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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ホレフラ村編
539/548

第五百三十九夜 おっちゃんと水害の予兆

 ビアンカが金を返しに行った二日後、アキリオスが非常に申し訳なさそうな顔をして、やって来た。アキリオスが(かしこ)まって詫びる。

「その、先日は取り乱して、すまなかった」

「気にする必要はないで。誰かて、大金を奪われたら混乱する」


 アキリオスは弱々しい態度で申し出る。

「あんなに(ひど)く怒ったのに許してくれるのか」

「許すもなにも、わいは怒っとらんよ。でも、今度から美味(うま)い話には気を付けることやな」


 アキリオスはしゅんとした態度で弁解した。

「真に面目ない。でも、村の収入をどうにか上げないと私も苦しいんだ」

「なしてや? ハレハレ村ではここより小麦が()れる。開墾(かいこん)かてしたって聞いたで」


「そう呑気(のんき)に構えてもいられないんだ。国全体の水事情が改善しつつある。おかげで、どこの村でも小麦が穫れるようになって、小麦価格が下がる(きざ)しがあるんだ」

(そうやったのか。国王の代官であるアキリオスはんの元には、国政の情報が入ってきているんやなあ)


「小麦価格の下落か。それはお百姓さんには辛いのう」

 アキリオスが気落ちした顔で、話を続ける。

「そうなのだ。我が村は開墾で収穫量を増やした。だが、税収は前年度と変わらない。そこで養蚕に手を出したら、詐欺に遭った」


「そういう事情やったか。なら、その他の村はどうしているんやろうな?」

「メダリオス河周辺のどこの村も小麦栽培では厳しいと聞いている。陸稲に手を出したり、綿花の栽培も始めたりした村もある。だが、どこも上手く行っていない。上手く行ったケースなんて、このホレフラ村ぐらいだ」


(助けられるものなら、助けてやりたい。せやけど、簡単には行かん話や)

「ここの苺ジャムも喉飴も、簡単には他の村に転用できる話やないからなあ」


 アキリオスはしおらしい態度で帰って行った。

 アキリオスが帰ったあとで、ボーランドが世間話をしに来た。アキリオスとのやりとりを話すと、ボーランドが難しい顔で話し出す。

「なるほど、どこの村も苦しいな」


「そうやねん。できれば、ハレハレ村にも解呪の泉の水を分けてやりたい。せやけど、欲に駆られて水を薄めるような真似をすればきっと災いが(もたら)される」

 ボーランドが複雑な顔で申し出る。

「実は解呪の泉の水を薄めずに増やす方法はある」


「初耳や。詳しく教えてもらって、ええか」

「魔法の炭焼き機で作った解呪の炭で水を濾過(ろか)すれば、解呪の泉の水と同等の効果がある水ができる」


「そんな便利な物があるなら、早く作って。その解呪の炭で濾過した水を使って、隣の村の養蚕を助けたろう」

 ボーランドはあまり気の進まない様子だった。

「魔法の炭焼き機を作る図面は、ある。部品もビアンカに頼めば調達できるだろう。ここなら機械を動かすのに必要な解呪の泉の水もある」


「何や。なら、できるやないの。何が問題なんや?」

「俺は昔からアキリオスを知っているが、奴は嫌いだ。国王も好かん。そんな国王の所領の村も助けたくはない」


「わかった。なら、このホレフラ村のために魔法の炭焼き機を作ってや。解呪の炭をこの村の輸出品にする。それなら、どうや?」

 ボーランドは、それでも渋った。

「でもなあ、国王の所領に利する行為はなあ」


「そこを何とか頼むわ。隣の村のお百姓さんを助けると思って、手を貸してくれ」

「少し考えさせてくれ」


 ボーランドが帰ると、今度はハウルがやって来てにこにこ顔で切り出す。

「今日はお互いに儲けになる話を持ってやって来ました。解呪の水を使った新規事業をやりませんか?」

「どんな話や? 利益になるなら聞くで」


 ハウルがほがらかな顔で話を進める。

「苺ジャム栽培を止めて、解呪の井戸水で呪いの品から呪いを解く事業をやりましょう」

「その話なら、解呪組合から前にあったが断ったで」


 ハウルが明るい顔で、なおも勧める。

「そうですか。でも、私が提示する条件は解呪組合のものより、もっと良いものですよ」

「なら、質問するわ。苺ジャム栽培をしている人間には、どう話を持って行く?」


 ハウルはこともなげに提案する。

「それなら解呪事業で出た利益から補償金を払って、手を引いてもらいましょう。翌年度もお金が必要なら、農業に補助金を出したらいい」

「なるほどのう。商人らしい考え方やな。でも、ダメや。働かずに得た金は人をダメにする。労働による喜び、これも人が生きて行く上で必要なもんや。金には換えられん」


ハウルは媚びるような笑顔で話を続ける。

「そうでしょうか? 苺栽培を止めて畑を元に戻すだけでお金が貰える。翌年から補助金も出るなら村人は納得すると思いますよ。村人だって、呪われた苺を触る仕事は嫌でしょう」

(いいたい内容はわかる。せやけど、ハウルはんの申し出は村を駄目にする可能性があるのう)


 おっちゃんはきっぱりと断った。

「見解の相違やな。ここは歩み寄れんで」

「なら、補助金は止めて公共事業に舵を切ってはいかがでしょう。河に堤防を作るのです。解呪事業に協力してくれれば、私が公共事業に必要な資金を引っ張ってきましょう」


 おっちゃんは不安になったので、尋ねた。

「そういえば、メダリオス河の氾濫で村は一度、住めなくなったと聞いたな」

 ハウルはにやりと笑って促す。

「でしょう。だったら、早期の公共事業は是非にも必要です」


「何や? 何か河の災害に関する情報を持っておるんか?」

 ハウルがしれっとした態度で、簡単に述べる。

「ありますよ。有料ですが」


 おっちゃんは即断した。

「わかった。なら、情報を買うわ。ただし、支払いは、解呪の炭を作る炭焼き機の図面でどうや。解呪の井戸水の水やないで」


 ハウルはおっちゃんの提案に興味を示した顔をする。

「また、面白い品を持っていますね。いいでしょう、では、まず簡単に教えますよ。私が得た情報だと、今年の秋に九割の確率で、メダリオス河で大きな氾濫(はんらん)は起こります。ここも、被害を受けるでしょう」


 おっちゃんは段々と不安になった。

「どの程度の被害が出るんや」

 ハウルが半笑いの顔で、やんわりと情報提供を拒否する。

「ここから先は図面をいただかないと教えられませんね」


「わかった。一週間したら来てや。図面を渡す」

 おっちゃんはボーランドの家に行く。

「ボーランドはん、折り入って頼みがある。魔法の炭焼き機の図面の精巧なコピーがほしい」


 おっちゃんはハウルとの遣り取りを話した。

 ボーランドが渋々の態度で了承した。

「なるほどな。あまり、いい気はしない。だが、村が河の氾濫に巻き込まれれば、俺の家も被害を受ける。図面のコピーを渡すくらいならいいだろう」


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