第五百四十八夜 おっちゃんと旅立ち
ホレフラ村に春が来た。村では子供たちが遊ぶ。苺畑では苺が収穫され、小麦畑では種蒔き準備が行われる。
ボーランドの家ではハンマーを振るう音が聞こえる。魔法の炭焼き小屋は本格稼動していた。また、村には陶芸用の窯も造られ焼き物が作られる。
(平和やなあ。平和が一番や)
長閑な生活音に耳を傾けながら、引き継ぎ書と決算報告を作る。
書類ができるころ、ビアンカが村にやってきた。
おっちゃんは村の決算報告を、ビアンカに渡す。
「去年は色々ありすぎて、赤字を出してしもうた。でも、今年は黒字、来年以降はきちんと纏まった収益が出る」
ビアンカが明るい顔で決算報告書を受け取る。
「これで、村の再建は目処が付いたわね。おっちゃんは、この村にいるの?」
(ホレフラ村もニコルテ村に負けんええ村や。でも、ここに残るのは違う気がする)
「仕事は終わったから、一度、西大陸に戻ろうと思うとる。わいの家はバサラカンドにあるからな」
ビアンカが優しい顔で勧める。
「おっちゃんさえ良ければ、このホレフラ村にずっといていいって、アレキサンダーは了承してくれていたわよ」
「いつかは、どこかに定住するかもしれん。せやけど、わいは冒険者やから。定住はもう少し先の話になりそうや」
ビアンカが、にこにこした顔で訊く
「そう、なら、次の行き先だけど、南大陸なんて、どう?」
「未開の地と呼ばれる南大陸か。南大陸はまだ行った経験がないな」
まだ行った経験のない南大陸には興味があった。
「アレキサンダーは南大陸に行く冒険者を募っているわ。書類審査と面接があるけど、おっちゃんなら通るでしょ」
「そうか。なら、キヨコと相談やな」
おっちゃんビアンカと別れると、夕食の時にキヨコに話し掛ける。
「キヨコ。今日、ビアンカはんから、南大陸に探索に行くけど一緒にどうや、と話があった」
キヨコは笑顔で尋ねる。
「それで、貴方は行きたいって返事したの?」
「それは、キヨコしだいやな。キヨコが行くなと頼むなら行かん。南は西大陸や東大陸と違って情報があまりない。定期船もない。行ったら帰ってこられるか、どうかわからない場所や」
キヨコは微笑んで意見を述べる。
「何を今更。貴方なら、どこに行ってもやっていけるわ。私はどこへでも従いて行くわ」
(キヨコなら、一緒に行くと言うてくれると思うとった)
「そうか。なら、南大陸に一緒に行ってくれ」
キヨコが穏やかな顔で優しく語る。
「いいわよ。ただし、南大陸に行ったら、きっと、貴方はビックリするわよ」
「何や? キヨコは南大陸に行った経験があるんか?」
「正直に言うと、何度かあるわよ。事前に情報を知りたい?」
「いや、教えてくれなくてええ。何が待っていて、何があるかは、わいの眼と耳で確かめる」
「そう、なら、教えないわ」
翌朝、おっちゃんはクレタス、レヴァン、ボーランド、パシリオス、ペトラに挨拶をして、南大陸へ探索に行くと話した。皆は寂しさを滲ませつつも、おっちゃんを快く送り出してくれた。
おっちゃんは家の荷物を片付けると、まだ見ぬ見た南大陸に思いを馳せる。
準備ができると、おっちゃんはバレンキストにキヨコと一緒に向かった。
【ホレフラ村編・了】
【終わりにあたって】
長らく続けてきました『おっちゃん冒険者の千夜一夜』ですが、ホレフラ村編をもって終了にしようと思います。
おっちゃんの冒険を百四十万字以上も書いてこられたのは、応援し支えてくれた皆様のおかげです。今日までありがとうございました。
また、今日は残念なお知らせが一つあります。
『おっちゃん冒険者の千夜一夜』ですが、書籍版の売り上げが今一つ振るわず、書籍のシリーズ展開は一段落となります。こちらは、電子版についても同様です。
力及ばずに残念な限りであります。ただ、これだけは言えるのですが、買ってくれた人がいたからこそ、ホレフラ村編まで書けたとの思いがあります。応援してくれたかた、本当にありがとうございました。
執筆活動は今後も続けていきます。また、人気の出る作品がありましたら、書籍化を目指して努力していきます。それでは、また別の作品でお会いしましょう。
【宣伝】よろしかったら一話だけでも見ていってください。
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