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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ホレフラ村編
523/548

第五百二十三夜 おっちゃんと村の再建依頼

 夜の冬空の下、魔法の明かりの灯る大きなモミの木の下で、二人の人間が戦っていた。

 一人は男性。男性の身長は百七十㎝。軽装の革鎧を着て革手袋を履いている。細長いエストックと呼ばれる剣を武器に戦っていた。


 男の年齢は四十六と行っており、丸顔で無精髭(ぶしょうひげ)を生やしている。頭頂部が少し薄い。おっちゃんと名乗る冒険者だった。

 おっちゃんと戦う人物は白髪の老女剣士。老女剣士はおっちゃんと似たような軽装革鎧を身に纏い、こちらもエストックを構えて戦っている。二人の実力は伯仲しており、中々勝負が付かない。


 おっちゃんの息は白く、額からは汗が流れている。対する老女剣士は人間ではないのか、吐く息は透明で、汗一つ掻いていない。

 戦いは長引くと、おっちゃんの不利に見えた。


 だが、おっちゃんは、勝負を急いだりはしない。ただひたすら突いて、相手の攻撃を(しの)ぐ。

相手に一瞬の隙ができたのを見逃さない。ギン、と音がして老女剣士が剣を落とした。おっちゃんは息を切らせたまま、老女剣士に剣を突きつけて宣言する。

「わいの勝ちのようやな」


 老女剣士は微笑んで告げる。

「そのようですね。負けを認めましょう。おっちゃんさんと、その奥方様には、泉に入る権利を認めましょう」

「やったで、キヨコ。若返りの泉に入る権利を認めてもらったで」


 おっちゃんの視界の先には一人の女性がいた。

 年の頃は四十代。赤みが掛かった、肩まである黒髪。小麦色の肌。細い眉と小さな口。ぱっちりとした大きな目。それに、安らぎを覚える柔和な顔をしていた。おっちゃんの奥さんのキヨコである。

「わたしの自慢の旦那様なら、勝てると思ったわ」


 おっちゃんとキヨコは、『ユババ大森林』にある若返りの泉に旅行に来ていた。ただ、若返りの泉に入るには、泉の精に認められなければならない。おっちゃんはキヨコと一緒に若返りの泉に入るために、泉の精である老女剣士と勝負していた。


 腰にタオルを巻いて軽く泉の水を浴びる。泉の水は、ほどよく(ぬる)く、冬でも冷たくはなかった。キヨコもバスタオルを巻いて泉に入って来る。

 おっちゃんは安らいだ気持ちで、キヨコに声を掛ける。

「どうや? 若返りの泉の水は、気持ちええやろう」


 キヨコはニッコリと微笑む。

「ええ、さすがは私の旦那様だわ。こんな素敵な場所を知っているなんて、驚きだわ」


 おっちゃんは夜空に浮かぶ満月を見詰める。

「そろそろ、日付が変わって、新年や。わいも、これで四十七や。キヨコとこうして年を取れて、わいは幸せや」


 キヨコも、うっとりした顔で相槌を打つ。

「そうね。こうして二人で泉につかって夜空を見上げる日が来るとは思わなかったわ」

「来年も、そのまた次の年も一緒に新年を迎えられるとええな」

「そうね」とキヨコが安らいだ顔で答える。


『ユババ大森林』で若返りの泉に入った後、おっちゃんはキヨコを連れて、ニコルテ村に戻った。

 ニコルテ村は人間と木乃伊が共存する人口八百人の村である。村には小さいながらも村人が建ててくれた家があった。


 おっちゃんが家に帰ると、新たに赴任した若い男性の村長が、手紙を持ってやってきた。

 村長はひょろっと背の高い、丸顔の男性だった。服装は茶のズボンを穿き、クリーム色のベストを着ている。村長が穏やかな顔で手紙を差し出す。


「おっちゃんさん、大事な手紙を預かっています」

 おっちゃんは手紙を確認する。

 手紙の差出人は東大陸の法王アレキサンダーからだった。

「何や、法皇様から手紙か。何やろう?」


 中を開けて読む。

 内容は法王の直轄領であるホレフラ村の再建に力を貸してほしい、と要請するものだった。

 キヨコが興味を示した顔で、おっちゃんに尋ねる。

「貴方。手紙はどんな内容だったの? また、冒険の話?」


「ちゃうねん。村の再建を手伝って欲しい、との依頼や。でも、断ろうと思う。キヨコかて、ニコルテ村でゆっくりしたいやろう」

 キヨコは微笑む。

「そんなことないわよ。私は旦那様が行くところに()いていくわ」


「でも、村の再建やから、これから行く場所は寂れた場所にある辺鄙(へんぴ)な村やで」

 キヨコが柔和な笑みで勧める。

「そうでしょうね。でも、何の問題もないわ。貴方は、貴方がやりたいようにやって」


「わかった。法王アレキサンダーはんを助けに行こう」

 おっちゃんは村長に頼んだ。

「帰ってきて、また、すぐ旅立つことになってしもうた。また、家の管理を頼めるか?」


 村長は機嫌よく応じた。

「いいですよ。前任のアイヌルさんからも、おっちゃんさんは忙しい人だと聞いておりましたから。では、行ってらっしゃい」

「ほな、行ってくるわ」


 アレキサンダーに会いにバレンキストの法王庁に出向く。

 西大陸から東大陸に渡る船の上でキヨコが機嫌よく尋ねる。

「今までも、村の再建の仕事をしてきたの?」

「村の再建は二回目やな。ニコルテ村の時みたく上手くいくといいんやけど」


 キヨコは明るい顔で励ます。

「きっと今度も上手く行くわ。だって私の自慢の旦那様だもの」

「あまり、プレッシャーを掛けんといてくれ。キヨコの前だと失敗はしたくない」


 キヨコはふふふと笑う。

「もう、そんなに気負わなくていいのに。格好がよくても、悪くても貴方は貴方よ」

「そうか、なら、いつもの通り全力でやってみるわ」


 アレキサンダーの執務室には、二十畳ほどの前室があり、侍従と聖騎士三名が控えている。

 前室を抜けると六十畳ほどの広さの部屋があった。部屋の中央に大きな木製の机と椅子があり、簡単な応接セットがあった。


 部屋の中には赤い絨毯が敷かれ、壁も赤で統一されていた。天井に九名の天使からなる天井画が描かれていた。

 椅子に腰掛けるアレキサンダーは、法王といっても、まだ、二十代。青年の面影を残す痩せた男性だった。


 アレキサンダーは黒い髪を肩まで伸ばし、細い眉をしている。髭は綺麗に剃られていた。理知的な顔で思慮深く、学者風で、白い僧服を着ていた。

「猊下、来るのが遅うなって、すんまへん。ちと嫁さんと、あっちこっち旅行に行っていた」


 アレキサンダーがにこにこした顔で尋ねる。

「そうですか、充実した日々を送っていて何よりです。手紙は読んでくれましたか」

「読んだで。村の再建やて? 村は、どんな状況や?」


 アレキサンダーの顔が、にわかに曇る。

「作物が育ち難い貧しい村でした。さらに、追い討ちを懸けるように水害で壊滅的な打撃を受けて、一度は村人が捨てた村です」

「それは、大変な村やな」


 アレキサンダーは困った顔で告げた。

「ですが、近年になって水害は減り、作物を育つようになったと報告を受けました。なので、難民の定住化事業として再入植を試みたのですが、うまく行っていません」

「何ぞ、問題でも、あるんか?」


「入植者は人間の他に、ワー・ウルフが半々なのですが、村の中では融和が進まず、事前の予想より作物も育たないそうなのです」

「それは、軌道に乗せるには、大変やな」


 アレキサンダーは真摯(しんし)な態度で頼んだ。

「ですから、どうにかお願いできないでしょうか」

「猊下には、東大陸で異種族を人間と同等に認める勅旨を出してもらった、借りがあるから、引き受けるわ。村はどうにか軌道に乗せる」


 おっちゃんはアレキサンダーから、任命書と予算の入った金貨の袋を受け取った。

地図を買ってキヨコの待つ宿屋に行く。

「村の状態を聞いて来た。わいはすぐにも村に行くつもりやけど、キヨコはどうする?」

キヨコは明るい顔で答える。

「私は生活に必要な物を買ってから、後を追うわ」


「そうか。なら、村の場所を書いた地図を渡しておくから、後から来てくれ」

「少し時間がかかると思うから、待っていて」


 おっちゃんは宿屋を出ると、街の外れから『瞬間移動』を唱えた。

 おっちゃんは、魔法が使えた。どれくらいの腕前かというと、小さな魔術師ギルドのギルド・マスターが務まるくらいの腕前だった。


 おっちゃんは近くの街のゼネキストまで『瞬間移動』で飛ぶ。おっちゃんはロバとエールのハーフダルを二個買って、赴任地であるホレフラ村に歩いて行く。

【お知らせ】

新作『あくまで悪魔デス。いけるとこまで金の力でレベル・アップ~【キルア&ユウタ】編~』と『あまりにも不味い料理を喰って死んだら屍解仙になって超能力者養成学校に連れて行かれた』を始めました。

 新作を作成につきしばらくの間、『おっちゃん』→『悪魔デス』→『屍解仙』→『おっちゃん』の順で更新しようと思います。更新頻度が落ちますが、よろしくお願いします。

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