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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
クランベリー編
512/548

第五百十二夜 おっちゃんと和平会談

 街の鍛冶師ギルドと金物商は、鍛冶コンテストの開催に向けて動き出す。鍛冶コンテストに出しても恥ずかしくない作品探しに、躍起(やっき)になっていた。

 同時に今まで名を上げるチャンスがなかった職人たちも、一山どうにか当てようと、我こそはと鍛冶コンテスト挑戦する者もちらほら現れた。


 金物街と鍛冶工房では、にわかに活気を帯び始めていた。

(ええ感じに加熱してきておるの)

 ただ、諸手を挙げて喜んでばかりもいられなかった。

 街ではミノタウロス族が攻めて来る噂が流れていた


 おっちゃんが宿屋に帰ると、ターシャが晴れない顔で待っていた。

「おっちゃん。ミノタウロス族が攻めて来る噂は知っているわね?」

「街で噂になっておりますね。皆が不安がっています」


「これではいけないと思うの。エンニオさんも、ここいらで、どうにか手を打ちたいと思っているわ」

「そうでっか。なら、わいが、ちょっと和睦の使者として、和睦の条件を聞いてきますわ」


 ターシャが真剣な顔で申し出た。

「和睦の使者なら私が行くわ」

「ターシャはんは司令官や。ここを動いたら、あきません。わいがもし帰れなくなっても、わいの代わりは探せます。せやけど、ターシャはんの代わりはいません」


 ターシャは苦い顔で警告する。

「でも、相手は異種族よ。話が通じるかどうかわからないわ」

「心配は要りまへん。北方賢者さんかて教えています。種族が違うからといって、下手な先入観を持って敵対するなと」


 ターシャは厳しい顔で念を押す。

「そうだけど、本当にいいの? 危険な仕事よ」

「任せてください。わいかて冒険者の端くれ。危険な仕事には慣れています。ほな、明日にでも行ってきますわ」


 ターシャは渋々の顔で市長の信任状を渡してくれた。

 翌日、おっちゃんは仕度を調える。武器をターシャに預けて、ダイダロスの関所に向かって歩き出した。

 関所がある谷の近くに来ると、革鎧と短槍で武装した四人の兵士に囲まれた。


 兵士のリーダーが険しい顔で声を荒げる

「停まれ、人間。ここに何の用だ?」

「真に勝手な言い分ですが、和睦したいと、市長が申しとります。和睦の使者として来ました」


 兵士のリーダーが恐ろしい顔で尋ねる。

「不意打ちのように攻めて来て、次は和睦だと? 人間は何を考えている!」

「戦争したがっていた人間が負けて、街から逃げ出しました」


 兵士のリーダーが鼻息も荒く馬鹿にした。

「首謀者が逃亡だと? とんだ腰抜けだな」

「街に残っていた人間は戦争に反対する人間です。そんで、関係を改善したくて、やって来ました。もちろん、人間側から戦争を仕掛けた事実は重々承知しています」


 おっちゃんは信任状を見せる。

 信任状を見て、兵士のリーダーは渋い顔をして命令した。

「わかった。上の者に取り次いでやる。()いてこい」


 おっちゃんは囲まれて、ダイダロスの関所に連れて行かれた。

 両側が切り立った灰色の谷の間にある関所の修復は、既に終わっていた。谷を閉鎖する長さ八十m、高さ十五mに及ぶ石壁が(そび)えていた。


 おっちゃんは関所の外で兵士に囲まれて、三十分ほど待たされる。兵士の視線は誰もが険しく、雑談をする雰囲気でもなかった。

(雰囲気が物々しいな。ミノタウロス族は防衛に成功した。せやけど、犠牲者が零だったわけやない。やはり、人間を恨んでおるんやろうな。上の者も同じ気持ちなら和睦は難航するかもしれんん)


 しばらく待たされると、関所の門を潜ることが許された。

 幅八m、高五mのアーチ状の門を潜る。三十mほど石畳が続いた場所に出る。

 石畳の先には縦二十m、横十五mの長方形の石造りの建物が六棟並んでいる。


 おっちゃんは一番手前の建物に案内された。

 部屋は縦横五mの小さな部屋だった。部屋には木製の机と椅子しかなかった。

「ここで待て」とミノタウロス族の兵士に乱暴に指示される。

(密輸の取調べの部屋やな)


 おっちゃんは部屋に軟禁された。窓から外が見える。暇なので窓の外を眺めた。

 関所は修繕が済んでいるもの、警戒態勢にあった。

(和睦の話が来ても警戒は緩まんか。用心されとるのう)


 兵士を眺めているとわかったが、兵士の動きには規律が取れていた。

 だが、城壁を登る訓練をしたり、攻城兵器を準備したりしている様子はなかった。兵の装備も観察するが、城攻め用の物ではなかった。

(精鋭を配備しとるが、攻城兵器は見えん。攻城用の訓練もしとらん。街を攻撃する話は、やはり人の恐怖心から出た噂やな)


 そのまま、日が暮れた。夕方になると、葦で編まれた粗末なベッドが部屋に持ち込まれた。

 兵士はむすっとした顔で告げる。

「今日はここに泊まって行け」


 夕食にはライ麦パンとトマト・スープが出される。

(これは、あれやな。急いで馬を飛ばして、お伺いを立てに行ったな。ちゃんと情報が伝わったのなら、態度も、はっきりするやろう)


 翌日、翌々日と動きはなかった。ただ、食事だけは三食とも出た。

 食事はその都度に違ったので、兵士と同じものが出ていると予想した。

 荷車が通る音などに注意を巡らしていた。

 おっちゃんは文句を言わずに、黙って事態が動くのを待った。


 五日目におっちゃんは兵舎の風呂場に連れて行かれる。

「明日の朝に要人と会う。きちんと体を洗って綺麗にしろ」

「へえ」と答えて、髭を()って体を洗う。

(やっと、五日目にした事態が動いたの。さて、和睦には、どんな条件が出て来るんやろうな?)


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