わたしと私
長い長い夢から目がさめると、そこは、一面真っ白な世界だった。
周りを見渡すと、白いカーテンで覆われた白いベット、どうやらここは、病院のようだった。
まだ薄暗い室内に靴音が響いた。
規則正しい靴音はわたしのベット周りのカーテンの前で止まりゆっくりと、その白いカーテンを引いた。
カーテンを引いたのは看護師の女性のようで、彼女はわたしと目が合うと、酷く驚いたような顔をして、柔らかく笑うと嬉しそうに声をかけて来た。
「リューレさん目が覚めたんですね!すぐに先生を呼んで来ます!」
意気揚々と彼女は引き返して行った。
ゆっくりと身を起こそうとすると酷く頭が痛く、頭を抑えると布のような感触があった。
そうだ…わたし頭を打って…。
諦めて横になって大人しくしていると、程なく2つの足音が小走りでやってきた。
先ほどの看護師の彼女と、少し年老いた医師のような女性だった。
「リューレさん、体調はどうですか?どこが痛いとか、何か違和感を感じるとか。なんでも構いません。教えてください」
看護師の彼女に支えられながら体を起こしたわたしに、白衣の彼女は近くの椅子に腰を下ろして、紙とペンに何か記入しながら優しく微笑み聞いてきた。
「少し、起き上がると頭が痛みます。あと…体を、動かすのに、痛みを感じます」
体が痛むのは私が1ヶ月も眠っていたせいで筋肉が落ちてしまったせいだと教えてくれた。
リハビリですぐに治るそうだ。
今日中にまた精密検査をしますと2人は病室を後にした。
この1ヶ月でわたしはどうやら前世、と言うものを見ていたようだ。
私の生まれてから死ぬまでのたったの18年間の短い記憶。
馬車に乗ったところから記憶が薄れている。
おそらくそのまま死んだのだろう。
ふと、ほんの少しの違和感と恐怖を覚えた。
前世の私が今世のわたしに流れ込んできたかのようで、まるで別のわたしに、なってしまったかのように戸惑いが隠せなかった。
「ソフィー………ソフィー!!!」
どうやら眠ってしまっていたらしい、目を開けると心配そうな恋人の顔が映った。
看護師さんが連絡してくれたのかと思ったが、彼は私が頭を打ってから、毎日この病室に来てくれていたようだ。
「アン…おはよう…」
恋人のアンは酷く泣きそうな、安心したような顔でわたしの手を握った。
「おはよう…ソフィー…本当に…本当に目が覚めて良かったよ…また君に会えて………」
そっとその手を頬に当てて涙を流す恋人を見てわたしの中のもう1人の私が恐怖する。
私はそんな感情を振り払うように声を出した。
「アン…愛しているわ」
薄く微笑みかけると驚いた顔をした恋人のアンソニーは涙に濡れたまま、その眩しい、太陽の様な笑顔で、僕も愛してるよと抱きしめてくれた。
わたしはなんて幸せなんだろう。
前世の私は何故この幸せを手放したのか全くわからなかった。
「約束を果たすよ…ソフィア」