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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
クランベリー編
513/548

第五百十三夜 おっちゃんとタウラス王

 翌日の朝に食事を終えると、外に出るように命じられた。

 外は晴れており、天気がよかった。石畳の上には赤い敷物が敷かれ、机を挟んで豪華な椅子と普通の椅子が用意されていた。


 おっちゃんは、普通の椅子に座って待った。すると、二十人の護衛と六人の家臣を引き連れた、ミノタウロス族の男性が現れた。

 男性の年齢は七十を過ぎていると思われたが、筋骨隆々だった。男性は銀糸で龍をあしらった派手な緑の服を着て、緑の布帽子を被っていた。


 護衛の兵士が(かしこ)まって告げる。

「タウラス陛下のおなりである」

(いきなり、国王が出て来るとは、これは、和睦いけるかもしれんな)


 おっちゃんは席を立って、タウラスが座ってから改めて座る。

「クランベリーの街の市長の遣いで来ました。オウルといいます。この度はとんだご迷惑をお掛けしました。都合がよい申し出ですが、和睦したい」


 タウラスは怒った様子もなく、澄ました顔で尋ねる。

「人間が非を認めて和睦を申し出るなら、別に、聞いてやってもよい」

(おっと、これは幸先がいいね。すんなり行くかもしれん)

「して、和睦の条件は何んでっしゃろ? できる限り、ご要望に添いたいと申します」

「なら、金貨千枚でいいだろう」


(何や、賠償金だけでええんか。しかも、金貨千枚っては、破格の安さやで)

 おっちゃんと同じ内容を考えたのか、家臣の一人が険しい顔で申し出る。

「畏れながら陛下、その条件では、こちらが不利です。せめて、一万枚を請求しては、どうでしょう」


 タウラスが、意見した家臣を不機嫌に見詰める。

「一万枚もの金貨は、人間側が用意できないであろう」

 家臣が弱った顔で、申し出る

「金貨千枚では、防衛に要した戦費を賄うのが、やっとです」


 他の家臣も「そうだ」と同意せんばかりに、小さく頷く。

 タウラスが怒った顔で家臣を大声で叱り付ける。

「我が国ブレンダルには祖先が残してくれた銀がある。(かね)なら国にあるのだ」


 タウラスの言葉に、家臣は黙った。タウラスは真剣な顔で家臣を諭す

「掻く必要のない欲を掻けば、国に災いを(もたら)す。それよりも、早急に人間との関係を修復して今後の(いさか)いを防いでほうが国益に叶う。憎しみは忘れなければ、国を腐らす病となろう」

 おっちゃんはタウラスの言葉と態度に感心をした。

(何や中々言える言葉やない。タウラスはんは立派な哲学を持った王や)


 おっちゃんは静かに分析をする。

(タウラスはんが王様なら、このダイダロスの関所を破ったところで、それより先に人間は進めんかったやろう。この国に喧嘩を売るのは、間違いやったな)


 タウラスの言葉に家臣は黙った。

 タウラスは改めて、おっちゃんに向き直った。

「条件はしかと伝えた。あとは、そちらで検討してくれ」

「わかりました。早急に金を掻き集めるように、市長に進言します」


 おっちゃんは、その日の内に解放されたので、市長舎に急いだ。

 市長舎にはエンニオとターシャがいたので報告する。

「和睦に応じても、ええそうや。条件は賠償金で金貨千枚や」


 ターシャの顔が曇った。

「嫌に少ない賠償金ね。条件は誰が言い出したの?」

「タウラス王が自ら会って申し出たから間違いないで」

 エンニオが安堵した顔で喜ぶ。

「金貨千枚なら、銀行家を回れば集められる。いや、集めてみせる」


 ターシャの表情は、冴えなかった。

「街の景気が上向いて来ているから、有力者を回れれば金貨は集まるわ。でも、話がうますぎる気がする」

「わいが見た感じ、賠償金で安心させておいての不意打ちはない」

「どうして、そう断言できるの」とターシャが心配した顔で尋ねる。


「兵の動きを観察する時間がありました。街を攻めるような訓練はしていなかった。あとは、石畳の上を通過する音や」

「音?」とエンニオとターシャが怪訝な顔をする。

「戦争をやるなら物資が大量に要る。でも、関所に来る荷車はそう多くなかった。もし、戦争をするなら、もっと、荷車の音がする」


 ターシャが感心した顔をする。

「よく見て、よく聞いていたわね。いいわ、戦争の準備をしてないなら、和睦の話は本当と見ていいわね。よくやったわ」


 おっちゃんが街に戻ってから四日後のことだった。

 夜に宿屋の自分の部屋にいると、ターシャが青い顔をして、息を切らしてやってきた。

 ターシャはおっちゃんの部屋に入ると、真剣な顔で伝える

「おっちゃん、悪い知らせよ」

(何やろう? 何か、よくないことが起きたんやろうか?)


「どないしはりました。金貨が集まらんかったんか?」

 ターシャは、他人目(ひとめ)がない状況を確認してから、口を開く。

「そうじゃないわ。タウラス王が死去したわ」

「何やて! それ、ほんまでっか? わいと会った時は、ピンピンしていましたで」


 ターシャが厳しい顔で説明する。

「飛翔族からの情報よ」

「それは信憑性が高いな。よっしゃ、わいが弔問客として出向いて真偽を確かめてくる」

 おっちゃんは喪服と喪章を用意する。こっそり腰巻きも用意した。


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