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 暗い校庭の真ん中。

 晶紀とカレンは、十字架に縛られていた。

 カレンは気を失ったままであり、晶紀は児玉、綾の両先生が見せる映像を見ていた。

 表面上は。

 晶紀の一番の関心事は、少し離れたところにあるバックパックだった。ただのバックパックではない。奪われた晶紀の神楽鈴が入っているのだ。

 それさえ手に入れば。

 この十字架でさえ武器として、児玉を、綾を倒すのに。晶紀はそう考えていた。何か見えない力を働かせ、神楽鈴を宙に浮かせ、自分の手元に戻したい。そんなことを考えていた。

 一方、児玉と綾は、空間に映し出した映像に夢中だった。

 空間には、『鉄鼠』という鼠が変化した『鼠男』と、晶紀の仲間である佐倉達とが、教室内で戦う様子が映し出されている。

 鼠男は、小泉メアリーと新月鏡水の二人を先頭不能とし、戦かう能力を持った最後の一人、阿部真琴を倒す寸前、阿部の操るリボンを首に巻かれてしまったのだった。

「まずい、首にリボンを巻き付けられたぞ」

 児玉先生が、言いながら綾先生の尻を蹴る。

 そのまま阿部がリボンを引けば、首が締まって『鼠男』が死ぬ。

「リボンを外すんだ!」

 綾先生も夢中になって叫ぶ、しかし鼠男にはその言葉は届かない。

 無常にも首に巻きつけられたリボンは締まっていき、首から上、大きな鼠の形をした頭が『ごろり』と床に落ちていく。

「あーーー!」

 児玉先生は綾先生の胸倉をつかんで、揺すった。

 綾先生は、映像をしっかり見て、言った。

「大丈夫でした。間に合いました」

「何を言っている?」

 綾先生は、児玉先生の手を外し、映像を説明した。

「ほら、ここ、リボンで切られた首の断面」

「鼠がいるな」

「そうです。この『鼠男』を構成する元の『鉄鼠』です。本当に首を斬られたのなら、ここはただ真っすぐな肌色になっていた」

「もっとはっきり言え」

「切られたのではなく、鼠達の意思で分離したんです」

 綾先生の説明を、児玉先生はまだ理解していないようだった。

「……だから?」

「やられたわけじゃない」

「じゃあ、早く反撃しなさい」

「もちろんです」

 綾先生はブツブツと口で呪文を唱えながら、指を組み合わせる。

 すると、床に落ちた大きな灰色の鼠が小さな『鉄鼠』一匹一匹に分解された。

 小さくなった鼠達は、元の『鼠男』の体を駆け上っていく。

 そして再び首の上で組み上がると、各々の鼠の肌が溶けるように一体化し、灰色の大きな鼠の形を成した。

「行けっ!」

 児玉先生が言うと『鼠男』は再び股間を弄り始めた。

「……」

 児玉は映像を見て言葉失うと、綾先生の頭に手を乗せた。

「どうしましたか、児玉先生」

 頭の上に乗せた手を、握り込んで、グリグリ押し付ける。

「痛い痛い……」

「なんでこの鼠の攻撃は単調なんだ。もっとましな攻撃はないのか」

「反撃できなくすれば、後はなんとでもなりますので」

 綾先生はそう反論したが、映像を見つめる表情は不安げだった。

 児玉先生は理解しているかどうかわからないが、男と言うのはそうなんども『アレ』を射出出来ないのだ。綾先生は考える。もうすでにこの短時間の間に四回している。自然と発射されただけではなく、自らの手で絞りだしての四回だ。さすがに溜める時間が必要ではないのか。

 綾先生が心配した通り、映像に映る『鼠男』の股間は元気がない。

「まずい」

 新しい刺激でもあれば別だが、このままではリボンの女に倒されてしまう。綾先生は、後に残した鼠達に新しい本を持ってくるよう、指を組み合わせ、呪文を読み始めた。

 が、反応がおかしい。綾先生は手を止め、映像を見つめる。

「……」

 綾先生の様子に気付いた児玉が問う。

「何があった」

「後続の『鉄鼠』からの反応がありません」

「やられたとでもいうのか」

 綾先生は知っていた。後続の鼠達は、大蛇に変化(へんげ)して晶紀を追ってきた連中の別部隊と戦っていた。しかし、児玉にそれを伝えなかった。

「わかりません。急がせます」

 綾先生は、全く意味のない指の組み合わせと、意味のない呪文を唱えた。

 児玉先生は綾先生には目もくれず、表示されている鼠男に向かって叱咤していた。




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