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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
マサルカンド編
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第五十六夜 おっちゃんと大規模事業

 パズトールからダンジョン・コアを海水で冷却する計画の計画書を入手した。

 計画書を『記憶力』の魔法を使い全て頭の中に入れた。計画書を一度ばらして、人間に見せてはいけない機密箇所を処分して、再編集する。


 再編集した計画書を持って、皆が詰めている冒険者ギルドに向かった。

「やったで。秘策は、成功寸前や。モンスターに穴を掘らせられるで」


 一同が顔を見合わせた。

「やったね。おっちゃん」クロリスだけが顔を輝かせる。


「でも、それには、一つ問題があるねん。『暴君テンペスト』や。『暴君テンペスト』のご機嫌を取らねばならん。そこで、黄金の帆船模型を献上せねばならん」


 イゴリーが渋い顔をして、否定的な態度で意見した。

「黄金の帆船模型の献上は、止めたほうがいい。黄金の帆船模型を使われたら、街が幽霊船団に攻撃される。献上するなら、もっと安全な物を差し出すべきだ」


 おっちゃんは強い口調で、譲らなかった。

「それは、無理や。『暴君テンペスト』が欲しい物は、黄金の帆船模型や。代えは利かん。そこは譲れん」


 バネッサが腕組みして意見を述べる。

「他に問題は、ないの?」


「ある。取水口から人間をダンジョンに入れてしまって『暴君テンペスト』を怒らせることや。黄金の帆船模型を手に入れた『暴君テンペスト』を怒らせたら、海から幽霊船団、空から『暴君テンペスト』、陸からダンジョンのモンスターが街に攻めてくるで。せめて、黄金の帆船模型を取り返すまでは、大人しくするしかない」


 ゲオルギスが曇った顔で発言する。

「黄金の帆船模型が『暴君テンペスト』の手にある間。冒険者は『火龍山大迷宮』に入れないわけか。冒険者を納得させる工作が必要だな」


「冒険者に遠慮する必要は、ない。街に残っている冒険者は、街のために残っている人間や。話せばわかってくれる。なんなら、残っている冒険者には水車と取水口の警備の仕事を振ったらええ。街にいない冒険者は、街を見捨てた冒険者や。街を見捨てた冒険者に義理立ては不要や」


 ピエールが渋い顔をして意見した。

「でも、黄金の帆船模型を差し出す行為は、賛成できかねます。噴火の脅威を逃れても、海を人質に取った『暴君テンペスト』の脅威に(さら)されます。海路はマサルカンドの生命線です」


「実は、それについては、おっちゃんには考えがある。おっちゃんには、ダンジョン・コアの冷却後に黄金の帆船模型を回収する策がありますねん。これも、秘策やから、詳しくは教えられませんけど」


 みんなの顔色を窺う。黄金の帆船模型の提出には否定的だった。

(否定的な態度を採るのは、黄金の帆船模型が抑止力になることを、物語っている。これは、やはり黄金の帆船模型を渡したほうがええね。渡したほうが、間違いない)


 おっちゃんは再編成した計画書を皆の前に拡げた。

「これを見て。『火龍大迷宮』のダンジョン・コア冷却に関する機密情報や」


 ばらばらになった計画書を見て、リントンが顔を輝かせる。

「すごい。この資料があれば、こっちの作業は、水車の調達と設置だけになる。凄く助かる。蒸気を利用した特別な水車だけど、二週間もあれば、できます。でも、こんな綿密な資料を、どこで入手したんですか?」


 サワ爺が資料を見ながら疑問のある顔で口を挟む。

「それに、資料の番号が抜けている箇所が、あるようじゃが」


「全部を欲しいなんて無茶を言わんといて。あと、出所は訊かんといて。この機密を入手するだけでも、大変やったんやから」


 具体的な未来が見えてくると、話の流れが変わった。

 一時間後、皆の総意として、黄金の帆船模型が、おっちゃんの手に渡った。


 おっちゃんは馬を使って、黄金の帆船模型を『火龍の闘技場』まで運んだ。トロルの姿で『火龍の闘技場』に来る。


 パズトールが姿を現した。パズトールは気取って問う。

「人間たちに水車の設置をさせる件と、人間の手で取水口を守らせる計画は、どうですか。主に、ああ話した手前、できない、では許されませんが」


 おっちゃんは揉み手をしながら下手に出て発言した。

「人間たちはコロリと騙されています。さっそく蒸気を使った水車の作成を始めました。警備の人間は、あろうことか、冒険者を使うようです。冒険者を使って冒険者から守るとは、滑稽ですな。そんで、これが、人間から騙し取った黄金の帆船模型です」


 おっちゃんは背負っていたエール樽を下ろした。


 パズトールはエール樽を触って魔法を唱える。

「中には黄金の帆船模型が入っているようですね。掛かっている魔法も呪いも理解しました。もちろん、使用方法もね」


 おっちゃんは、ぺこぺこと頭を下げて頼んだ。

「それで、なんですけど。ダンジョン・コアの冷却が終わったら、黄金の帆船模型は、返してもらうわけにいきませんか」


 パズトールが意地悪く笑った。

「ダメです―と言いたいところですが、黄金の帆船模型の回収も、秘策の内なんでしょう。いいですよ。主からは、秘策に協力するように命を受けています。人間が取水口から入ってこなければ、返還しましょう」


「助かります。ところで、水車が完成するまでに、二週間が掛かるんですが、穴の掘削にどれくらい掛かりますか。あと、噴火までは、どれくらい時間があるかわかりますか」


 パズトールが髭を伸ばしながら、ツンとした口調で伝える。

「掘削はダンジョンの拡張のようなもの。一週間もあれば、取水口と排水口を掘削できます。ただ、噴火予定は、十六日後ですので、人間側の作業を急がせてください」


(ギリギリやん。これ、失敗できんぞ)


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