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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
クランベリー編
516/548

第五百十六夜 おっちゃんと遺言開示

 四日目に来客があった。相手は茶色の肌の、ミノタウロス族の男性だった。

 男性は黒い色のゆったりした裁判官服を着ていた。男性がおっちゃんをじろりと見て、発言する。

「裁判所長のカイロスです。二、三、お聞きしたい内容があり参上しました」

「へえ、何でしょうか?」


 カイロスがおっちゃんを見定めるように確認する。

「あなたが冒険者の、おっちゃんですね?」

「わいが冒険者のおっちゃんですが、どんな御用でっしゃろ?」


 カイロスが真剣な顔で告知する。

「貴方が持ち帰った木箱には、先王の遺言が入っていました」

(まあ、予想はしていた)

「それで、何と書いていました?」


 カイロスが厳しい表情で教えてくれた。

「この遺言書を手にした子孫に、王位を譲る」

(おっと、この展開は意外やな。でも、わいにしたら嬉しい流れや)

「なら、ラウラはんが女王でっか?」


 カイロスが表情を歪めて伝える。

「法律上はそうなります。ですが、ここで、異議が申し立てられました」

「ははん、ラウラはんはわいの手を借りた。つまり、いちど遺言状が人間の手に渡っている以上、偽造されたんやないかと疑ったんやな?」


「はっきり申し上げれば、そうです」

「わいは、隠してあった場所で見つけただけ。蝋の封印かて、そのままに持ち帰りました」


 カイロスがおっちゃんを見据えて問い(ただ)す。

「つまり、法と正義の神に誓って、嘘はないと申告するんですね」

「ええ、誓って嘘はないで」

「では、私がここに来る前に遺言状の中身を知っていましたか?」

「いいえ、カイロスはんから初めて聞きましたわ」


 カイロスの言葉が(やわ)らぐ。

「おっちゃんさんの言葉に嘘はないですね」

(何や。部屋に入る前に、魔法を使っていたんか。当然やね)


 おっちゃんは気になったので尋ねた。

「一つ質問してもええですか? ラウラはんは女王になれそうですか?」

 カイロスがむすっとした顔で答えた。

「なれるでしょう。なってもらわなくては、法律家として困る」

「なら、人間との和睦は先王の言葉通りで、変更はなしと考えていいんやろうか?」


 カイロスが素っ気ない態度で、回答を拒否した。

「私は法律家であって、政治家ではありません。その問いには答えられませんな」

 カイロスが帰ると、二日後にラウラがやってくる。ラウラの顔に疲れの色があった。

「お待たせして、申し訳ありません。色々と厄介な手続きがありました」


「そうですか。女王になるのも大変でしょうが、頑張(がんば)ってください」

「そうね、大変よね」とラウラは愚痴った。

「ほな、わいの用件を済ませても、ええですか。新しい女王に先王のお悔やみを申し上げて、献花するのが、仕事ですから」


 ラウラが穏やかな顔で、あっさりと告げる。

「わかったわ。お悔やみは今ここで聞いて、献花も頂いた経緯にするわ」

「街に行ったら、まずいですか?」


 ラウラが表情を曇らせる。

「今は、まずいわ。下手に街に来ると揉め事が起きそう」

「そうですか。なら、帰りますわ。あと、和睦の条件は先王が出した通りと考えて、ええやろうか?」


 ラウラが気のよい顔で請け合ってくれた。

「和睦の条件の変更はないわ。これは、ブレンダルの女王の決定よ」

「わかりました。それなら、大手を振って帰れます」


 ラウラが柔和な笑みを浮かべて、頼んだ。

「そう。あと、これから、友情と親しみを込めて、おっちゃんと呼んで、いいかしら?」

「ええですよ。実際に、おっちゃんですし」


 おっちゃんはダイダロスの関所を後にして、クランベリーの街に戻った。

 市長舎に寄って、エンニオとターシャに報告する。

「只今、戻りました。ミノタウロス族は、女王ラウラはんが王位を継承します。そんで、和睦の条件に変更はないそうです」


 エンニオがほっとした顔をする。

「いやあ、よかった。なら、和睦が成立しそうだ」

 ターシャも安堵した顔で(ねぎら)

「ご苦労様。これで一安心ね」


「へえ。ただ、ラウラ政権は、まだできたばかりで、安定していないので、注意は必要です」

 エンニオが気楽な顔で告げる。

「でも、政変なんて、簡単には起きないだろう」

「だと、ええんですけどねえ」


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