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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
クランベリー編
505/548

第五百五夜 おっちゃんと市長舎でのパーティー(後編)

 おっちゃんは割り切って食事を楽しんでいた。すると、壁際の席で休んでいる緑色の服の男性に目が留まった。

(はて? 緑色の服って、何やろう? 芸術家やろうか?)


 おっちゃんは緑色の服を着た男性に近づいた。

 赤い短い髪をして、褐色の肌をして三十代後半の男性だった。線は細く、顔も小顔で眉が細かった。ただ、目つきは険しかった。

「こんばんは。楽しんでもらえていますか?」


 男性はあまり楽しそうではなかった。

「少し、酔いました。オレンジ酒を飲み過ぎたようです」

「わいの名は、オウル。ターシャはんの助手で、おっちゃんの名で親しまれてます」


 おっちゃんが名乗ると、男性の表情が和らいだ。

「私はゴールドマン商会のクラウス。投資家ですよ」

「そうですか。冷たい水でも、お持ちしましょうか?」


 クラウスは興味を示した顔で。控えめに尋ねた。

「いいえ、大丈夫です。もしかして、あの冒険者のおっちゃんですか?」

「冒険者でも、しがない、しょぼくれ中年冒険者やけどね」


 クラウスが微笑んだ。作り物ではない、無理のない微笑みだった。

「それは良かった。無理してでもパーティーに来た甲斐が、あったものです」

(何や? わいの情報をある程度に知っているんか。ちと、用心やな)

「冒険の話が聞きたいんでっか?」


「いいえ、この街の内情についいて話がしたいのですが、いいですか?」

「わかることなら、何でも訊いてください」

 クラウスが真剣な顔で、背筋を伸ばして尋ねる。

「この街の将来は、どう考えます?」

「明るいで。この街は、必ず立ち直る」


 クラウスが強張(こわば)った顔で、厳しい口調で告げる。

「ガラス産業が復活したといっても、一時的なもの。武具は輸出されているが、良いものしか売れない」

「そうやね。よく知っているね」


 クラウスの厳しい批評は続く。

「歓楽街も不況。食料品と衣料品、日用品は輸入に頼っていて、物価は高い。このままでは、街の景気は沈む一方だ」

「冒険者ギルドも潰れたし、歓楽街も人が減ったようやな。合っているで」


 クラウスがむっとした顔で、辛辣(しんらつ)に締め括る。

「その上、ミノタウロス族の隣街とは、紛争を抱える。結果、飛翔族とも、取引を制限された。挙句(あげく)に傭兵団が街の金を持ち逃げ。どこに復活の(きざ)しがありますか?」


 おっちゃんは別に気にしない。どんと構えて、持論を述べた。

「指摘は一々、ごもっともや。でも、それは、分かっている問題や。わかっている問題なら、解決のしようがある」


 クラウスが挑戦的な微笑みを浮かべる。

「貴方になら、できる、と?」

「わいやないよ。ターシャはんにならできるで」


 クラウスは一度、視線を外してから、思案顔で尋ねる。

「なら、一つ、質問しましょうか?」

(おっと、ここから本題が来るようやね。喰えんお人やなあ)

「どんどん、訊いてや」


 クラウスは近くの壁にある一枚の絵を指差し、挑むような顔で質問した。

「この絵を高く売るには、どうしたらよいですか?」

(これは、わいを試しているね。ええで。答えたる)


「方法は、三つやな。一つ、他の絵を処分して希少性を出す」

 クラウスが不機嫌な顔で否定する。

「需給バランスの調整ですか。でも、それでは、不十分だ」


「一つ、専門家を作って、その画家を研究させる。そんで、いい絵ですと金持ちに高い値で買わせる」

 クラウスの顔は、なおも渋かった。

「価値があると思えば、今のうちに買っておこうとなり、値が上がる。でも、まだ、不十分だ」


「一つ、コンクールを開催して受賞させ、価値を創造する」

 クラウスがむっとした顔で退ける。

「箔が付けば、価値は上がる。でも、それでも、まだ足りない」


「一つ一つでは不十分でも、組み合わせられれば、それなりの威力はありまっせ」

「なるほど」とクラウスは神妙な顔で口にすると、急に態度を緩和させた。

「私は小さいとはいえ投資家だ。小額ならお金が動かせる。コンクールを開催するなら、ささやかだが、賞金を負担してもいい」


(美味い話が出たな。クラウスはんも、何かに気が付いたのやろう)

「それは出来試合のコンクールをやって絵の値段を吊り上げる、いう意味でっか?」


 クラウスが問題ないだろうとばかり、横柄(おうへい)に確認してくる。

「だったら、賛成しませんか?」

「賛成しませんな。絵の価値を吊り上げたいなら、売りたい絵ではなく、売れる絵の値段を、吊り上げるべきや。そのほうが、確実に儲かる」


 クラウスが渋い顔で質問する。

「なら、どれが売れる絵だと、わかるんですか?」

「賞は絵に出すのではなく、画家に与えるのは、どうでっしゃろう。そんで、審査基準は絵の売り上げにより、点数化する」


 クラウスが表情を険しくする。

「美を愛でる心は人間の精神です。人間の精神を金で点数化するコンテストとは、冒涜(ぼうとく)ものですね」

(これは、本心やないね。演技やな。もう、ほんと、投資家いう連中は、どこまでも人を試したがるのう)


 おっちゃんは、きっぱりと発言した。

「そうは思わん。コンテストの本質は絵を金に換える商売やない。画家の将来に投資するコンテストや。良いパトロンがいなければ画家も育たず、ですわ」


 クラウスが肩の力を抜いて、軽い調子で尋ねる

「ふむ。では、コンテストが終わったと仮定しましょう。それで、価値がある絵が決まる。それで、私が儲けるには、どうした良いと思いますか?」


「コンテストで参加料を取ったらええ」

 クラウスは、あまりいい顔をしなかった。

「有料コンテストね。参加料はいくらに設定しますか?」


「参加料は絵で払ってもらう。もちろん、受賞がなかった時は絵を返す」

 クラウスは晴れやかな顔で、機嫌よく発言する。

「面白い発案だ。おっちゃんの案なら、確実に優勝者の絵を手に入れられますね。ゴミを押し付けられる心配もない。いいでしょう。さっそく検討しましょう」


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