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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
クランベリー編
509/548

第五百九夜 おっちゃんと呪われた絵(後編)

 おっちゃんは美術商のドニーノを訪ねた。ドニーノは気分よく会ってくれた。

「ドニーノはん、ちと相談や」

「なんでしょう、なにか美術品をお探しですか?」


「美術館所蔵の呪われた絵が盗まれた」

 ドニーノ顔は、たちどころに曇った。

「あの、呪われた絵と呼ばれる作品ですか」


「そうや。呪われた絵を金に換える方法ってあるか?」

 ドニーノは曇った顔で否定した。

「少なくとも、この街では不可能ですね。街では有名な絵なので、売れば必ず足が着きます。それに、危険で有名な絵なので誰も買わないでしょう」


「となると、すでに外に持ち出されとるかもしれんな」

「可能性は充分にありますね」


 ドニーノの美術商を後にする。絵が夜中に持ち出され、城門が開く夜明けと共に街の外に持ち出されたのなら、回収は不可能に思われた。

(城門が開いてから。数時間も経過しておる。逃げるなら、もうかなり遠くへ行っているはずや。『物品感知』では、探れんやろう)


 盗まれて持ち出されたのなら、諦めるしかなかった。だが、おっちゃんは、別の可能性が気になった。

(もし、絵が転売以外の目的なら、どうや? 誰かに危害を加えるために持ち出したなら)


 浮かんだ考えを。打ち消す。

(あの手の何が起きるかわからんトラップで、暗殺はできん。何が起きるかわからんなら、何も起きん、ないしは些細な被害で収まる場合をもある)


 敵の狙いが読めなかった。おっちゃんは街の中をうろうろ歩く。

 別段これといって変わったところがない。途中、烏賊(いか)を焼いて挟んだパンを買い港で食べる。


 港には貿易船が、一隻だが停泊していた。

「貿易船が来るようになったんやなあ」

 船から視線を外すと、街の近くにある灯台に目が行った。

(待てよ? 絵の魔法は熱源に反応する、言うとったな。ほな、大きな火の中に投げ込んだら、一気に力が流れでるで)


「まさか、敵の狙いは灯台か!」

 おっちゃんは灯台に急ぐ。

 街の南門から三百m離れた小高い丘の上に灯台があった。

 灯台は高さが三十mで直径が八m。正面に入口があり、中には薪を運ぶための螺旋(らせん)階段が通っている。


 灯台正面の入口の扉をノックするが、灯台守が出てこなかった。

 灯台の正面の扉には、魔法で鍵が掛かっていた。

(これは、当りを引いたかもしれんのう)

『開錠』の魔法で扉を開ける。中は直径五mほどの部屋になっていた。


 椅子には灯台守と思われる人間が座って眠っていた。灯台守を揺すって起こそうとしたが、起きなかった。

(魔法で深く眠らされておるようやな)


 おっちゃんは灯台の中から上へと続く階段を駆け上がった。

 灯台の上では、火を焚く薪が積まれていた。薪の上には木製の筒に油を半分満たして、蝋燭(ろうそく)を差してある、簡単な時限発火装置があった。

 おっちゃんは、すぐに木で筒の上端を占めて密閉して、時限発火装置の火を消した。

「ふー、なんとか、間に合ったな」


 時限発火装置の火が消えたのを確認して薪の隙間から覗く。

 薪の間に置かれた、色の付いた木の板が見つかった。

 おっちゃんは薪をどかすと、色の付いた板は絵だった。

『魔力感知』を掛けると反応するので、盗まれた絵だと思った。


 誰かが階段を上がってくる音がした。敵かと思い剣に手を掛ける。

 昇ってきた人物はターシャだった。

「おや? ターシャはんも、ここに気が付いたんでっか」

 ターシャが期待する顔で質問する

「おっちゃん、それで絵はあったの?」


「ありましたよ」と絵を示す。

 ターシャは真剣な顔で、肩から提げているポーチから銀色の布を取り出す。ターシャは絵を梱包した。


 ターシャが安堵した顔で告げる。

「よし、これで絵は安全に回収できたわ」


「ほな、灯台守はんを起こして、事情を説明しましょうか」

 ターシャが明るい顔で指示する。

「灯台守への説明は私がやっておくわ。おっちゃんは絵を美術館に返してきて」


「わかりました。なら、返してきますわ」

 おっちゃんは美術館に行くってコリオラノに絵を返す。

「今度は盗まれんように厳重に保管してや」

 コリオラノがほっとした顔で請け合った。

「わかりました。別の場所に厳重に保管いたします」


 宿屋に帰ると、ターシャがほどなくして戻ってくる。

「ご苦労様。どうでした、灯台のほうは?」

 ターシャの表情は冴えなかった。

「無事に仕事はできるようにしたわ。ただ、問題もあるわ」


「何がありましたん?」

 ターシャが苦い顔で教えてくれた。

「灯台守の話だと、灯台守を眠らせたのは、ミノタウロス族の魔術師らしいわ」

「なるほど。先の戦争の報復に、灯台を破壊したろうと考えたわけですか」


 ターシャが考え込む顔で、やんわりと否定する。

「でも、そうとも思えないのよね」

「なしてですか? ミノタウロス族が動いたのなら、報復以外の動機ってありますか?」


 ターシャは晴れない顔で、教えてくれた。

「ミノタウロス族は飛翔族を通じて『和平交渉の席に着いてもいい』と返事を出してきているわ」

「そら、妙ですな。和平に応じるなら、破壊活動はマイナスや」


 ターシャは思案する。

「そうなのよね。ミノタウロス族の内部で意見が割れている、とも考えられる。だけど、本当にそうなのかしら?」

「和平の話が本当なら、事件を起こしたミノタウロス族は、誰かに別の目的があって雇われた可能性もありますな」


 ターシャは冴えない顔で内情を伝える。

「ミノタウロス族が関与していたとは公式には発表しないでくれと、市長のエンニオからもお願いされたわ」

「そうですな。和平の機運があるのなら、逃さんほうがよろしい」


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