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「くそッ!」
児玉がイラついたせいか、差し棒の攻撃が大振りになった。
軌道を読んだ晶紀は頭を下げ、差し棒をかわす。
児玉の差し棒は、勢い余って土坊主の足に当たる。そう思われた。
その時だった。
児玉は、突然、グランドに倒れ込んだ。
そのせいで差し棒が『土坊主』の足に当たるのは回避された。
晶紀は差し棒が土坊主の足のどこにあたりそうだったのかを考えながらも、倒れた児玉に攻撃を仕掛けた。児玉は、体を回転させ続けて晶紀の攻撃を避け、距離を取った。
晶紀は、狙いを土坊主に切り替える。
足だ。足…… 晶紀は一か八か、土坊主のかかとのあたりに向け、神楽鈴の剣を全力で振り込んだ。
「しまっ…… た」
児玉先生の声が、遠くで聞こえた。
晶紀の振るった剣は、土坊主のアキレス腱を直撃する。
すると、どんな打撃にも反応しなかった土坊主が、痺れたように震え、動きが止まった。
止まったまま、うつ伏せに倒れ込むと、同時に元の土の塊に戻った。
土煙がグランドを照らす照明で浮かび上がる。
晶紀は、叫ぶ。
「知世! アキレス腱だ! こいつはアキレス腱が弱点だ」
知世やかなえ、阿部、石原、小泉、新月…… 土坊主と戦っている全員がその声に反応した。
「ふん」
児玉先生は、膝に手をつきながら、ゆっくりと立ち上がると、差し棒で空気を切るように払った。
「……土坊主ども。土に潜れ」
まるでグランドが沼になったかのように、土坊主達はグランドへ体を沈め始める。
一瞬にして、アキレス腱はグランドの中。
知世達は、土坊主を倒すことが出来なくなってしまった。
ならば、晶紀に加勢し、児玉先生を倒そう、とグランドの中央に向かって走り出す。
とグランドから土坊主の頭が飛び出てきた。知世達の動きを見ると、すぐに腕を出し、水平に払うように動かした。
後ろに下がるのでは間に合わない。
佐倉先生、知世、山口、石原、仲井の五人は、太く短い腕と地面の隙を抜けるよう、体を低く転がり抜けた。
一方、小泉、新月、阿部、木村の四人は、土坊主の腕の高いところにタイミング良く手をつき、跳び箱の要領で飛び越えて避けた。
体をすべて地上にさらしていた時は、攻撃の威力が高く威圧感があるものの、弱点は見えているし、動きが遅くて背後を取れた。
しかし、グランドに潜ってしまうと、弱点はなくなる、突然現れて対処しづらい。
結果的に、土坊主は地上に出ていた時より厄介な存在になってしまった。
知世達は、散開して昇降口側に戻っていく。
差し棒で手の平を打つと、児玉が言った。
「援軍の力は借りれなさそうだな」
晶紀は睨み返したが、すぐに足元が盛り上がって来たために、慌ててその場を離れる。
「五体の土坊主に潰されてしまえ」
次々に足元から現れる土坊主の頭や、腕を、晶紀は動き回って避けた。
土坊主が襲わない安全地帯…… 児玉先生のいる場所なら、襲ってはこないが児玉先生と土坊主を同時に相手にしなければならない。襲ってこない校舎に行けば、襲われないが、戦えない。晶紀は考えた。なんとかして、土坊主を地上におびき寄せないと勝てない。
晶紀は、土坊主が来るのを待った。
グランドが盛り上がり、土坊主の頭が現れると、晶紀はそれに飛び乗った。
土坊主はしばらく辺りを見回すが、晶紀がいない為に土に戻ろうとした。
「バカね。上よ、上! 頭の上!」
児玉が差し棒で指示すると、土坊主はさらに体を浮上させ、腕を出して、自らの頭上を手で叩きにくる。
晶紀は叩こうとする手を飛び跳ねて避ける。
児玉は別の土坊主に叩かせようと、二体目の土坊主を呼び戻す。
頭の上で飛び跳ねるせいで、二体目の土坊主は、一体目より体を浮上させ、飛び上がったところを叩こうとする。
すると晶紀は、神楽鈴を振り、霊力による脚力のアシストと上昇気流を霊力により作りだし、二体目の頭の上に飛び移る。
二体目の頭の上に乗った晶紀を見て、一体目の土坊主がさらにグランドから浮き上がって来た。
「何を手こずっている! 早くやってしまえ」
児玉は、晶紀の意図に気付かず、土坊主を嗾ける。
昇降口で晶紀が土坊主の頭に乗っているのを見て、知世達は話し合った。
「アキレス腱が見えるほど浮上してきたら、迷わず石原さんが力を使って動きを止めてください」
石原美波がうなずく。
「動きがとまったら、かなえ、阿部さん、小泉さんで手分けして土坊主のアキレス腱を叩いてください」
小泉は知世の提案に疑問を投げかける。
「まだ二体しか浮上していないぞ、なぜ三人でやるんだ?」
「児玉先生の攻撃があった場合とか、途中で三体目が現れたりした時のことを考えたの」
「残りは五体いるんだから、新月と山口を連れて行けばちょうど倒せるだろ」
晶紀の作戦通り、他の土坊主も地上におびき出せれば一度に倒せるが……
「まだ、グランドの中にいるから、下手に人数をかけると、それこそ足元をすくわれてしまいますわ」
小泉が言う。
「じゃ、残りの土坊主が出て来りゃ文句ないだろ」
「そうですけれど」
「なら私が土坊主を誘きだすの、やってみる」
「すず! お前が!?」
「無理だ、とか言わないでよ。攻撃ができない分、おとりぐらいやるわ」
「危険だ!」
「他にやる人はいないでしょ」
「何か策があるのですね?」
仲井の表情を見て知世が言った。
「うん!」
「話してみろ」
仲井と小泉は、二人でこそこそ話している。
「危険だ」
「やってみようよ。私得意だったんだから」
「……」
仲井の作戦を知世に話す。
「それをやるのでしたら、晶紀さんに伝えないと。石原さんの力が及ぶ範囲がありますから」
「そうか」
知世はグランドに飛びでて、晶紀に叫ぶ。
「晶紀さん!」
知世は、児玉から死角になる位置に移動すると、大きく体でジェスチャーする。
晶紀は土坊主の頭の上を移動しながら、うなずいた。
知世の周りに、土坊主の指が飛び出てくる。周りを土坊主の指で囲まれた。逃げられない。
「しまっ……」
その時、振り返るとかなえの姿が見えた。知世は、かなえの竹刀に力を込め、光る剣を与える。
「指ぐらいなら!」
かなえの全力の一振りで、土坊主の指が砕けた。知世は砕けた場所から飛び出でる。
「すずさん、お願いします」
知世とかなえがグランドから下がると、今度はすずがグランドを走りだし、端にある大きな木へ向かって走りだした。
土坊主は、すずを捉えようとして腕や顔を出すが、すずを捉えるには至らない。
一方、土坊主の頭を行き来している晶紀も、同じ端にある大きな木に向かっていた。
「すず、大丈夫だろうか」
「木登りは得意なんですよね」
「確かに得意だったけど、今も出来るか……」
「信じましょう」
知世、小泉、新月、阿部、山口、かなえ、石原は、舗装された通路を通って、すずが向かう大きな木に先回りする。
大きな木に登りながら、土坊主を煽り、地上に誘導する。それがすずの作戦だった。五体全部が地上に上がってくれば、石原の力で土坊主の動きを止め、弱点のアキレス腱を叩けばいい。作戦がバレたら通用しないだろう。一回で成功させねばならない。
すずの様子を見ながら走る七人。
石原は、不安気につぶやく。
「今までより、広い範囲の敵を止めなきゃだよね」
知世は勇気づけるように言う。
「大丈夫よ、きっとできるから」
かなえがスピードを落として石原と知世に並ぶと言った。
「遠くて止めきれないこところは私が走っていくから大丈夫。止めれる範囲をしっかり止めればいいの」
「ありがとう」




