第四百九十五夜 おっちゃんと白の寺院(前編)
おっちゃんたち三人は、村の危機を救った英雄として歓迎された。
歓迎の後、イサベルは残りの詩の手懸りを探すために、セサルは白の寺院とアプネの神殿の情報を得るために、緑の寺院に籠もる。
おっちゃんだけはやることがないので、気儘に村で過ごした。
村で雑用をして日銭を稼いでも良かった。だが、英雄の肩書きが邪魔をして、働くことはできなかった。
(宿代が要らんくて、飯も出る。せやけど、暇やなあ……)
一週間が経過した頃に、セサルが気分の良い顔で報告に来た。
「おっちゃん、アプネの神殿を知るための。最後の寺院の場所がわかりました。そこは、白の寺院と呼ばれています」
「そうか。やっと判明したか。長かったな。それで、白の寺院はどこにあるんや?」
セサルの顔が一転して曇る。
「白の寺院は、ダンジョンの『詩人の岩窟』の地下にあります」
「最後の寺院は。ダンジョンの中かー、きっいところにあるのう」
セサルが厳しい顔で警告した。
「しかも、かなり奥のほうにあります。おそらく、上級冒険者を六人ぐらい揃えて挑んだほうがいいでしょう」
「もしやで、白の寺院まで辿り着けたとする。そこで何を調べれば、アプネの神殿に辿り着けるんや?」
セサルが真剣な顔で教えてくれた。
「文献によれば、『詩人の勲章』を持って、白の寺院にある『白亜の頃に』の絵を調べれば、道は開ける、とあります」
「そうか。あとはダンジョンの奥で絵を知らべればええだけか。よし、ほな、パパエルはんと話しをして、アイス・ワイバーン出してもらうおう。バルスベリーの街に戻ろうか」
セサルが申し訳なさそうな顔で詫びた。
「勝手を言ってすいませんが、私はここに残ってもいいでしょうか?」
「どうしたんや? 何か気になることでもあるんか? あるなら教えてや」
「イサベルの調べ物が難航しています。できれば、塾の休みが終わるまで手伝ってあげたいのです」
「わかった。かつての仲間の手伝いをしたい気持ちは、わかる。なら、一足先にバルスベリーの街に戻るわ」
セサルは深々と頭を下げた。
おっちゃんは、パパエルに挨拶に行く。
「今日まで色々とお世話になりました。バルスベリーの街に戻りたいんやけど、次に街に行くのはいつになりますか?」
パパエルは気のよい顔で申し出た
「二日後に売掛金の回収にバルスベリーまで行くから、送っていってあげるよ」
「ラッキーやわ、ほなお願いします」
二日後、おっちゃんはアイス・ワイバーンに乗せてもらい、街に帰ってきた。
前に使っていた宿屋で、前金を支払い宿を確保する。
それから、冒険者ギルドに顔を出す。
「ただいま、ローサはん。飛翔族の村から無事に帰ったで」
ローサが笑顔でおっちゃんの帰還を喜ぶ。
「お帰りなさい、おっちゃん。捜し物は見つかった?」
「いよいよ、佳境や」
「そう、よかったね」
「そんで、ちと、聞きたいんやけど。『詩人の岩窟』に挑んでいるパーティーで一番深いとこまで行けるのって、誰?」
ローサがきょとんした顔で質問する。
「『鋼の詩』かしら? でも、どうしたの? そんな情報を訊いて」
「『詩人の岩窟』に白の寺院と呼ばれる場所があるんよ。『鋼の詩』ならそこまで行けるか、知りたい」
ローサの表情が曇った。
「わからないけど、『鋼の詩』から白の寺院の話を聞いた記憶がないわ。だから、簡単には行けないと思うわ」
「そうか、それは残念やな。ちなみに、白の寺院までの地図ってある?」
おっちゃんは『鋼の詩』に白に寺院に連れて行ってもらうつもりはなかった。ただ、他の冒険者が白の寺院に到達しているかが大事だった。
ローサが難しい顔をして、リストを確認する。
「御免ね、おっちゃん。そこまでの地図はないわ」
「ないなら、しゃあないわ。何か考えよう」
(人間が頻繁に来る場所やないなら、ええやろう。トロルの姿で行けるかもしれん)
おっちゃんは、その日はゆっくりと休む。
翌日、おっちゃんはトロルの姿で、裏口から『詩人の岩窟』を訪ねた。
暇そうな顔をしたギロルが、すぐに出てきた。
「おっちゃんか。今日は何も持ってきてないようだけど、商売の話かい?」
「へえ。ちょっくら、絵画に興味がありまして、白の寺院にある『白亜の頃に』の題名が着いた絵を、見たいんですけど」
ギロルが意外そうな顔をする。
「絵画に興味があるなんて、珍しいね」
「商売柄、絵にも興味がありまして」
ギロルが驚いた顔をする。
「何? もしかして、画商もやっているの?」
曖昧に頭を下げて誤魔化す。
「少し齧った程度には」
ギロルが残念そうな顔で拒絶する。
「『白亜の頃に』かあ。そんな絵が、白の寺院にあった気がするなあ。でも、あれは、御館様の物で、手放す気はないって口にしていたからね」
「なら、見せてもらうだけ、見せてもらえませんか?」
ギロルが素っ気ない態度で、やんわりと告げる。
「白の寺院には、拝観料を払えば入れる。だけど、拝観料は高いよ」
「おいくらでっか?」
ギロルがちょっとだけ考える顔をしてから、さらりと回答した。
「マジック・ポータルを使うから、二万ダンジョン・コイン」
(絵を一枚見るだけの金額にしては、高い。けど、払えない額ではないな)
「そうでっか。ほな、拝観料を払うんで、見せてください」
ギロルが悪いねとばかりに申し出る。
「あと、絵は白の寺院のどこにあるか、わからない。だから、適当に捜して見てもらうことになるけど、いいかな?」
「ええですわ。勝手に探して、見せてもらいます」
おっちゃんは裏口から入って、石造りの通路を進む。
途中、二ヶ所の隠し扉を通り抜けて、白く輝く魔法陣の前に案内された。
魔法陣の前でギロルに請求書を提示されたので、サインをして支払いを済ませる。
ギロルが心配した顔で忠告した。
「この先に白の寺院があるよ。あと、白の寺院はダンジョンの中にあるから、冒険者には気を付けてな」
「わかりました」
おっちゃんは魔法陣に乗った。すると、体が浮遊する感覚を覚えた。




