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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
クランベリー編
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第五百十八夜 おっちゃんとラウラの野望

 コンテストの数日後、おっちゃんは市長舎に呼ばれた。

 市長舎の応接室には、市長のエンニオがおらず、ターシャと黒い平服に身を包んだカイロスがいた。

(あれ? カイロスはんや。何で、ミノタウロス族の裁判所長殿がこんなとこにおるんやろう? 和睦の話を詰めに来たんやろうか?)


「カイロスはん、久しぶりです。今日はどんな御用でっか?」

 カイロスが困惑した顔で切り出した。

「ラウラ女王陛下の件です。ラウラ様がダンジョン・マスターになりたいと言い出して困っています」


「そんなの、簡単になれるものやないで。それに、ミノタウロス族がダンジョン持ちになったら、また話がややこしなるのと違いますか?」

 カイロスが曇った表情でお願いした。

「そうです。だから、困っています。そこで、おっちゃんさんにお願いなんですが、ラウラ様に思い留まるように説得しもらいたい」


「説得も何も、ダンジョン持ちには簡単には、なれませんよ。どうやって、ダンジョン持ちになる気なんやろう?」

 カイロスが、苦い顔で説明する。

「我がミノタウロス族には、先々代が貯めた大量の銀がある。これを使ってラウラ女王陛下はダンジョンを作ると言い出しました」


「止めたほうがよろしいわ。そんなの、時間もお金も無駄になりまっせ」

 カイロスが真剣な顔で依頼する。

「ですから、中止させてほしい。人間の側からダンジョンを造っても人が来ないと意見されれば、ラウラ様も考えを改めるでしょう」


(ラウラはんは、そんな無駄な事業をやるお人に見えんかったけどなあ。これは、何か訳があるのかもしれん)

「わかりました。なら、説得に行きます」

「よろしく、お願いします」とカイロスは帰った。


 ターシャが冴えない表情で質問する。

「ミノタウロス族がダンジョン持ちになりたいだなんて、本気なのかしら?」

「わいの勘では本気とは思えません。ラウラはんの考えには、別の意図があるかもしれません」


「なら、行って確かめてきて。金貨は用意できたんだけど、受け入れについて、動きがないのよ。ここいらで使者を出そうと考えていたところだから」

「わかりました。任せてください」


 おっちゃんはダイダロスの関所に向かう。

 カイロスが準備していてくれた馬車が待っていた。馬車で王の館へと向かった。

 王の館に着くと、ラウラは帰ってきていないとのことなので、部屋で待たされた。

 簡単な食事が出されて夜になる。部屋に魔法の灯が灯されて深夜になった。


 おっちゃんは寝ないで待っていた。すると、やっとラウラに会えた。

 ラウラは疲れた顔を隠さなかった。

「随分とお待たせしたようね。こっちも、仕事が押していて食事する間もないわ」

「政権交代に伴なって主要な役職を交代させたから、大変なんでしょうな」


 ラウラが涼しい顔で尋ねる。

「誰から政権の内幕を聞いたの?」

「誰からも聞いていません。せやけど、以前は裁判所長だったカイロスはんがやってきました。これは裁判所長の仕事やないから、人事異動があったと予想しました」


 ラウラが気の良い顔で、内情を明かした。

「正解よ。人事で大鉈を振るったわ。おかげで、政府は混乱しているわ。だけど、私がやりたいようにやるなら、人事は大きく動かさなければならないのよ」

「トップが替わったのなら、やり易いように変えたら、ええ。さて、ここからが本題です」


 ラウラが穏やかな顔で先を促す。

「こんな深夜まで待っていたのだから、大切な話なんでしょうね?」

「ラウラはんがダンジョン持ちになろうとしていると聞きました」


 ラウラが気取った顔で持論を述べた。

「そうよ。我がミノタウロス族の発展に、ダンジョンは欠かせないわ」

「止めたほうがよろしい。ダンジョン持ちは簡単になれるものやない」


 ラウラは心配ない顔で、上品に意見した。

「我がミノタウロス族には、祖父の代に手に入れた大量の銀があるわ」

「銀は別の事業に使(つこ)うたほうが、国民は幸せになります」


 ラウラが思わせぶりな態度で質問した。

「なら、止めてもいいわよ。でも、私が意見を変えたことで、人間は何を得るのかしら?」

おっちゃんは、ピンと来た。

(ははん、ラウラはんの狙いが、読めたで。馬鹿げた公共事業を人間の手で止めさせた実績を作る。その借りを返す形で和睦反対派を押し切らせよう、いう作戦やな)


「人間側として、得るものも失うものも、ありません。ただ、ダンジョン持ちにならないほうが、いいお付き合いは、できると思います」

 おっちゃんは遠回しに、ラウラの意図を確認する。

 ラウラはにこやかな顔で会談を終える。

「そう、なら、考えてあげてもいいわ。また、明日に話しましょう」


 翌昼に冴えない顔のカイロスがやってくる。

「カイロスはん。深夜まで会談をしたけど、ラウラはんの意見を変えられそうやで」

 カイロスの顔が輝いた。

「何と、本当ですか?」


 おっちゃんは勿体つけて発言する。

「あと、もう一押しや。今晩も話せば、ラウラはんはわかってくれる」

 カイロスがほっとした表情で、意見を口にする。

「それは、よかった。大事な銀を馬鹿げた事業に使わなくて済む」


「おっと、話はまだ続きがあるで。今回の交渉を纏めた報酬が欲しい」

 カイロスの顔が途端に歪んだ。

「何と! いかほど要求される気ですか!」

「大した話やない。和睦交渉をさっさと進めたい。金貨の準備ができたから受け取ってや」


 カイロスが晴れない顔で、内情を暴露した。

「実は和睦については、政権内でまだ不満を述べる勢力が多いのです」

 おっちゃんは冷たい態度を採って、席を立とうとする。

「和睦が無理なら説得もしないで。義理もないしのう」


 カイロスが慌てて引き止めた。

「それは困る。ここでラウラ女王陛下に是非とも考えを変えてもらわなければ」

「なら、覚えておいてや。ラウラ女王陛下に考えを変えてもらう。これは、人間側からの貸しやで」

 カイロスが渋い顔で了承してくれた

「人間側に借りなんて造りたくない。いいでしょう。和睦の件はどうにか進めます」


 ラウラが深夜に帰って来たので、確認する。

「カイロスはんが折衝(せっしょう)に動くようや。和睦は進む。せやから、ダンジョン持ちになる件も引っ込めてや」

 ラウラが、うんざりした顔で告げる。

「本当に、いちいち手間を掛けないと事態が進まなくて、嫌になるわ」


「それでも、前に進めるのなら、大した手腕や」

 おっちゃんが帰った三日後。ミノタウロス族から賠償金を運搬する部隊が到着した。

「これが賠償金です」とエンニオが改まった顔で金貨を渡して、和睦は成立した。


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