第五百三十七夜 おっちゃんと詐欺師(前編)
手紙を出した四日後、舟に乗ったビアンカを筆頭に六人の冒険者がやってきた。
「何や、冒険者を頼んだらビアンカはんが来てくれたんか。これは心強いな」
ビアンカが明るい顔で尋ねてきた。
「おっちゃん、何やらトラブルに巻き込まれたようね。それで、私たちに何をしてほしいの。どんな仕事でもこなしてみせるわよ」
「あんな、隣のハレハレ村の代官を騙した詐欺師を捕まえてやりたい」
ビアンカが穏やかな顔でやんわりと意見する。
「随分と人がいいのね」
「わいの姿を使って悪事を働いておるんやから、他人事やあらへん。振り掛かる火の粉は払わんとな」
ビアンカの表情が少しばかり曇る。
「報酬はアレキサンダーから出るから、引き受けるのは問題ないわ。ただ、日数が経っているから、遠くへ逃げられていたら、アウトね」
「そうやねん。でも、わいの勘やと、詐欺師はまだ近くにおるような気がする」
「わかったわ。やるだけやってみるわ」
ビアンカは仲間を連れて、自信に満ちた態度で隣のハレハレ村へと出掛けていった。
(詐欺師が捕まるとええんやけど)
おっちゃんはビアンカを見送って、家の二階で事務作業をしていた。
昼過ぎに冴えない顔のキヨコがやってくる。
「貴方、お客さんよ。解呪組合のゴルカさんよ」
「ゴルカはん、はて何の用やろう?」
キヨコが曇った顔で告げる。
「でも、何か様子がおかしいわ。その、何ていうか、格好と雰囲気がちぐはぐなのよ」
「それは、ちと妙やな。でも、何ぞ事情があるかもしれん、会うてみるわ」
一階のリビングには解呪組合のゴルカが待っていた。
ゴルカは旅に適した厚手の茶の服に、丈夫なブーツを履いて、茶の外套を羽織っていた。背中にはバックパックを背負っていた。
(お洒落好きなゴルカはんにしては、格好がちとラフやな。気取った雰囲気がないのも、気になる)
ゴルカが愛想の良い顔で話し掛ける。
「おっちゃんさん。今日は村に利益になる話を持ってきました」
おっちゃんはゴルカに警戒心を持ったが、態度を偽る。
「おお、久しぶりやな。二年ぶりくらいか。元気そうで何よりや」
おっちゃんは鎌を掛けた。すると、ゴルカが苦笑いする。
「二年はないでしょう。この間、解呪組合で会いましたよ」
(ほおう、わいが最近、解呪組合に出向いた事実は、知っておるんやな。でも、これで、偽者やと相手に警戒している態度は伝わったか。さて、どうやって偽者か確かめたろうか)
おっちゃんは笑顔を作って話を進める。
「おお、そうやったなあ。そんで、どんなええ話を持ってきたんや?」
「解呪の井戸水を使った商売をしませんか」
(ははん、こいつ、詐欺師の仲間か同類やな。ハレハレ村の代官がちょろいと見たんだ。隣村でも荒稼ぎしたとう思うてきたんか)
「確かに、解呪の井戸水はある。それで、どんな商売を考えたんや」
ゴルカが満を持して、背中のバックパックから紙の束を取り出して説明しようとした。
キヨコが自然な態度で飲み物が入ったグラスを持ってきた。キヨコはグラスを手に取ると、グラスに入った飲み物をゴルカにぶっ掛けた。
ゴルカが堪らず叫んで立ち上がった
「ひゃあけえ! 何するんや!」
おっちゃんは目に力を入れて立ち上がった。
「たとえ、冷たい水を掛けられても、生粋のアルカキストっ子のゴルカはんなら、『ひゃあけえ』とは叫ばんな。つい、生まれが出たのう」
偽者のゴルカの顔色が変わった。慌てて逃げ出そうとしたのでおっちゃんは跳び掛かった。
おっちゃんは背後から組み付き、首を絞めて偽者ゴルカを気絶させた。偽者ゴルカを庭の木に縛り付けて、『魔法解除』を掛ける。
ゴルカの顔付きが、貧相でチョビ髭の痩せた男の顔になった。
「しょうもない悪事を考えよるな。『変装』の魔法で化けていたんやな」
おっちゃんは足の速そうな村の若い者を呼ぶ。
「すまんが、詐欺師の一人を捕まえたから引き取りに来てって、ビアンカはんを隣村から呼んで来て」
偽者ゴルカの荷物を調べるが、盗んだ金は持っていなかった。また、身元が割れるような物も、持っていなかった。
夕方前には、馬に乗ったアキリオスとビアンカがやってきた。
アキリオスはかんかんだった。偽者ゴルカを見て恨みの声を上げる。
「こいつが、私を騙した詐欺師かどうしてくれよう」
ビアンカは曇った表情で捜査情報を告げる。
「ハレハレ村で情報収集をしたわ。詐欺師の仲間は最低でも、あと二人はいるわよ」
「こいつは、アキリオスはんを騙したにしては、金を持っていなかった。金は仲間が持っておるか、どこかに隠しておるんやろうな」
アキリオスが憤って声を荒げる。
「頼む。こいつを拷問に掛けて、金の在り処を吐かせてくれ。金の在り処を吐かないなら処刑だ」
「覚悟を決めてやっているような奴や。殺されても、金の在り処を吐かんかもしれん」
アキリオスが憤然とした顔で訊く。
「なら、どうするんだ?」
「金は諦めるしかないですな。そんで、アキリオスはんの希望通りに明日に処刑しましょう」
偽物ゴルカは本当に気絶しているのか、気絶した振りをしているのか知らない。だが、顔色を変えず、身じろぎもしなかった。
アキリオスが悔しそうに詐欺師を睨みつける。
「金は惜しいが、処刑で我慢するしかないか」
おっちゃんは村の人間に指示を出した。
「明日の夕方、詐欺師を処刑するから、処刑台を作って」
おっちゃんの指示に村中がざわついた




