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03

 真面目に過ごすようになってから10日ほど経過した。

 その間にテスト週間もテスト本番も終了し、今日は返却される日。

 そして返却された結果は、


「ふっ、私の勝ちー!」


 このクラスの誰よりも高得点を叩き出し、あの3人及び鏡水さんに勝った。


「約束は約束よ……きちんと守るわ」

「うん、よろしくね」


 私は鏡水さんのところに行く。

 彼女はテスト用紙を少しだけ強く握りしめ、「おめでとうございます」と笑顔で言ってくれた。


「ふふ、後は冬休みまでゆっくり過ごすだけだね」

「はい、そうですね」


 最近はちょこっと楽しかったのにもう終わりか。

 もちろん、年が明ければ普通に登校することはできるけど、どうせならもう少しくらいこの雰囲気を味わっておきたかった。


「ところで、乙梨さんはクリスマスどうするんですか?」

「うーん、今年は旭が少年野球チームの方で集まるみたいだから、そっちに両親も行くみたいでひとりかな」


 くぅ、旭は小学6年生で来年から中学の部活が始まるから最後として参加したくなる気持ちは分かるけど、お姉ちゃんより監督や他の子を選ぶなんてお姉ちゃん悲しいぞ……。


「それならお、乙梨さんのお家にお邪魔させてもらってもいいですか?」

「え、逆に鏡水さんはいいの?」


 私としては願ったり叶ったりだ。

 基本的に寂しさを感じない私ではあるが、さすがにクリスマスでひとりは結構痛いところを突かれた気分になる。


「はい、家はクリスマスとかでイベントやらないので」

「それなら来なよ、ちょっとケーキとか買ってさ一緒に過ごそ!」

「はいっ」


 席に戻ると朔弥ちゃんが机の端っこに腰掛ける。


「あのさー、私もクリスマス、暇、なんだけど?」

「なんでそんなに区切るの? 来たいなら来ればいいのでは?」


 とにかくその行儀の悪いのやめてほしい。

 けれど美少女のお尻が机にと考えると少しだけテンションが上がった。

 あとはこの子、おっぱいが限りなく大きいので目の保養になる。

 だから少しの面倒臭さくらい気づかなかったことにしてあげよう。


「いいの!? えっ、雛子ちゃんのくせに『えー、来なくていいよ』とか言わないんで!?」

「はぁ……そんなこと言ったら絶対に拗ねるじゃん、来ればいいよ。ま、お金は出してもらうし、ごはんも提供していただくけどね」

「それなら任せて!」


 さて、これで寂しいクリスマスを過ごすこともなくなった。

 うーむ、だけど私が誰かを頼ろうとするなんて有りえないことだ。

 そういう点だけでは実に中途半端な気持ちになる。


「あ、プレゼントとか買った方がいいよね?」

「え、私センスないからそういうのはいいかな」

「えー、いつもあんな自信満々なくせにそういう時だけはそんな弱々になっちゃうんだ」


 しょうがない、旭くらいにしかプレゼントしたことないんだから。

 ちなみに、旭は意外とカードゲームも好きだからレアカードばかりのデッキをプレゼントしてみた結果、ちゃんと喜んでくれた。

 それ以降毎年色別のデッキをプレゼントしているため、何気に部屋の中にはたくさんのカードがある。

 だからだろうか、執拗に「お姉ちゃんもやろうよ!」と誘ってくるのは少し困るところではあった。


「あのさ、あんまり偉そうにしないでよ朔弥ちゃん。そういうのうざい」

「はぁ? そんなこと言ったら平気で友達じゃないとか言う雛子ちゃんの方がうざいよ!」

「はぁ……少しでも鏡水さんの謙虚さを見習ってほしいね」


 なんでこの子は大して仲のいいわけでもないのに一緒にいて文句ばっかりしか言わないんだろう。

 そして誘ってあげないと拗ねるし、誘ってあげても拗ねる。

 ここまで大変な相手って人生の中で初めて見たかもしれない。

 

「いやいやっ、鏡水さんだって本当は言いたいこといっぱいあるはずなんだよ、なんだよ、勝手に利用するとか悪じゃない?」

「はぁ!? そんなこと言ったら誘ってほしいくせに直接言わないところが朔弥ちゃんのださいところじゃん! なにさっ、誘ってもらい待ちのくせに!」

「ちょっと、うるさいわよふたりとも」

「「いま大事なところなのっ、邪魔しないで!」」


 ここはもう更に上の人物を呼ぶしかない。

 私はこれだけ叫んでいても友達と仲良く談笑中だった鏡水さんの手を取って朔弥ちゃんに押し付ける。


「鏡水さんを見習いなよ!」

「そうやって鏡水さんを利用しようとするところがずるい!」

「あのさあ!」

「こっちもさあ!」

「「ふたりともうるさい、教室から出ていろ」」

「「え、し、紫藤先生の指導……」」


 仕方ないので廊下に出る。

 鏡水さんの手はきちんと掴んだままなので道連れに。


「うぅ……なんで私もなんですか……」

「それは朔弥ちゃんが悪い!」「それは雛子ちゃんが悪い!」

「「なにおー!?」」

「とにかく黙れ、鏡水は教室に戻っていいぞ」

「はい……」


 紫藤先生はなにもガミガミと意味のないところまで怒ったりはしない。

 あそこで鏡水さんのことを疑わずに戻したのも好評価だ。


「クリスマス、お前らどこで過ごす?」

「それは私の家です、子どもだけのクリスマスパーティ」


 食べ物だって出来合いのものを買ってきて食べるだけだけど。


「寂しいな、気になる男のひとりでもいないのか?」

「ここは女子校ですし、そもそも私はどちらかと言うと女の子の方が好きです。ま、いまのところは誰にも興味を抱けていないですけど」

「ふっ、昔の同級生にお前のような人間がいたよ」


 へえ、それは意外。

 先生はそもそも「恋愛になど微塵も興味はないが」なんて言ってそうだ。

 けれど父みたいに出逢えば考え方が変わるかもしれない。

 先生がもし変わったら、ふふ、可愛くなりそうだ。


「ま、ふたりともテストの点数は問題ないし出席だってしっかりしている、羽目を外さない程度に楽しむといい。せっかく高校に入って初めてのクリスマスなのだからな」

「紫藤先生はどう過ごすんですか?」

「そうだな、実家に帰ってゆっくりするよ。その後も28日までは仕事があるがな」


 なんだ、彼氏さんとかはいなかったらしい。

 いや、もしかしたらその同級生の話は自分で、家に帰ったら可愛い女の子が待ってくれているのでは?

 そう考えたらかなり萌えだし、柄にもなく興味が出ちゃう。


「ほー、大変ですね教師って」

「仕事だからな。なにも私達だけというわけでもない、それにもう何年も続けているから慣れたよ。ただ、乙梨みたいに面倒くさい人間や、鏡水みたいに自分を全面的に出していけない人間を見ていると、どう対応すればいいのかって悩む時があるがな。まあいい、教室に戻れ」

「はーい」


 先生は最後にちくりとこちらを言葉で刺してから、職員室の方へと歩いていった。


「朔弥ちゃん戻ろ」

「ねえ」

「うん?」


 おっと、やけに真面目な顔をしていらっしゃる。


「私にも興味ないの?」

「え、まあ、そうかもね。でも、気にしなくていいよ、さっきも言ったけど基本的に興味を示さないから。あ、そのお胸には興味を示しているけどね」


 別に傷つくことではない。

 というかいままで一緒にいて分からなかったんだって気持ちだった。


「どうしたら興味を持ってくれる?」

「うーん、じゃあそのお胸揉ませて――」

「分かった、雛子ちゃんならいいよ」

「嘘だよ、意識して変わるものじゃないよ、教室戻ろ?」


 動く気配が感じられなかったのでひとりで戻る。

 ――私が興味を抱かない理由は、私に誰も興味を抱かないからだ。




「じゃ、行ってきます」

「りょうかーい、楽しんできてね旭」

「うん」


 クリスマスがやってきた。

 予定通り旭達は出かけ、私だけが家に残ることに。


「ふぅ、良かった、予定通りで」


 そうしないと鏡水さんがきっと緊張する。

 おまけにあれ以降、朔弥ちゃんの様子がおかしいので他の人がいる状況より対応がマシだろう。

 だって「雛子がなにかしたんだろ」って絶対に父から文句を言われる。

 旭の前で悪印象であっていたくないのだ。


「ケーキは買ってきたし、私はこのまま待っていればいいよね」


 と、待ち続けて早3時間、既に20時を越えているがふたりは現れない。


「ただいまー」

「あ、おかえり旭」


 21時も越えて旭達が帰ってきてしまった。


「あれ、お友達は来てないの?」

「あー……うん、一旦帰っててさ。だからちょっと外で待ってるね」


 鏡水さんはインターホンを鳴らすの苦手とかって理由で外にいるかもしれないし、朔弥ちゃんだってなんだかんだ言って私のところに来ていた子だ、待っていれば来てくれるはず。


「暖かくしてね」

「うん」


 なるべく着込んで外で待つ。

 それでも寒いから時々ホットミルクを飲んだり、コーヒーを飲んだりしていたが――午前0時をまわってしまった。

 既にクリスマスではないしこの時間から来るような子はいないので屋内に戻って寝ることに。


「うぅ……」


 しかしその後、26、27、28日と大風邪を引いて貴重な冬休みを無駄に消費し、29と30は病み上がりの体で大掃除をする羽目になった。

 そしてとうとう年内最後の日。


「お姉ちゃんは蕎麦どれくらい食べる?」

「んー、これくらいかな」

「じゃあ僕はこれくらい!」

「おー、いっぱい食べるね旭は」


 年が明けて少し経てばもう中学生か。

 私も高校2年生になるわけだし、時間が経つのはいつも早い気がする。


「雛子、お友達が来たわよ?」

「ん? こんな時間に?」


 まあ、クリスマスの日の時間に比べればマシではあるが。


「あ、あのっ」

「あ、鏡水さん、どうしたのこんな時間に」


 年内最後の挨拶をするような関係でもないし……本当になにしに来たんだろうか。


「く、クリス――」

「あ、それ? いいよ、結局ケーキだって食べたしね」


 寝込んでいる間に悪くなっちゃいそうだから旭にあげたんだけど。

 ふむ、これは申し訳ないことをしてしまったかな。

 服の裾を握りしめてこちらの顔を見ようとしないということは、怒られるんじゃないかって恐れているということだ。

 でも、なんらかの予定ができることだってあるだろう、私はいちいちそれを責めたりしない。

 責めるのだとしたら馬鹿みたいに外で待つことを選択した自分だ。


「それで終わり? 蕎麦が伸びちゃうからもういいかな?」

「こ、この後、神社に行きません……か?」

「神社か、旭も行くかな……とりあえず、それなら上がって待っててくれる?」

「は、はい、お邪魔します」


 とにかくいまは蕎麦を食べることが優先だ。


「ぷはぁ! ごちそうさまでした!」

「旭、口の横にネギ付いてるよ」

「あ、本当だ……えへへ、ありがと!」

「どういたしまして。あ。旭は神社行く?」

「うん、少年野球チームの子と」


 そうか、今年はなんでもかんでもそちらが優先なんだな。

 私にとって平穏な生活が1番なように、旭にとってはみんなと楽しく、そして一生懸命に野球をするのが1番と。

 なんだか寂しい、昔は「ずっとお姉ちゃんといる!」なんて言ってくれていたのに……。


「お姉ちゃんは寂しいよ旭……」

「あっ! 別にお姉ちゃんを仲間外れにしたいとかじゃないから!」

「ふふ、分かってるよ、気をつけて行ってきなよ?」

「うん!」


 待たせていることを思い出した私は早く食べて廊下に出る。


「あれ、部屋に行ってなかったの?」

「…………」


 この様子を見られると面倒なので部屋へと連れて行く。

 自分から誘ってきたんだからもっと堂々としていてほしいものだ。

 紫藤先生の言いたいことが分かった気がした。


「……青葉さんと仲良くしていますか?」

「朔弥ちゃんと? うん、まあ普通にね」


 なんで嘘を重ねているんだろうか私は。

 正直に言えばいいんだ、なんで誘ったくせにクリスマスの時来なかったんだ、どの面下げて今日この場所に来た上で誘ってきたのか、と。


「朔弥ちゃんと仲良くしたいならID教えるよ?」

「もう教えてもらいました」

「あ、そう」


 ああいうことがあるから誰かと過ごすのって嫌なんだ。

 少しでも興味を示したら裏切られる、興味を失くすとやって来る。

 本当に質の悪い存在だ人間というやつは。


「あのさ、もう帰ったらどうかな」

「そう……ですよね」


 ……大体は分かっている、これは恐らく朔弥ちゃんの策略だって。

 そうでなければ自分で誘っておいて連絡もないし鏡水さんが来ないなんてことはない。

 けれど、もしそうなら連絡くらいしてほしかったし、用事ができたのだとしても連絡してほしかった。

 慣れない相手を誘ったのは自分なのに、そこで勇気が出ませんでした、行けませんでした、じゃ納得できない。


「3日連続で風邪を引いたからさ、冬休みはもう引きこもろうって決めたんだよね。親戚も他県に住んでるし行くわけでも集まるわけでもないからさ。どうせ6日になれば嫌でも学校へ行かなければならないんだからその時また会おうよ。まあ、友達ではないんだしあくまでクラスメイトとして、だけどね。それと意味ないからID登録も解除してくれる? そもそもあの日の時点で目的は達成しているわけだしね」


 大体、ライバルとなに仲良くしようとしているんだ。

 年内最後のテストだって私が6位で彼女が7位だった。

 クラスメイトの中では1番だったけど、上には上がいるというわけ。

 で、油断していたらまず間違いなく彼女にもやれていた、だからしっかり線を引かなければならない。


「……あくまで利用しただけということですか」

「うん、そういうものでしょ人間って。自分が快適に過ごすために他人でも環境でもなんでも利用する、別に綺麗な人間というわけでもないんだからしょうがないよね。とにかく気をつけて」


 彼女を追い出し部屋にこもる。


「安心してよ、朔弥ちゃんにだってちゃんと言うから」


 自分より弱い人間にだけ吐き捨てるわけじゃない。

 そういうところだけは信用してくれればいいと私は呟いた。

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