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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
クランベリー編
504/548

第五百四夜 おっちゃんと市長舎でのパーティー(前編)

 翌日、残りの板からも魔法のインクを抽出して、ブルーノの許に持って行った。代金を請求すると、ブルーノは気前よく、言い値に金貨を上乗せして払ってくれた。


 ブルーノにインクを渡した翌日に、宿屋で機嫌の良い顔をしたターシャと会った。

「おっちゃん、ガラス産業が抱える問題を解決したんだって?」

「何とか解決できました」


 ターシャは意気揚々と次の策を披露する

「そこで、私はガラス産業の基盤を安定させるために、利に聡い商人を動かそうと思うの」

「今なら、まだ、ガラス製品を安う仕入れられますからな」


 ターシャが明るい顔で提案した。

「そこで、ガラス工芸ギルド、美術商組合が主催の、簡単なパーティーを市長舎で開くわ」

「美術商組合も金を出しますの?」


 ターシャが思慮深い顔で解説する。

「美術商は好景気の時に稼いだから、まだ体力があるのよ。でも、このままだと、まずいわ。だから、美術品を売って、今を底値にしたいわけよ」

「不況で美術品は下がっているようやからね」


「パーティーは十五日後だから、おっちゃんもスケジュールを空けておいてね」

「しっかりと空けときます」

 ターシャは用件を伝えると、足取りも軽く宿屋から出て行った。


 おっちゃんは急いで仕立屋に行く。

「十五日後に簡単なパーティーがある。どんなのを着て行ったらええ?」

 仕立屋の若主人が、機嫌の良い顔で応じる。

「市長舎での簡単なパーティーなら、ドレス・コードは、インフォーマルですね」

「なら、適当に、それらしい衣装を作って」


「承知しました」と若主人が応じる。

 若主人が穏やかな顔で採寸をしながら訊く。

「市長舎でパーティーなんて、久しぶりですね」

「他の街の商人を呼んで、クランベリーのガラス製品と美術品を売るのが目当てや」


 若主人が暗い表情で、昔を語る。

「少し前までは、この街ではパーティーは毎週のどこかであったんですよ」

「好景気の時は儲かっていたらしいな」


 若主人が思い出しながら、楽しげな口調で教えてくれた。

「それはもう、凄かったですよ。仕事も引っ切りなしに来ました」

「それは、楽しかったやろうな」

「ところで、ご職業を訊いてもよろしいですか?」

「賢者の弟子の助手やで」


 若主人が控えめな態度で確認する。

「そうですか。なら、服の色は黒でいいですか?」

「何や? クランベリーでは職業によって服の色が違うの?」


 若主人が知的な顔で、内情を説明する。

「決まっているわけではないですが。職人はオレンジ、商人は赤、銀行家は黄色、海運業は青、聖職者は白、役人は灰色、知識人は黒を好む傾向があります」

(ほー、そんな嗜好があるんやな)

「わかった。ほな、黒でええで、刺繍は、高くならない程度に。適当に入れて」


 衣装の手配は済んだ。

 ターシャが『シャンナムの写本』にあまり興味がなさそうなので、二週間を掛けて『シャンナムの写本』について調べる。


 だが、街に『シャンナムの写本』なるものがある、との話が、なかった。

(ちと難航しそうやな。これは、街の再生を先にしたほうが、ええかもしれん。写本は街の仕事が片付いた辺りから、ゆっくりとターシャはんと二人で探そう)


 パーティーの日がやって来た。

 市長舎にある大広間でパーティーが行われる。大広間は縦四十m、横三十mの広さがあり、中央に付近に大きな柱があった。天井までの高さが十二mあり、天井は半円状になっており、天井は魔法の光が灯されている。


 壁には多くの画家の絵が並び、彫刻も展示されていた。

(絵は売り物やったやつやな。パーティーに使われるガラス製品は新作。まるで、商品の見本市やなあ)


 会場は立食ビッフェ形式であり、中央には様々な肉や魚料理やパイが並ぶ。

 おっちゃんは白いシャツの上から、黒地に金ボタンをつけた黄色の刺繍がある上着を着ていた。下は黒の裾の広いズボンに、先が上を向いた黒の革靴を履いていた。


 会場を見ると、黒い服を着ている人間はおっちゃん、ターシャ以外、あまりおらず、オレンジや赤や黄が多かった。女性は三割程度で七割が男性だった。

(何や? 赤やオレンジ以外を着ている人が、おらんなあ。招待客のほとんどが商人なんやな)


 パーティーには茶のベストと茶のズボンといった、民族衣装を着た飛翔族の商人も来ていた。飛翔族は背中に鳥のような羽を持ち、鳥の顔をした異種族である。

(飛翔族もガラスの質が元に戻って、取引の再開を考えてくれたんか)


 パーティーは始まる前から、頻繁に挨拶が交わされていた。

 誰もが他の街から来た商人と旧交を温めるのに、一生懸命だった。

 市長のエンニオが挨拶に立つ。エンニオは丸顔で小柄な男性だった。年齢は五十くらいで、白髪交じりの薄い髪をしており髭はない。


 エンニオは、ばりっとした上下とも灰色の服を着て、三つほど勲章をさげていた。エンニオの短い挨拶のあとパーティーが幕を開ける。

 商人たちは料理と酒を楽しみながら、他の街の情勢の話とクランベリーの街の現状を話す。

 他の街の商人たちは、もっぱら、職人や商人、銀行家と話す。


 中には市長やターシャに話し掛けるものいた。だが、おっちゃんがターシャの助手だとわかると、他の街の商人は話を早々に切り上げて他に移動する。

(わいと話しても利益にならないとわかると、切り替え早いな。無理もないか。このパーティーは、商談会の側面が大きいからのう)


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