表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ホレフラ村編
530/548

第五百三十夜 おっちゃんと次なる産業(後編)

 おっちゃんは『瞬間移動』でカルルン山脈を越える。カルルン山脈にいるゴークス族に会いに行った。

 ゴークス族とは人の体に山羊の頭を持つ種族である。だが、人間とも交易を持つ異種族だった。


 村の入口には周囲百mの石造りの交易所があるので顔を出す。

「今日は、お願いがあって来ました。ランテンの木に実を着ける方法を教えてほしい」


 ゴークス族の商人は、つんとした顔で突っ撥ねた。

「それは簡単には教えられないね」

「教えてくれたら、情報提供料を払います」


 ゴークス族の商人は冷たい顔で拒絶する。

「あんたは人間の冒険者だろう。だったら、自分で調べるんだね」

(これは、正面から行っても駄目やな)


 おっちゃんは麓の街のバルスベリーに顔を出して、友人のセサルを訪ねた。

 セサルは、薄いオレンジ色の肌をした青い髪の三十くらいの男性だった。服装は灰色のローブを着て足が少し悪いので、足を引きずるようにして歩く。


「こんにちは、セサルはん。ちと、助けてほしい」

 セサルが愛想よく応じる。

「久しぶりですね。いいですよ。今度は、何を調べてほしいんですか?」


「ここから西に行った場所に、ホレフラ村がある。その村の南には立ち枯れた森があるんやけど、ランテンの木だけ無事やった。このランテンの木に実を着けさせたいんや」

 セサルは、おっちゃんが次にやりたい内容を理解した。

「なるほど。上手くいけば、ホレフラ村でも伝説の喉飴と同じ物ができますね」


「そうや。今そのホレフラ村を救わなならんねん」

「時間と費用が掛かって良いなら、調べてあげましょう」

 おっちゃんは金貨を払うと、セサルに調べ物を依頼した。

「よろしゅう頼むわ」


 一週間後、セサルの家に『瞬間移動』で顔を出す。

 セサルが明るい顔で待っていた。

「おっちゃん、だいたいの理屈は、わかりました」

「ほんまか? ランテンの実を成らせるには、何が必要なんや?」


 セサルが知的な顔で説明する。

「百倍に希釈した、毒蛇ベムボルトの毒です。ベムボルトの毒は人や動物には有害でも、植物には無害です」


 予想できた難題だった。

「やはり、そうか。となると、入手は難しいな」

「ただ、あの大きなゼナ・ベムボルトではなく、ただのべムボルトの毒でも、小さいですが実は成ると、文献にありました」


「でも、森に毒蛇を放すわけにはいかん。毒はバルスベリーからの輸入になるな」

 セサルが雲った表情で意見する。

「そうなりますね。カルルン山脈を越えて運ぶとなると、高く付きますが」


「陸路で運ぶとなると、ランテンの木が実を付けても利益が出るかどうか厳しいな」

「そこは商売の問題なので、私は何ともアドバイスできません」


 セサルに申し出た。

「あと、伝説の喉飴の秘伝のレシピやけど、それを基にホレフラ村でも伝説の喉飴を作っても、ええ? もちろん、レシピの代金は払う」

 セサルが柔和な笑みを湛えて応える。

「お金は要らないですよ。もう、レシピは公開したも同然ですから」


 おっちゃんはバルスベリーを出ると、『瞬間移動』でホレフラ村の家に帰る。

 家にはお客さんがいた。お客さんは椅子に座り、テーブルを挟んでキヨコと談笑をしていた。

 客人の身長は百五十㎝。フード付きの厚手の青い上下の服を着ていた。

(はて、誰やろう? キヨコの知り合いか)


「ただいま、帰ったで。お客さんか?」

 お客さんが振り返る。お客さんは白い肌の二十代後半の男性だった。髪は白く短く、緑色の眼をしていた。お客さんはモルモル族と呼ばれる異種族だった。

(東大陸にいるんやな、モルモル族)


 モルモル族の男性が椅子から立ち上がり、丁寧に挨拶する。

「こんにちは、村長さん。私はモルモル族の行商をしているハウルと申します。何か、ご入用の品は、ありませんか」

「異種族の行商人か。誰かの紹介か?」


 ハウルは笑顔で申し出る。

「ビアンカ様からの紹介です。是非、ホレフラ村に寄ることがあったら、村長宅を訪ねるようにとのお願いがありました。なので、寄らせてもらいました」

「ハウルはんの商売は陸路? 水路?」


 ハウルは、感じのよい笑顔で応じた。

「水路でございますが、多少は水脈から離れた場所へも出張いたします」

(水脈物流を使(つこ)うたほうが、安く上がるかもしれんな)

「そうか。なら、カルルン山脈を越えて、品物を運べるか?」


 ハウルは明るい顔で話を進める。

「カルルン山脈の地下には水脈が走っているので、可能でございます」

「なら、難しい品を注文して、ええか?」


 ハウルは気負うことなく申し出る。

「相応の対価を払っていただけるのなら、たいていの仕入れは可能です。それで、何を仕入れてきましょう」

「毒や。カルルン山脈に棲息する毒蛇ベムボルトの毒を、仕入れてきてほしい」


 ハウルがおっちゃんの注文に(ひる)んだ。

「難しい注文ですが可能です。ですが、その毒蛇ベムボルトの毒は何に使うおつもりですか」

「何にって、木の肥料にするんや。この特別な肥料があるとランテンの木に実が成る」


 ハウルが明るい顔に戻って、ソロバンを出して弾く。

「では、ワイン・ボトル一本分を、このお値段でいかがでしょう」


 おっちゃんは金額を確認する

「結構、ええ値段がするやん。これ以上は安くならんの?」

 ハウルは澄ました顔で、ぴしゃりと発言した。

「これ以上の値引きは無理でございます」


「初回取引やし。お互いに、やってみなければわからん内容もある。その値段で買うわ」

 ハウルは行儀良く頭を下げた。

「ありがとうございます。では、手に入り次第、お持ちします」


 ハウルが帰ろうとしたので、引き止める。

「ほな、待っているわ。あと、まだ話があるねん」

「はい、何でございましょう?」


「村で名産品として、苺ジャムを作る予定があるねん。よかったら、買わへんか?」

 ハウルは、やんわりと拒絶した。

「品物が品物だけに、呪われた苺から作るジャムはちょっと」


「呪いは解くで」

 ハウルが冴えない顔で拒絶した理由を伝える。

「そうは仰られても、万一、呪いが解けなかった品が混入した場合を考えると、怖くて買えません」


「そうかー、なら、無理にとは頼まんわ。なら、(のど)(あめ)はどうや。呪術詩が歌えるようになる喉飴や」

 ハウルの顔が輝く。

「喉飴でしたら、買わせていただきます」


「なら、商品化できたら声を掛けるわ」

 ハウルが元気良く頼んだ。

「これからは、定期的に村に寄らせてもらうので、完成したらお声をお掛けください」


【告知】

『おっちゃん冒険者の千夜一夜』の三巻は8/25発売です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ