し棒を受け止めていた。

 晶紀は顔を上げ、言った。

「かなえ、知世……」

「晶紀さん」

 児玉は差し棒を引いて、飛び退いた。

「弱い奴らは群れるしか能がないのか」

 晶紀は神楽鈴に意識を集中し、手を伸ばす。

「頼む…… 戻ってきて……」

 グランドに落ちている神楽鈴が、少し動いた。

 その時、神楽鈴が蹴り上げられた。

「残念だったね」

 蹴り上げられた神楽鈴手に取ったのは、綾先生だった。

「こんなところに来たのが運の尽き、という感じ」

 差し棒を向けて児玉が言う。

「綾、その神楽鈴を使え」

 綾は横目で土坊主を見る。

「雷を土坊主に叩き込め」

 神楽鈴は邪悪な力でもドライブ出来るのか。

 もし雷が土坊主に落ちれば、落ちた量だけ土坊主が巨大化する。

 晶紀は綾先生の周囲に意識を集中した。

「……」

 綾が神楽鈴を振り上げると、鈴が鳴った。

 しかし、それ以上のことは起こらない。

「?」

 首をかしげる綾。

 それを見て、晶紀は言う。

「神楽鈴が抵抗しているんだ。綾先生の汚れた霊力が流れることを」

「無視するとは良い度胸だ」

 児玉の差し棒が、再び大きな刃となり、晶紀に振り下ろされる。

 かなえと、その背中に隠れるように身を潜める知世。その二人の剣が、児玉の刃を再び受け止める。

「お前の相手はこっちだ」

 児玉は晶紀との戦いで消耗していた。

 力を限界まで使った為に肉体が傷つき、思うように力が入らない。回復に霊力を回さないと、立っていることも出来ない。

 それは晶紀も同じだった。

 だが、晶紀にはかなえと知世が助けに来て、児玉の味方の綾は神楽鈴を使いこなせないでいる。

「ちょっと霊力を使えるようになったからと言って、図に乗るなよ」

 差し棒の刃を消して、再び後ろに下がる。

 児玉は肩で息をしながら、差し棒を振り上げる。

「そこじゃ間合いが……」

 かなえは言いかけたが、差し棒から伸びる光の長さに気付く。

「やばい、知世、光の剣を」

 児玉は差し棒を振り下ろす。

 しなるように曲がり、遅れて差し棒から伸びた霊光が降りてくる。

 避けたら、動けない晶紀に当たってしまう。

 かなえは竹刀を横にして受け止めようと構えた。

 ニヤリ、と児玉が笑う。

「しまった」

 差し棒から伸びた霊光は、かなえが受け止めた点からムチのように曲がったのだ。

「あっ!」

 かなえの竹刀がある分、晶紀には届かなかったが、かなえの後ろにいた知世を直撃していた。

 直後に児玉も苦しい表情になって、差し棒から伸びる霊光は消えた。

 だが、背中を強く打った知世は、かなえの背中で気を失っていた。

 晶紀は力を振り絞って知世に駆け寄る。

「知世! 知世、大丈夫? 知世」

 体を返して、かなえは知世の身体を抱きとめた。

「私がこのことを予測していれば」

「しかたないよ、私もかなえだったら、ああするしかなかった」

 晶紀は瞼を閉じて、小さい声でつぶやく。

「知世……」

 目を開き、児玉を睨みつける。

 児玉は老婆のように差し棒を突いてそれに寄りかかるようにして立っている。

「許さない」

「許してもらう必要なんてないけど」

「生かしておかないってこと!」

「その前にこいつが相手してやるよ」

 児玉の背後にいた土坊主が、足を曲げ、ジャンプする。

 今までの土坊主より小ぶりだったが、その分、運動能力が高いのかもしれない。

 児玉と晶紀の間に、土坊主が着地する。

 吹き上がるような土煙。

 小ぶりだが、頭はバスケットゴールに届くだろう。それだけの重量があるということだ。

 しばらく止まっていた土坊主が、晶紀を認識すると、走った。

 今までの土坊主と比較して、スピードが桁違いだった。

 体をねじって、右肩を前に出す。

 大きな体の高速タックル。

 晶紀は避けるのが精いっぱいだった。

 飛び退いた時に、全身に走る痛みで、晶紀の顔が歪む。

 それを見て児玉は笑った。

「ドジな綾のせいで、土坊主を大きく出来なかったけど、大きくない利点もありそうね」

 これだけスピードを出して動かれたら、弱点のアキレス腱を叩くことは困難だ。

 土坊主が後方で方向転換して、晶紀の方に戻ってくる。

 それに神楽鈴の無い晶紀には、攻撃の手段がない。

 土坊主の高速タックルに、晶紀は反応しきれず、左ひじがかすってしまう。

 言葉にならない、大きなうめき声がグランドに響く。

 土坊主の勢いを、体の側面で受けたせいで、独楽のようにグルグルと回り、晶紀はグランドに手をついてしまった。

 児玉が言う。

「おしまいね」

 土坊主が反転して、晶紀に向かい走り始めた。

 さっきぶつかったせいで腕に力が入らない。児玉とぶつかった時の衝撃で、晶紀は足にも力が入らない。

 このままだと土坊主に潰されてしまう……

 神楽鈴の力を、神楽鈴なしで使う。

 神楽鈴は力を引き出す切っ掛けに過ぎないはず。

 晶紀の手に神楽鈴は戻ってこない。そして土坊主との距離は、もう二メートルもない……

 終わった。

 誰もがそう思った。

 晶紀はギリギリまで目を開いていたが、正面から飛んでくる土を見て、目を閉じた。

「……」

「なにがおこった?」

 爆発するような土煙が上がり、晶紀と土坊主の衝突した状況が確認出来ない。

 かなえの手にあるはずの竹刀がない。

 大きな土の塊はすべてグランドに落ちて落ち着いた。

 細かい土煙の中で、立ち上がる人影があった。

「晶紀!」

 かなえは嬉しそうにそう言った。

「ありがとう、かなえ」

 晶紀の手にはかなえの竹刀が握られていた。

「絶対間に合わないと思ってた」

「けど投げてくれなきゃ始まらなかった」

 児玉が言う。

「その娘が竹刀を投げたのは分かってた。けど絶対間に合わなかった。何をしたの?」

「私の霊力で竹刀を加速させた。それだけ」

「……それなら、さすがにもう力は残ってないわね」

 児玉は、そう言って、笑い、差し棒を振り上げた。

「私の勝ちね!」

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