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寺での出来事

 土曜日に塾で幽霊の子供たちに勉強を教えて、今日は日曜日。珍しく暇を持て余し、天気も良かったので、その辺を散歩しようと思い、外を歩いていた。特に何も考えずに歩いていたら、お寺の前にたどりついた。これも何かの縁だと思い、お寺の境内に向かって歩いていく。そこで私は線香のにおいに気が付いた。誰かが法要でも行ったのだろうか。ここでおとなしく家に帰ればよかったのだが、その時の私はそうしなかった。寺の境内は木々がうっそうと茂っていて薄暗い。なんだか気味が悪くなってきたが、ここで引き返しても面白くないと思い、そのまま寺の中に向かって進む。すると、寺の横で男と女が言い争っているのが目に入った。



 何を話しているのか気になり、近づいてみると、二人の会話が耳に入ってきた。


「私が能力者だということをばらすということですが、別に私はばらされても構いません。私をここまで連れてきて何の用があるのですか。」


「あなたが能力者だということ、彼があなたを指定してきたことが私には重要なことで、条件を満たしていれば、誰でもよかったのですが。」


 話しているのはなんと瀧さんと佐藤さんだった。佐藤さんは生きていた。私はこのことに安心した。しかし、瀧さんと一緒にいるのが気にかかる。いったい何を争っているのだろうか。私はもう少し近づいてみることにした。


「ガサッ。」


 二人に近づくときに枯れ葉を踏んでしまい、音が出てしまった。私はあわてて寺の中に身を隠す。


「誰か来たみたいですね。仕方ありません。このままではらちがあきませんので、強制的に連れていくしかないですね。」


「どこに連れていく気。私はついていかないわよ。」


「わかっています。だから強制連行です。」


 そう言って瀧さんはポケットから何かを取り出したようだったが、寺の中からだと何を取り出したのかわからない。それを佐藤さんに向けて振りかざした。


 どすっと音がした。佐藤さんが倒れた音のようだ。それを見ようとしたが、私が寺の中から覗く前に突然第三者の声が聞こえた。男が現れるのに合わせるかのように霧のような靄が寺全体に広がり、まるで寺でこれから起こることを隠そうとするかのように広がっていく。


「そこまでよ、瀧達也。連続殺人の罪で逮捕します。」


「心外ですね。突然現れて連続殺人の犯人だというなんて。最近の若者はどうかしていますね。」


 警察の服を着た男性がやってきた。どうしてこんなところに警察が来たのか。私は寺の中から様子をうかがうことにした。聞き間違いでなければ、この男は瀧さんが連続殺人の犯人だと言っていた。どういうことだろう。本当に瀧さんが連続殺人の犯人なのだろうか。西園寺さんが言っていた連続殺人は本当に起こっていてその犯人が瀧さんだとでもいうのだろうか。


 警察の男と瀧さんのどちらを信じたらよいかわからなくなってきた。ただ一つこの場でいえることは、私はこの場にいない方がよいということだ。私が姿を見せても話がややこしくなるだけだろう。私がいることには幸い、今のところ誰にも気づかれていないようだ。二人は会話を続ける。



「私だって、見ず知らずの人にこんなことは言わない。ただ本当のことを言っただけ。これまでたくさんの行方不明者が出ている。そのほとんどが能力者だとわかっている。どういう理由で能力者ばかり誘拐して殺しているかは知らないけれど、殺人をしていることは事実。これ以上、犠牲者を出す前に今ここで捕まってもらいます。」


 警察官の言葉を聞いているうちに違和感を覚え始める。警察官の恰好をしている男性なのに話し方が女性のようだ。外見が男らしいので余計に違和感が出てくる。


「あなたには私を捕まえる権利がないと思いますが。これでも私は人を見る能力には自信があります。警察官にうまく化けているところ恐縮ですが、私にその手のごまかしは通用しません。どこの誰かまではわかりませんが、おそらく化けているのは若い女性でしょうか。このまま帰れば、今の言葉の数々を忘れてあげます。どうしますか。」



 そういえば、瀧さんは他人の能力が見える特殊能力を持っていると言っていた。もし突然現れた警察官の男が偽物だとしたら、いったいこの男は誰なのだろう。男ではなく、女の可能性もあるようだが。瀧さんの言葉に男は肩をすくめて見せた。


「やっぱりばれちゃうわよね。彼の言うとおり、あなたは相手がどんな能力者かわかるらしいわね。ばれるのは想定内だから仕方ないわ。私は西園寺桜華。西園寺グループの跡取り娘よ。」


 警察官の男の姿が煙に包まれて、聞き覚えのある声が男から発せられる。警察ではなく、正体は若い女性だと瀧さんは言っていたけれど、その正体がまさか西園寺さんだったとは。ということは、寺全体に広がっている霧のようなものは雨水君の仕業だろうか。おそらく、どこかに隠れているはずだ。西園寺さんがひとりで行動するわけがない。


「やはり警察ではありませんでしたか。名前まで名乗ってどういうつもりですか。ですが、名乗ってくれたおかげで手間が省けました。私はあなたを殺してくれと依頼されていますので。もし私が殺人を犯していたとして、証拠はあるのですか。証拠もなしにここまで来たわけではありませんよね。」


「証拠ならあるわよ。これが動かぬ証拠。」


 話はどんどん進んでいく。そして、それに比例して私はここから逃げるタイミングを失っていく。佐藤さんは二人が話していても目覚める気配はなく、地面に横たわっていた。

 西園寺さんが証拠に挙げたのは一冊の手帳だった。

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