4Bの鉛筆。
※本当に散文です
濃いグリーンのペイント。デフォルメされた昆虫の金の箔押し。ぷんと香る、おいしそうな木の香り。
思い出話をひとつしよう。
【4Bの鉛筆】
好きだったか嫌いだったかはとんと覚えていないが、美術のコマに数分区切って人間を描く時間があった。
30余人ほどの内、誰か彼かが忘れて鉛筆を借りたり削り機を使ったりする。バラバラと立っていた数人が席に戻れば、それは開始される。
モデル役が1人、教壇の上に立つ。
「それでは始め」
開始の合図。削り際に親指を当て、それぞれが等身を見る。
じっと見る人、もう描き始める人、ちらちらと頭が動くのが見えた。
クロッキー帳にくろぐろとノびる、やわらかい鉛線。
ブレザーの襟、顔輪郭を描く。あまり良くは見えないので、多分こんな感じ。
肩、胴を描く。何だか変だけど、先に進めよう。
腕を描く。これは後ろに回していたり横にあったり人によってまちまち。次。
スカート、ズボン。これは難題だ。ズボンならまだ誤魔化しやすいのに、スカートは足の形があるのである。分からないのでなんとなくで飛ばして次へ。
頭。難しい。先に描いた輪郭も何やら気に入らないし、髪型なんてちっとも分からない。どうなってんだその頭。
「────終わりです」
また時間切れだ。実の所を言うと、この時間に描ききれたことが無いしなんなら、このデッサンめいた何かの前回の反省も真剣に書いたことは無い。何も分からないのに何を反省しろというのか。
前の人が振り向いた。クロッキー帳が回っていくその先で、先生がその日の授業内容について喋っている。
クロッキー帳に並ぶクラスメイトの顔が描かれる事は、ついぞ無かった。
きゅうりの漬け物みたいで美味しそうでした(何の話やねん)