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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
クランベリー編
507/548

第五百七夜 おっちゃんと紫月夜茸(後編)

 市長からゴーサインが出なかった。なので、おっちゃんは紫月夜茸を持って、一度、宿屋に戻る。

タチアナに茸を見せて訊く

「紫月夜茸って、クランベリーでは、食べないの?」


 タチアナが紫月夜茸を見て嫌な顔をする。

「それは、死体茸でしょう。この街では食べないよ。そんなの食べる奴は、ミノタウロス族だけだよ」

(ミノタウロス族は、喰うんか。なら、紫月夜茸は将来的に、輸出品に成長するかもしれん。これは、博打(ばくち)やな)


 おっちゃんは翌日、市長舎に行って、冒険者ギルドがあった酒場の権利関係を調べる。

冒険者の酒場の権利を押さえている人物は、投資家のクラウスだった。

(クラウスはん。この街が復活する未来に賭けてたんやな。広くてええ場所を押さえておる)


 おっちゃんはゴールドマン商会を訪ねる。

 ゴールドマン商会は街の中央で市長舎の近くにある二階建ての建物だった。建物は百二十m四方の二階建ての商家だった。

(規模は大きくないが、立地はええところにあるのう)


 入口で丁稚に声を掛けると、商家の中庭に通された。

 中庭にテーブルと椅子を出して、クラウスは優雅な態度でお茶を飲んでいた。

「おや、おっちゃん。パーティー以来ですな。今日は、どうしました?」

「クラウスはんのところで、冒険者ギルドの土地の権利を押さえてますやろう。冒険者ギルドがあった場所を借りること、できますか?」


 クラウスは愛想よく、穏やかに語る。

「私は投資家なので、お金になる話であれば検討しますよ」

「なら、お願いしたい。茸の加工品を作る作業場にしたい」


 クラウスが上品に微笑んで確認する。

「紫月夜茸の加工場の話ですね?」

(クラウスはん、油断ならんな。情報を知るのが早すぎやで)

「何や、耳がええな。ダンジョン跡地の利用の話は、昨日の今日やで」


 クラウスが意味ありげに笑って、軽く言葉を濁した。

「それは、まあ、色々と情報網がありますから」

「情報網の詳細は聞かんわ。商人にとっては、金と同じくらいの価値があるからのう」


 クラウスが、おっちゃんを静かに見詰めて意見する。

「おっちゃんの計画はワイン倉を建てるより、よっぽど魅力的な話です。ですが、販路の開拓が問題ですね」

「そうやねん。名前を変えても、人間の街には売るのは難しい。でも、ミノタウロス族との取引が始まったら、流れに乗れるで」


 クラウスがおっちゃんをじっと見据えて、淡々と意見する。

「それは、希望的な観測に過ぎないでしょう」

「投資家と冒険者との違いやね」

 クラウスが興味を示した顔で尋ねる。

「どういう意味ですか?」


「冒険者は己で欲しいもんは、どんな危険を冒しても、自分で取りに行くのが基本や」

 クラウスが納得した顔で、当然の口調で語る。

「投資家は取れないリスクは、取らないのが基本です」

「ミノタウロス族との取引が必要なら、わいは必ず切り開く」


 クラウスが冷静な顔で分析する。

「難しいところでしょう。飛翔族が動いてくれているとしても、戦争を起した以上、関係修復は難しいと思いますよ」

「なら、どの程度のリスクなら、取れる?」


 クラウスが穏やかな顔で意見を表明する。

「短期で土地を貸す、くらいでしょうか。長期間の貸し出しは駄目です」

「わかった。ほな、短期でええから、土地を貸してや」


 クラウスが満足気な顔で請け負う。

「賃料をいただければ、お貸ししますよ」

「なら、決まりやな」


 市長を説得しようとした。だが、留守だったので、その日は出直した。

 翌日、市長舎に行くと、にこにこ顔のエンニオが待っていた。

「おっちゃん、紫月夜茸の栽培を始めましょう」

「どうしたん? エンニオはん急に態度を変えて?」


「実は銀行団から、同じような事業の提案があったんだよ」

(なるほど、クラウスの奴はリスク分散をしたな。取れないリスクは銀行家に押し付けたか)

「引き受けたら、資金を貸してくれるんでっか」


 エンニオが能天気な顔で語る。

「そうなんですよ。しかも、無担保でいいって申し出てくれました」

(これは、こっちには渡りに船や。でも、これ、失敗したら、予期せん方法で回収に来るな)


 おっちゃんは心情を隠して、笑顔を浮かべる。

「それはまあ、ええ条件ですな」

「そうでしょう。初期投資も少なくて済む。すぐに、議会にダンジョン跡地を市の所有にする条例を出します。今ちょうど議会中だから、七日で可決して、事業を始められますよ」

「なら、期待して待たせてもらうわ」


 金が手に入るとわかると、エンニオの動きは早かった。エンニオは宣言どおりに七日で議会を通して、ダンジョン跡地を市有にした。

 ダンジョン跡地の回収作業は、職にあぶれていた人間には、降って湧いた公共事業として喜ばれた。だが、おっちゃんは気を引き締めた。


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