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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ホレフラ村編
525/548

第五百二十五夜 おっちゃんと村の現状把握

 ホレフラ村の遙か東にはカルルン山脈がある。カルルン山脈を越えれば、バルスベリーの街がある。だが、あまりにも遠いので、貿易に行くには不向きだった。

 メダリオス河を下れば、法王庁の街があるバレンキストに辿り着く。以前は村の南部から木を伐り出して筏を組んで木材を輸出していた。


 されど、村の南の森林は砂漠化の影響で、ほとんどが枯れている。木が枯れて朽ちたために輸出には不向きになっていた。

『浄水の神域』が機能するようになったので、砂漠化は停まった。でも、一度は枯れた森が元に戻るのに、どれだけ掛かるか、わからない。


「参ったのー。農業も牧畜も林業も漁業もダメで、輸出する品もない、では村は立ち行かないで」

 おっちゃんは隣村の様子が気になった。挨拶がてら、ロバにエールのハーフ樽を積んで隣村に向かった。


 隣村はハレハレ村と呼ばれており、歩いて九十分の場所にある。ハレハレ村はホレフラ村より少し大きく、家が百軒ほど建ち、五百人が暮らす村だった。

 村は国王の所領で代官が治める村だった。なので、代官に挨拶しに行く。


 代官の家は四百㎡ある木造二階建ての屋敷だった。屋敷の入口で、下男と思わしき年配の男に用件を伝える。

「隣のホレフラ村に村長として赴任して来た、オウルといいます。今日はお隣に赴任してきた挨拶に来ました」


「少々お待ちください」と下男は引っ込むと、一人の男を連れてきた。頭が禿げた小太りの四十代の男だ。

 男は丸顔で血色がよく、緑の刺繍がある、赤いゆったりとした服を着ていた。男は胡散臭そうに、おっちゃんを見る。


「隣のホレフラ村に赴任してきたオウルです。元はおっちゃんいう特認冒険者でした。以後よろしく、お願いします」


 おっちゃんが頭を下げると、男が鷹揚な態度で応じる。

「赴任の挨拶に来るとは、感心な男だな。私はこの村をあずかる、アキリオスだ。以後、よろしくな」

「ほな、これお近づきの印のエールです。よかったら、飲んでください」


 アキリオスは高慢な顔で下男に命じる。

「おい、これを台所に運んでおけ」


 下男がロバを借りて、エール樽を持って行く。

「そんで、アキリオスはん、ホレフラ村とハレハレ村の間で何か問題を抱えていませんか? わいは、まだ赴任してきたばかりで、詳しい話を知りませんのや」


 アキリオスは難しい顔をして、横柄に告げる。

「いいや、特に問題はない。付き合いも、それほどないがな」

「そうですか。ほな、これを機に、ええお付き合いをしてください」


 アキリオスは、ふんぞり返った態度で了承した。

「そっちが頭を下げるなら、考えてやらんでもない」

「ありがとうございます。そんで、一つ訊たいんやけど、うちのホレフラ村では、作物がよう育たないんやけど、こっちのハレハレ村でも、状況は同じですか?」


 アキリオスが素っ気ない態度で教えてくれた。

「ハレハレ村は、そうでもないぞ。それなりに小麦が穫れている」

「そうでっか。うちの村だけが、悪いんか。これは何か、考えんといかんな」

「そう落ち込むな。立地の問題もある」


 ロバを返してもらい、道を歩く。

 おっちゃんは帰りに農夫に遭ったので、話し掛ける。

「こんにちは。わい、隣のホレフラ村に赴任して来た村長なんやけど。このハレハレ村って、作物がよう育つの?」


 農夫は暗い顔で、首を横に振った。

「ホレフラ村に親戚がいるから、わかるよ。こっちの収穫量のほうが、幾分ましさ。だけど、税を払えば、手元に残る量は同じさ」

(そうか。どこも、お百姓さんの暮らしは大変なんやな)


 おっちゃんが村に戻ると、お客さんが待っていた。二十代後半の女性だった。

女性の身長はおっちゃんより五㎝ほど低い。短いショートカットの金髪に白い肌をしていた。瞳の色はブルーで小さな口をしている。

 格好は冒険者が好む軽装革鎧を着て、小ぶりのバック・パックを背負っていた。


 おっちゃんは女性を知っていた。

「なんや、ビアンカはんか。しばらく見んうちに、綺麗になって。今日はどうしたん? 猊下の遣いか?」


 ビアンカは優しい顔付きで、内情を説明した。

「今日は村の南にある立ち枯れの森を、仲間と一緒に調べにきたのよ。森は法王の物だから、森に入る前に、管理者の村長に挨拶に来たの」

「何や? 南の枯れた森には、遺跡があるんか?」


 ビアンカが微笑んで教えてくれた。

「ええ、あるわよ。森が枯れた時に見つかって、もう数回は調査が入っているわ」

「それで、何の遺跡やの?」


 ビアンカの表情が曇る。

「遺跡は古く、数百年前のもので、何かの貯蔵庫だった。ここまでは、わかっているわ」

「ひょっとして、宝物庫か?」


 ビアンカは穏やかな顔で、やんわりと否定した。

「違うと思うわ。床や壁には土が多く残っていたから、土の貯蔵庫だったのではないいかと考えられているわ」

「何や? 食料でも宝でもなく、土を保管しておくとは、変わった貯蔵庫やな」


 ビアンカは、ちょっと首を傾げる。

「そうなのよ。だから、謎とされているわ」

「そうか。あとで行ってみるかな。村のことは、何でも把握しておかないと気がすまん」


 ビアンカが帰ろうとしたので、頼む。

「ちょっと待って。調査が終わったら、またここに寄ってほしい。仕事がある」


 ビアンカが興味を示して尋ねる。

「仕事の依頼? どんな仕事?」

「漁具を壊す悪い奴らを、捕まえてほしい」


 ビアンカは軽い調子で請け合った。

「簡単な仕事ね。いいわ、調査が終わったら、仲間と一緒に寄らせてもらうわ」

「助かるわ」


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