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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バサラカンド編
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第九十七夜 おっちゃんと『月下の刃』

 翌朝の早く、アリが四十人の冒険者を連れて砂嵐が吹く中、意気揚々と出て行った。

 冒険者の集団は、翌日の夕方には数を三十二人に減らして帰ってきた。


 帰ってきた人間の中に、アリの姿はなかった。

「ほら、言わんこっちゃない」が、おっちゃんの正直な感想だった。でも、言葉を飲み込む。


 おっちゃんの正面の席に、冒険者が腰掛けた。冒険者はミニ・デーモンに襲われたときに世話になったフルカンだった。


 フルカンはむすっとした顔で不平を口にした。

「今回の作戦は失敗だな。唯一つ利点があったなら、馬鹿な頭がいなくなった状況だけか」


 おっちゃんも同じような感想を持っていたが、口には出さなかった。

 フルカンは砂に汚れた装備をしていた。フルカンは『ガルダマル教団』の襲撃戦に参加していた。


 おっちゃんは申し出た。

「こんにちは。いつぞやの保留になっていた一杯を奢りましょうか」

「頼む。今日は、ちょっと飲みたい気分だ」


 おっちゃんはエールとケバブを注文した。

「教団への奇襲戦はどうでしたの。大変な戦いやったんか?」


 フルカンは思い出すのも忌々しい風で話した。

「大変なんてものじゃない。奇襲が読まれて逆に奇襲を受けた。一度は持ち返したが、逃げる敵を追っていったら、そこに伏兵がいてまた襲撃を受けた」


 フルカンがエールを飲みながら、苦い顔で続ける。

「後退して態勢を立て直そうとしたら、回り込まれて挟み撃ち。こうも見事に負けるかってほどの負けっぷりだったよ」


 おっちゃんは声を潜めて聞いた。

「フルカンさんは、見たところ地元の冒険者やろう。『ガルダマル教団』って本当に危険な奴らやなの」


 フルカンがさばさばした顔で、投げやりに発言した。

「さあな。『ガルダマル教団』が禁教になったのは、今の領主のハガンになったからだ。今じゃあ『悪神ガルダマル』って呼ばれているけど、昔は普通の家に姿絵とか彫像とか、あったらしいぜ」


 おっちゃんは危惧している話を尋ねた。

「もしかして、ハガンは何か悪いことがあるたびに『ガルダマル教団』のせいにしてるんか」


「当りだよ。おっちゃん。でも、領主のハガンを非難したり、『ガルダマル教団』を良く言ったりするな。下手したら、縛り首だ」

 フルカンは茶化すように、フルカン自身の首を絞めた。


「非常に御偉いさんらしい対応やな」


 フルカンは忌々しそうに非難した。

「と言っても、今回の件で俺たちもハガンに愛想が尽きたけどな」


 フルカンの言葉に、おっちゃんはわずかに引っ掛かりを感じた。

(なんや。フルカンの言葉やと、冒険者ではないみたいなニュアンスやな。「たち」がパーティを指すかもしれんが、フルカンが仲間といるところを見た記憶がない。でも、傭兵団の人間でもなさそうや)


 おっちゃんが不審に思っていると、フルカンがじっとおっちゃんを見ていた。

「なんや」と訊いた。


 フルカンが真剣な顔で、小さい声で訊いてきた。

「もしかして、おっちゃんならバサラカンドの危機を救えるか」


 フルカンの言葉にぎょっとなったので、即座に否定した。

「無理や、無理。おっちゃんは、しがない、しょぼくれ中年冒険者や。街を救ったりはできん」


 フルカンは、おっちゃんにしか聞こえない声量で話した。

「おっちゃんの働きは知っている。大砂竜から街を救ってくれた人間はおっちゃんだろう」


 正面にしかいる相手に聞こえない話し方は、一般人のものではなかった、盗賊や犯罪者、あるいは暗殺者が持つ独特の話法だった。


 おっちゃんは迂闊に答えなかった。フルカンが何を知り、何を知らないか、不明だ。


 フルカンが特殊な話法で話を続ける。

「俺は『月下の刃』のメンバーなんだ。『月下の刃』に所属する人間は、身元を明かさない。自分だけでなく、仲間も危険に曝されるからだ。でも、信用を得たい時には、こうして明かす。頼む、おっちゃん。もう一度、バサラカンドを助けてくれ」


「助けんかったら、おっちゃんの秘密をばらすんか」


 フルカンは寂しそうな顔で首を振った。

「俺たちにも、仁義はある。おっちゃんが蠍人の商人と取引している話は、誰にも言わない。そんな脅迫じみた真似はしない。ただ、助けてもらえるなら、助けて欲しい。もう、バサラカンドには他に頼る人間はいないんだ」


(どうやら、おっちゃんが『シェイプ・シフター』の事実は知らんようやな。ただ、グラニと一緒に大砂竜を結界内に追い込んだ事実は知っているようや。おおかた蠍人の中にも『月下の刃』のメンバーがおるんやろうね)


 おっちゃんは迷った。

 脅迫してくるなら突っ撥ねて街を出るつもりだった。だが、フルカンはお願いに徹している。しかも、素性を明かした上で頼んでいる。いささか乱暴な手口だが、礼を欠いてはいない。


「おっちゃん以外に頼る人間がいないって、ほんまなん? 魔術師ギルドとか頼ったほうが、ええんとちゃう?」


 フルカンが声を普通の声量に戻して憤る。

「バサラカンドの魔術師ギルドの実力は低い。バサラカンドの魔術師なんて、金勘定とゴマすりは得意だが、実力がない人間ばかりだ。だから、存在しない呪いがどうのとか、言い出すんだよ」


「なんでかなー、なして、こういう展開になるんやろうな」


 フルカンはテーブルに手を突いて頼んだ。

「頼む、おっちゃん。俺たちはもう外部の人間に頼るしかないんだ。信用できる冒険者は、おっちゃんだけだ」


「やるだけやってやる。けど、わからんよ。おっちゃんが全て解決できるわけやないよ」

「ありがとう、恩に着る。それで、どうしたらいい」


「砂避けの宝珠を見せて。あと、おっちゃんの活躍は秘密にしてな」


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