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幼き日の約束





僕の名前はアンソニー。

フレーベル子爵家の三男坊だ。


生まれた時から期待をされていない僕は、兄上の様に厳しい教育はなく、自由奔放に生きてきたと思う。

兄上からは嫉ましく嫌われていた様だけど、僕は決して気にしていなかった。



兄上はこの家を、継ぐけど、僕はこの家をいつかは出て程よい家(家名の低い)の婿養子として婚約を結ぶだろう。

多少の愛想と教養があれば生きていける。

そう思っていた。



その日は太陽が眩しい初夏の事だった。

父上に連れられてライフアイゼン伯爵家来たのは。

ライフアイゼン伯爵家には2つ下のご令嬢がいる様だった。

歳の近い僕は遊び相手になる様連れて来られたらしい。




その子はどうやら人付き合いが苦手らしく、別邸にいつも篭っているらしい。



それが体のいい言い訳なのはすぐにわかった。

一体どれだけ酷い娘なのか、見るのが少し楽しみだった。




別邸に行くと、使用人にお嬢様はいつも近くの湖に居ると言われた。

別邸の近くは広大な森だ。

いくら私有地だと言えまだまだ3歳のお嬢様を森の中をウロウロさせるなんて使えない使用人だと思った。



別邸のすぐ裏の森には薄暗い道の様ものがあった。

夏なのに暗く、涼しいその場所を恐る恐る進むと、明るい光が見えてきた。


そこは、辺り一面宝石を散りばめた様な眩い光を放つ美しい湖だった。

とても眩しく目を細め、ふと湖のほとりに目を向けると、色とりどりの花が咲く花畑が目に入った。


一瞬、強い風が吹いた。

夏の日差しを受けて、輝く赤い髪を風に揺らし、舞い散る花びらの中揺れる湖を見つめる少女がいた。


それはなんと美しい光景か。

一瞬で僕の全てを奪われた気がした。




その日からソフィアが僕の全てになった。



僕とソフィーはすぐ仲良くなった。

微笑む彼女は僕のために生まれ変わった愛の女神としか思えなかった。

僕はソフィーの願いを全て叶えたかった。


彼女は家の中で随分と嫌われているらしい。

無表情で人形の様だと。

彼女をきちんと理解してないせいで邪魔者の様に別邸に隔離されている。



彼女は少し感情を表に出すのが下手なだけでよく笑うし、よく喋る。

それを不気味だと言う愚かな人間(ライフアイゼン伯爵)は随分と怠慢な人間だ。

現に彼女はライフアイゼン伯爵夫人といる時は実に幸せそうだ。




しかしこれは実に僕に都合がいい。

彼女は僕にしか心を開いていない。

このまま行けば彼女と婚約できるかもしれない。


彼女を嫁にもらっても、僕が婿に行ってもどちらも僕の家は特をするので、父上は僕に反対はしないだろうし、ライフアイゼン伯爵も愛想のいい僕を婿に入れれば安泰だときっと喜んで迎えてくれるはずだ。



その日から僕は兄上より必至に勉強した。

1週間に一回はソフィーに会いに行きつつ、必ず伯爵にも取り入った。

あの使えない使用人も僕の家から連れてきた立派な人材と取り替えた。



彼女も勤勉で色んなことを考えていた。

花の色から抽出して作り出す手紙用インクの話はとても素晴らしかった。

学院には婚約者のいない貴族しか入らないが、彼女には通ってもらいたいとも思った。



完璧な幸せだった。



ジェシカ(あの女)が生まれてくるまでは。






あろうことかあの愚か者(ライフアイゼン伯爵)は僕とジェシカ(あの女)を婚約させたいと言い出したのだ。



父上には伯爵家の娘ならどちらでもいいと取り合ってもらえず、何よりジェシカ(あの女)が僕を気に入っていると、ライフアイゼン伯爵はたいそう喜んでいるそうだ。


ソフィーのためにしていたことがここで裏目に出るなんて。

なんて皮肉な事だろう。





僕たちのいつも過ごす湖で僕はそっとソフィー抱きしめた。

ソフィーには僕の婚約の話はまだ伝わってないらしい。

愛らしく頬を染めるソフィーをなぜ僕の手で幸せにできないのだろう。

なんて憎らしい。




「ねぇソフィー、何か叶えたい望みとかないかい?」





優しく問いかけた。

もし、僕に叶えられる事なら迷わず手を貸そう。

僕は君が全てなんだ。




「我儘を申して良いのなら…私の望みは…トーニが幸せである事ですわ。」




照れて微笑むその笑顔に僕は絶望した。

彼女の言う幸せとはつまり、()()()()()()

彼女はきっと何も考えてない。

ただ、僕が幸せであることを願ってる。

でもその幸せは()()()()()の幸せであって、()()()()()()幸せではないのだ。





彼女の願いを叶えるために僕はあの女との婚約を了承した。

きっとこの女を断ったとしてもソフィーと婚約させてくれることはない。

ならおかしな奴のところは嫁がせる前に学院に行かせるために動こうと思う。



たとえ僕の婚約者にできなくても、他の男に渡すつもりは微塵もなかった。



僕は彼女の聡明さをいろいろなところで話した。

彼女が学院に通えばいずれ研究者になって一生を学院で過ごせるはずだ。





あの女との婚約発表の後、ソフィーは僕とあってくれなくなった。

何度も別邸に足を運んだけど取り次いでもらえなかった。



15歳になれば学院に送り出そうと思っていた矢先に、ソフィーの婚約の話が上がった。

あろうことかあの愚か者は隣国の、内戦の酷いガニエ帝国にソフィーを和平交渉の道具に使うと言い出した。

ソフィーの頭の良さを見込まれて国王からの名だという。



きっとあの愚か者が権力に目が眩んで余計なことを言ったのだろう。

きっと研究者になるほどの逸材を差し出せば安泰だとでも。

国王も国王で自分の娘を差し出すのを拒んだのだ。

ガニエに送り出すということはつまり、()()()()()()ということだ。




殺してやろうと思った。





3年間も会えず、やっと、やっお会えたと思った、ソフィーの、たった、()()()4()()()()誕生日パーティーの日にあの愚か者は発表したのだ。

何度も何度も考え直せと、学院に通わせればこの家のためになると直接説いていた、僕に黙って勝手に決めたのだ。



しかもその3日後にガニエに送られるという。

僕はもうなりふり構ってられなかった。



黒魔術だろうと禁忌の術だろうとでもなんでもよかった。

すがれるものに全てすがった。



パーティーから3日目の夜、僕はライフアイゼン伯爵家の別邸を訪れていた。

ここの使用人は僕の家から連れてきた人間だから僕が強く出れば別邸に入ることは容易かった。



眠りにつく彼女の近くに、僕は手に持つ瓶を投げつけた。

割れる音がして彼女は驚いて目を覚ましたが

しかし数秒で意識を失った。


嘘でもほんとでもどちらでもよかった。

この術が、きこうがきかなかろうが。




【生まれ変わっても永遠に魂を繋ぐ呪い】




もう今世で君を幸せにできない。

ごめんよソフィア。


黒く輝く割れた石の片方を彼女に飲ませた。

美しい月の光に揺らめく湖のほとりで、僕も黒く輝く破片を飲み込んだ。



目が覚めた彼女が湖に行くのが見えた。

後を追いかけ、声をかけると彼女は泣きそうな顔で振り返った。

3年ぶりに聞いた彼女の声は僕の愛称を囁かなかった。


彼女は真面目だから、妹の婚約者として僕を線引きしたのだろう。

そんなことで壁を作られてしまうなんて。

手を握るのそっと拒まれてしまった。

彼女のことだ、きっと僕のことを案じてだろう。

それでも辛かった。



お互いに大粒の涙を流して、ここまで思い合っているというのに、彼女は僕の前から消えてしまった。




君は覚えているだろうか。

僕の幸せを願ったことを。

君が今、ここいたいと願えば僕はなんだってできるよ。

本当さ。







僕の本当の幸せは君と共にいることなんだから。







大破した馬車の一報を聞いて、僕のすることはただ一つだった。

彼女に包まれているような赤い大輪のユリに囲まれて僕の心臓は動きを止めた。


























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