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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ホレフラ村編
537/548

第五百三十七夜 おっちゃんと詐欺師(前編)

 手紙を出した四日後、舟に乗ったビアンカを筆頭に六人の冒険者がやってきた。

「何や、冒険者を頼んだらビアンカはんが来てくれたんか。これは心強いな」

 ビアンカが明るい顔で尋ねてきた。

「おっちゃん、何やらトラブルに巻き込まれたようね。それで、私たちに何をしてほしいの。どんな仕事でもこなしてみせるわよ」


「あんな、隣のハレハレ村の代官を騙した詐欺師を捕まえてやりたい」

 ビアンカが穏やかな顔でやんわりと意見する。

「随分と人がいいのね」


「わいの姿を使って悪事を働いておるんやから、他人事やあらへん。振り掛かる火の粉は払わんとな」

 ビアンカの表情が少しばかり曇る。

「報酬はアレキサンダーから出るから、引き受けるのは問題ないわ。ただ、日数が経っているから、遠くへ逃げられていたら、アウトね」


「そうやねん。でも、わいの勘やと、詐欺師はまだ近くにおるような気がする」

「わかったわ。やるだけやってみるわ」

 ビアンカは仲間を連れて、自信に満ちた態度で隣のハレハレ村へと出掛けていった。

(詐欺師が捕まるとええんやけど)


 おっちゃんはビアンカを見送って、家の二階で事務作業をしていた。

 昼過ぎに冴えない顔のキヨコがやってくる。

「貴方、お客さんよ。解呪組合のゴルカさんよ」

「ゴルカはん、はて何の用やろう?」


 キヨコが曇った顔で告げる。

「でも、何か様子がおかしいわ。その、何ていうか、格好と雰囲気がちぐはぐなのよ」

「それは、ちと妙やな。でも、何ぞ事情があるかもしれん、会うてみるわ」


 一階のリビングには解呪組合のゴルカが待っていた。

 ゴルカは旅に適した厚手の茶の服に、丈夫なブーツを履いて、茶の外套を羽織っていた。背中にはバックパックを背負っていた。

(お洒落好きなゴルカはんにしては、格好がちとラフやな。気取った雰囲気がないのも、気になる)

ゴルカが愛想の良い顔で話し掛ける。


「おっちゃんさん。今日は村に利益になる話を持ってきました」

 おっちゃんはゴルカに警戒心を持ったが、態度を偽る。

「おお、久しぶりやな。二年ぶりくらいか。元気そうで何よりや」


 おっちゃんは鎌を掛けた。すると、ゴルカが苦笑いする。

「二年はないでしょう。この間、解呪組合で会いましたよ」

(ほおう、わいが最近、解呪組合に出向いた事実は、知っておるんやな。でも、これで、偽者やと相手に警戒している態度は伝わったか。さて、どうやって偽者か確かめたろうか)


 おっちゃんは笑顔を作って話を進める。

「おお、そうやったなあ。そんで、どんなええ話を持ってきたんや?」

「解呪の井戸水を使った商売をしませんか」

(ははん、こいつ、詐欺師の仲間か同類やな。ハレハレ村の代官がちょろいと見たんだ。隣村でも荒稼ぎしたとう思うてきたんか)


「確かに、解呪の井戸水はある。それで、どんな商売を考えたんや」

 ゴルカが満を持して、背中のバックパックから紙の束を取り出して説明しようとした。


 キヨコが自然な態度で飲み物が入ったグラスを持ってきた。キヨコはグラスを手に取ると、グラスに入った飲み物をゴルカにぶっ掛けた。

 ゴルカが堪らず叫んで立ち上がった

「ひゃあけえ! 何するんや!」


 おっちゃんは目に力を入れて立ち上がった。

「たとえ、冷たい水を掛けられても、生粋のアルカキストっ子のゴルカはんなら、『ひゃあけえ』とは叫ばんな。つい、生まれが出たのう」


 偽者のゴルカの顔色が変わった。慌てて逃げ出そうとしたのでおっちゃんは跳び掛かった。

 おっちゃんは背後から組み付き、首を絞めて偽者ゴルカを気絶させた。偽者ゴルカを庭の木に縛り付けて、『魔法解除』を掛ける。

 ゴルカの顔付きが、貧相でチョビ髭の痩せた男の顔になった。

「しょうもない悪事を考えよるな。『変装』の魔法で化けていたんやな」


 おっちゃんは足の速そうな村の若い者を呼ぶ。

「すまんが、詐欺師の一人を捕まえたから引き取りに来てって、ビアンカはんを隣村から呼んで来て」

 偽者ゴルカの荷物を調べるが、盗んだ金は持っていなかった。また、身元が割れるような物も、持っていなかった。


 夕方前には、馬に乗ったアキリオスとビアンカがやってきた。

 アキリオスはかんかんだった。偽者ゴルカを見て恨みの声を上げる。

「こいつが、私を騙した詐欺師かどうしてくれよう」


 ビアンカは曇った表情で捜査情報を告げる。

「ハレハレ村で情報収集をしたわ。詐欺師の仲間は最低でも、あと二人はいるわよ」

「こいつは、アキリオスはんを騙したにしては、金を持っていなかった。金は仲間が持っておるか、どこかに隠しておるんやろうな」


 アキリオスが憤って声を荒げる。

「頼む。こいつを拷問に掛けて、金の在り処を吐かせてくれ。金の在り処を吐かないなら処刑だ」

「覚悟を決めてやっているような奴や。殺されても、金の在り処を吐かんかもしれん」


 アキリオスが憤然とした顔で訊く。

「なら、どうするんだ?」

「金は諦めるしかないですな。そんで、アキリオスはんの希望通りに明日に処刑しましょう」

 偽物ゴルカは本当に気絶しているのか、気絶した振りをしているのか知らない。だが、顔色を変えず、身じろぎもしなかった。


 アキリオスが悔しそうに詐欺師を睨みつける。

「金は惜しいが、処刑で我慢するしかないか」


 おっちゃんは村の人間に指示を出した。

「明日の夕方、詐欺師を処刑するから、処刑台を作って」

 おっちゃんの指示に村中がざわついた


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