表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

22




 綾先生が人差し指と親指で何かを摘まむような仕草をしたことが、頭から離れなかった。

 晶紀は一度、見たことがあった。

 その時は、何かを摘まんでいた。そんなに昔のことではない。たしか、あれは……

 晶紀は思い出した。そして、神楽鈴を取り戻すのに、すべきことが分かった。

 遠くにあるバックパック。遠くにあるせいで、晶紀の力は弱まってしまう。だから神楽鈴そのものを動かそうとしても動かない、しかし、鈴一つであればどうだ。それなら動かせる。鈴を取り外せば……

 晶紀は目を閉じ、バックパックを思い描いた。

 その中にある神楽鈴、その一つの鈴。力が届きそうな、一番こっちに近い鈴。

 強くイメージし、精神を集中させる。

 つまんで、取り外すような力。

 取れろ、取れろ、取れろ!

 微かに、鈴の音がして、バックパックの口から鈴が転がり落ちた。

 晶紀は式神『三倉(みくら)聖人(あきと)』を呼び出した。鈴は、アッという間に黒く膨らんだかと思うと、三倉に姿を変えた。

 三倉は足元にあるバックパックから神楽鈴を取り出す。

「!」

 見ると、綾先生が三倉をガン見していた。

 気づかれた。綾先生に気取られたことで、晶紀は神楽鈴を投げさせた。派手に鈴の音がして、神楽鈴が空中に弧を描いて飛んでくる。

 これを児玉先生に気付かれたらアウトだ。反撃のチャンスはここしかないのに……

 祈りながら十字架に縛られている手の平を広げる。

 回転しながら、神楽鈴が晶紀の手に収まった。

 晶紀は思い切り、神楽鈴に力を込める。

 晶紀の全身に光が溢れ、手首足首の紐が解ける。

 昭島カレンの紐を解くのは、三倉に任せた。

 晶紀は正面に突き出した手を、左右に開いて神楽鈴の光る剣を抜いた。

 そして、振りかぶると、そのまま児玉先生に向かって走った。

 晶紀には計算があった。綾先生がこちら側にいること。その為、児玉先生より大きい綾先生が死角を作る。この死角を使って近づき、不意打ちを仕掛ける。

 綾先生も児玉先生も、昇降口の方の戦いに注目していて、こちらには気付いていない。このまま二人を同時に叩けば……

「!」

 晶紀の振り下ろした神楽鈴の剣が、土坊主の手に止められた。

 神楽鈴の剣を掴もうとする指に気付き、晶紀は慌てて神楽鈴を引き戻す。

 綾先生の影から、ゆっくりと児玉先生が出てくると、晶紀に向かい、笑った。

「気が付かないとでも思ったのか」

「……」

 晶紀は、構わず神楽鈴を振り下ろす。 

 児玉先生が、綾先生を払いのけ、差し棒を振った。

 差し棒の先に、神楽鈴と同じように、光る剣が伸び、晶紀の剣を受け止めた。

 紫色の、淀んだ光。

 その光の周囲は、空気が陽炎のように歪んでいる。

 剣は交わったまま、ビクとも動かない。 

 児玉先生は、余裕の笑みを浮かべる。

 土坊主の拳が振り下ろされる。

 晶紀は飛び退き、拳を避けた。

 まずこいつから倒さないと。晶紀は考えた。自分より大きい敵。さっき手で受け止められたことを考えれば、剣の直接攻撃では勝てないだろう。とすれば、やることは一つだった。

 晶紀は神楽鈴を振り上げてから、土坊主に向けた。

 神楽鈴から、真白い光、電荷が飛び出し、雷となって土坊主を直撃した。

 こちらに向けている腕から電荷が入り、土坊主の全身に雷が走った。

「バカめ」

 と、児玉先生の声が聞こえた気がしたが、晶紀は構わず雷の攻撃を続ける。

 崩れ落ちろ! そう思いながら、晶紀は握った神楽鈴に精神を集中した。

 流れ込む電荷が増えると、土坊主に変化が現れた。

「!」

 晶紀は雷を止めた。

 土坊主の動きこそ止まったものの、ダメージを与えることが出来なかったのだ、しかも悪いことに……

「土坊主は雷を受けると巨大化するのだ。打撃は効かぬ、雷を受ければ巨大化するのでは、お前に倒す(すべ)はないだろう」

 目の前には、校舎の三階から屋上を超えるほどに大きくなった土坊主が手を組んで振り上げた。

 本当に倒す方法がないのだろうか。晶紀は考えた。やれることを組み合わせてみるしかない。打撃も、手に効かなくとも体のどこかに弱いところがあるかもしれない。

 土坊主の組んだ手が振り下ろされる。

 ギリギリの距離を下がって避けると晶紀は、手を踏み、腕を蹴って、土坊主の頭へ跳んだ。

 渾身の力で神楽鈴の剣を土坊主の頭に打ち下ろす。

 空中で前転しながら、土坊主の背中側へ降りた。

 土坊主の動きが止まった。

 晶紀はやったか、と思うが、横で見ている児玉が笑っているのをみて、攻撃が効かなかったと知る。

 ゆっくりと土坊主は後ろにいる晶紀の方を振り返る。

「どれだけ飛び跳ねようとお前の打撃でなんとかなる土坊主ではないわ」

 差し棒で手のひらを叩きながら、児玉先生が言った。

 確かに打撃で壊せる硬さではない。しかし、一体は倒せている。小泉と新月はどうやって土坊主を倒したのだ。残念ながら、十字架に縛られていて晶紀はその瞬間を見てはない。だが、確かにグランドの隅に、土坊主の形をした土砂が残っている。つまり土坊主は無敵ではない。倒せるはずなのだ。

 ようやく晶紀の方に向き直った土坊主が、足を振り上げてくる。

 晶紀は高く上げられた足に気を取られたが、視野の端で綾先生が大きく手を動かすのが見えた。

 児玉先生の後ろで、綾先生は晶紀に向かって手を大きく振っていた。

 なんだろう。また綾先生が何かを伝えようとしているのか。大きく手を振ることに何の意味があるのだろう。

 考えている間に、土坊主の足が、晶紀の頭に振り下ろされた。

 晶紀はその足に向かって走った。低い姿勢で、土坊主の股の下を抜け、再び背後を取った。

 神楽鈴の剣を振り上げ、土坊主の背中を叩きに向かうと、またしても綾先生が手を振る。

 その時、綾先生の前にいる児玉先生の顔が目に入った。

 何か、イラついたような表情。さっきまでの余裕の表情とは違う。背後、土坊主の背後を取ることに何か意味があるのだろうか。

 晶紀は跳び上がり、土坊主の背中に向けて神楽鈴を振り下ろす。

 同時に児玉先生の顔を見る。もう表情は、余裕がある状態に戻っていた。

 晶紀は土坊主の背中を蹴って、空中で後回転をすると着地した。

 背中側に何かある。

 背中そのものを叩こうとした時の表情からすると、背中が弱点ということではない。晶紀は土坊主の背後を取るように、細かく移動し、回り込む。

 すると業を煮やして児玉先生自身が、晶紀に向かってきた。

 二対一で戦っては、分が悪い。晶紀は児玉先生に出来るだけ近づき、土坊主に攻撃させない方法を選んだ。

 児玉先生もそれは理解していて、差し棒を使って、なるべく距離を取る戦い方を仕掛ける。

 晶紀は仕方なく距離を取る。距離を取れば児玉先生の攻撃は届かない。しかし、土坊主の背後を取ろうとすると、そこに児玉先生が待っていた。

「!」

 やはり後ろ側になにか弱点がある。晶紀は確信した。

 児玉先生は、差し棒を最大に伸ばし、さらに目いっぱい腕も伸ばして、晶紀を突いてくる。土坊主がゆっくりと向きを変えてくるせいで、ずっとその場にはいれない。

 何度も同じような攻防を繰り返している内、晶紀は児玉先生のその『突き』の動きが読めるようになった。

 土坊主の攻撃を避けて、背後に向かうと児玉先生の差し棒の突きを、神楽鈴の剣で弾いた。かなえから教わった技術が、身についてきたと晶紀は思った。

 差し棒を右に、左に弾き、間合いを詰めた。さらに押し込むと、晶紀と児玉は土坊主の真後ろに回り込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ