幼馴染に振られて気持ちが沈んでいた僕は妹に慰められて、そして妹が作ってくれたシチューを食べて泣いた
「ごめん。直弘は、幼馴染で、恋してるってわけじゃなくて……もう私彼氏いるし」
「そう、なんだな、ごめん」
「ううん、私も、ごめん」
屋上でも体育倉庫の裏でもなく、はたまた観覧車の上でも夜景が見える橋の上でもなく。
なんの変哲もない、帰り道で僕は告白した。
だけどそれは、僕たちの関係は、もうこの日常的な帰り道のようなまんまだということを表していたのかもしれない。
ま、今からそんなこと振り返ってももう遅いんだけど。
「お兄ちゃん……?」
「おお、ただいま。今帰ったところ?」
家に帰ると、妹がちょうど玄関で靴を脱いでいるところだった。
「そうだよ。あれ!お兄ちゃん……? なんか元気なさすぎない?」
「まあそう見えるかもしれないけど、誰でもそういう日があるってだけで特に問題ない」
「そんなわけないよお兄ちゃん! 正直お兄ちゃんはダメダメだけど、そんなにダメダメでも今まで元気だっだんだから、全然元気がないって相当おかしい!」
「そ、そうか」
なかなか僕のことをよく知っている妹らしい言葉だ。よく知りすぎてるせいでかなりはっきり言われて若干刺さったけど、相対的に感じないほどだ。
「何があったの?」
「幼馴染に振られた男になってしまったってだけだよ、まあ少したったら元気になるから待っててな」
「……」
僕はとすとすと階段を上がって二階に行くと、自分の部屋に入った。
「お兄ちゃん! ご飯食べよ」
「あ、今行く」
食欲があるわけではなかったが、妹が作ってくれたご飯はすぐに食べに行かないとダメだ。作ってくれた妹に失礼だからだ。
「今日はシチューだよお兄ちゃん」
「おお、美味しそうだな」
そう答えながら僕は思った。
「今日は唐揚げつくるよ!」そう妹は今日の朝に言っていた。
唐揚げよりもお腹に入りやすいものにメニューを変更してくれたのかもしれない。
いやそうだ。
「ありがとう、ほんとに」
「ううん、だって今日の夕食当番は私だから当然でしょ」
妹はさらっとそういう。
そして続けた。
「お兄ちゃん、どんまい。幼馴染さんも振るなんてもったいないね」
「いや、今思えば当たり前なんだよなあ」
「どうして?」
食器をテーブルに運び始める。妹と僕は会話が一旦途切れた。
「いただきます」
「いただきます」
「……それでさ、いや、さっき言ってたじゃん、お兄ちゃんはダメダメだってさ。その通りなんだけど。なんかそれでも幼馴染には好かれてて、何にも問題ないと思ってたんだよな。なんとなく。ダメダメなところもまたいいとかさ、そんなふうに思ってくれてるんじゃないかとかね」
実際はそんなはずはないのだ。
なぜか勝手に調子に乗っていた僕がいただけだ。
「たしかにお兄ちゃんのダメダメなところがいいところだとは思わないね」
「だよな」
「でも、私はお兄ちゃんが元気じゃないとやだな。というか、お兄ちゃんは元気だからさ、いるだけで励まされるし。私が励ます側なんて何年ぶりだろうね」
「それは、わからんな、でもそんなに励ましてなんて……」
「まあお兄ちゃんはそんなつもりはないかもね。でもさ、人からはそう見えるかもしれないでしょ。とにかく元気なところがいいところだって私は思うし」
「……ありがと」
妹はすごい。このフォローのしようがない状況で、僕が勝手に調子に乗ってダメダメでも無駄にポジティブだったことを、「いつも元気でいるから励まされる」というふうに捉えてくれているのだ。
「お兄ちゃん、シチュー食べてみてよ。自信作だから」
「おお、わかった」
僕はシチューを食べた。
なんだか口の中で色々とろけて、あったかい。
代わりにさらさらの涙が出てきた。
「お兄ちゃん、泣いてる、珍しい……やっぱり振られたのがショックだったんだね」
妹の心配そうな声が聞こえた。
いや、でも違う。
僕が泣いているのは振られて悲しいからではない。
妹の優しさを感じすぎて、泣いているのだ。
だから僕は、明日までには絶対元気になっている、いやならなきゃだめだ。
僕はもう一口、シチューを口に入れてつぶやいた。
「すごく、おいしい」
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