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 晶紀は雷が落ちた、後ろのグランドを見ようと必死だった。

 声は聞こえたが、佐倉達の姿までは見えなかった。一方で、児玉が作り出した『土坊主』の姿は、大きいせいか視野に入る。あんなものが襲ってきたら、ひとたまりもない。早く助けなければ…… 晶紀は、気持ちばかり焦っていた。

 神楽鈴を早く手に入れなければ。

 離れたところにあるバックパックに向かって意識を集中する。

 また少しバックパックのチャックが開いた。この調子じゃ、いつまでも神楽鈴に届かない。何か、もっと違う方法は……

「?」

 晶紀は綾先生が、自分を見ていることに気が付いた。

 素知らぬ表情でごまかすと、綾先生はこめかみ指を当て『頭を使え』と言わんばかりのポーズをした。 

 『頭を使え?』とはどういう事だろう。晶紀は考えながら、綾先生をじっと見ていると、今度は人差し指と親指で小さな粒をつまむような仕草をした。そして、両手を合わせた状態から、大きく横に広げるように動かす。

 綾先生はもしかしたら味方なのではないか。晶紀は考えていた。粒をつまむような恰好から、小さいものが大きくなる手の動き。どういうことだ。それが私となにか関係しているのか?

 何か、うっすらと見え始めているものがあったが、具体的な考えにまとまらない。

 そうしているうち、児玉先生が『土坊主』に指示をする。

「こないなら、こっちからいくぞ」

 差し棒を昇降口方向に振り、声を掛ける。

「それ『土坊主』、連中を踏みつぶしてしまえ」

 土で出来た体を揺らしながら、土坊主が知世たちに向かって進行する。

「よし。知世、一緒に来てくれ」

「はい」

 かなえが竹刀を構え、知世はその後ろについた。

「まずはさぐりを入れる」

 かなえの間合いにはまだ遠い。

 しかし、体の大きい『土坊主』は、間合いも大きい。かなえが近づく前に、その大きな足をふり込んできた。

 かなえは、横に避けたが、反応が遅かった知世は、間に合わず後ろに飛んで避けた。

「知世!」

 ゴロゴロとグランドを転がり、校庭の端で止まると知世は膝立ちし、言う。

「自分で飛んだだけですから、大丈夫です」

 知世の声を聞きながら、かなえは土坊主のすねを竹刀で叩く。

 何もない地面をたたくのと同様で、土坊主は何も反応しない。それどころか、拳を振り下ろしてきた。

 かなえは冷静にそれをかわすと、竹刀で小手を叩きにいった。

「!」

 竹刀を土坊主に掴まれてしまい、竹刀ごと放り投げられる。

 かなえは空中で後転すると着地した。

 そこに別の土坊主が、近づいてくる。

「かなえ、もどるんだ。昇降口まで戻れ」

 佐倉が言うと、かなえは周りを見ながら戻ってきた。

 幸いなことに、土坊主の移動速度は、速くなかった。

 土坊主達は、かなえを見失って、グランドを当てもなく歩いているように見える。

「足も遅いし、目もあまり良くないみたいね」

「けど、ゴーレムじゃないなら、どうやって壊すの? 弱点はないの?」

「だからそれを話し合ってるんだろ」

 仲井すずが、ゴーレムの足運びを見ながら、言った。

「阿部、リボンであいつの足を引っかけて転ばせられないか?」

「見た通り、体はかなり重いんじゃない? こっちが引っ張られちゃうかも」

「とりあえず、ヨーヨーのワイヤーで試してみるか」

 小泉はヨーヨーを持って昇降口を飛び出す。

 土坊主が一体、小泉を見つけて追いかけていく。

 隠れながら外を見ている石原は、阿部に言った。

「土坊主同士のコミュニケーションもないみたい」

「うまくやれば一体ずつ倒せるね」

「……」

 佐倉は昇降口の中からじっと見つめたまま、何も語らなかった。

 言葉を待っていた新月は、昇降口を飛び出していく。

「メアリー様の様子を見てきます」

 小泉は、グランドの周りに植えてある並木を縫うように走っていた。

 新月は並木の端を一直線に走ってそれを追った。

 並木から飛び出すと姿が見えるのか、土坊主は小泉がグランド側に出ると動き、並木の奥に引っ込むと動きを止めた。

 小泉が横目で新月の姿を確認し、新月もそのことに気付いた。

 新月は、走る方向を変え、グランドに出た。

 すぐに土坊主に見つかる。

 土坊主は肩をゆすりながら、新月に近づく。

 新月は小泉を気取(けど)られないよう、土坊主の足の動きだけを見て、間合いを保つ。

 小泉は、並木の裏を走りながら、新月を追う土坊主の足を狙っていた。

 単純に足に掛けて引っ張るだけでは、重量と力の関係で負けるのは明確だった。

 新月はじりじりと並木の方へ後退していた。

 土坊主はじれたように拳を振り下ろす。

 新月は、冷静にさがってそれをかわした。

 小泉はチャンスと判断した。うまいぞ新月! と心の中で叫ぶ。その瞬間、並木の影からヨーヨーが投げられる。

 土坊主の足にヨーヨーのボディ、リムの部分が触れると、ヨーヨーは生きているかのように足の周りを走りだす。

 何度か回り、しっかりワイヤーが巻き付くと、小泉はワイヤーを並木に掛けて引っ張る。

 新月はその間も、ワザと土坊主の間合いに入って、陽動する。

 ワイヤーが、土坊主の強い力で引っ張られる。

 小泉は、ワイヤーを両手で持ち、並木に足を踏ん張って、ワイヤーを保つ。

「負けるかぁ!」

 叫び声を上げると、小泉の身体から小さな粒子が()ぜた。

 粒子はワイヤーを伝わり、土坊主の足に至る。

 土坊主は、動きが止まって、そのまま新月の方へ倒れこんだ。

「新月!」

 倒れ込むと同時に土坊主は粉々に砕けた。上がる土煙が、グランドを照らすナイター照明に浮かび上がる。

「新月!」

 姿が見えない。小泉はヨーヨーを手放し、並木を飛び出して新月を探す。

 土坊主の体の形に砕けた土が盛られている。小泉は、必死に土を手でかき出す。

「新月、新月、しんげつ…… しんげつ」

 小泉の手が、土で真っ黒くなる。爪の間に土が入った。そんなことは重要ではない。必死に土を掘り返す。

「新月、新月、しんげつ」

 小泉の手に、温かいものが触れた。動く。少し掘り返すと、オープンフィンガーのグローブが見える。

「新月!」

 新月自身も、体を動かしながら、土をどけ始めた。

 土の中から、新月の顔が現れる。

「メアリー様……」

「しゃべるな、いま掘り起こすから」

 小泉は、ハッとして周りを見回した。

 後六体の『土坊主』はどこにいる? この場を襲われたら、新月が危ない。しかし、周囲に『土坊主』の姿は居なかった。昇降口の方を見ると、木村かなえと石原美波、阿部真琴と宝仙寺知世がそれぞれペアを組んで『土坊主』と戦っていた。

 四人が暴れているおかげで、小泉と新月の方に残りの『土坊主』も来ないのだ。

「新月、悪いがあまり休んでいる時間は無いみたいだぞ」

 土のなかで新月はうなずいた。

 小泉と、新月自身の力で土の中から這い出ると、二人は四人の応援に向かった。




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