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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
491/548

第四百九十一夜 おっちゃんと年越しの夜

 その年の最後の日に、冒険者の酒場に顔を出す。

 冒険者の酒場では、新年を祝うためのパーティーの準備が進んでいた。


 ローサが楽しそうな顔で、おっちゃんに声を掛ける。

「今夜から冒険者ギルドで年越しのパーティーをやるわ。当日券がまだ余っているから、買わない?」


(これ、かなり券が余っておるな。付き合いや。買うたろう)

「そうか。なら、セサルはんとわいの分で、二枚を買うわ」

「ありがとう、おっちゃん」

 ローサからパーティー券を買うと、『詩人の勲章』を持ってセサルの家に行った。


「セサルはん、プレゼントがあるで」

 セサルが機嫌の良い顔で浮き浮きと応じる。

「この年になって貰える、プレゼントって何でしょうね?」

「冒険者ギルドである祝賀会のパーティー券と、詩人の岩窟で手に入る『詩人の勲章』や」


 セサルは驚いて、目を見開いた。

「『詩人の勲章』を手に入れたんですか。あれは、入手条件がなかなか難しい品ですよ」

「色々と(つて)を頼ったら、譲ってもええ、いう人がおったんよ」


 セサルが、おっちゃんの手腕を褒めた。

「ダンジョンから入手したのではなく、交渉で手に入れたんですか。どちらにしろ、見事な手並みです」

「褒めても、パーティー券ぐらいしか出ないよ」


 夜になると、パーティーが開始される。パーティーは立食形式だった。

白髪で長い顎鬚を持つ、八十歳になるギルド・マスターのエクトルの挨拶のあと、パーティーは開始される。


 メイン・テーブルに並ぶ肉料理は冒険者に人気で、補充して間に合わないほどだった。

 この日は、ゴークス族の村の村長や、飛翔族の大商人も招かれており、実に賑やかだった。

 会場では音楽が適当に流れ、賑やかな雰囲気の中、酒と料理が振る舞われる。


 セサルも、昔の仲間が来ていたのか、おっちゃんとの話を切り上げて、かつての仲間と談笑をする。

 おっちゃんはフライド・ポテトを抓みながら、チチャを飲む。おっちゃんはゴークス族や飛翔族の人間に簡単な自己紹介をして、軽く談笑する。


 最初は硬かったゴークス族や飛翔族も酒が入ると、饒舌になった。

 四十くらいのゴークス族の商人と話していると、おっちゃんの仕事の話になった。

「わいは冒険者で大発見を捜しているんですわ。何と、古き女神アプネの神殿が山の中にあるかもしれんのですわ」


 商人はあっさりした態度で認めた。

「ああ、あるよ。アプネの神殿が山の中に。でも、それ、そんなに大きな発見かな?」

「え、ほんまにありますの?」


 ゴークス族の商人はフライド・ポテトを食べながら機嫌よく答える。

「夏から秋になると、老人たちが参拝に行くね。でも、神殿に宝なんてないよ。アプネ様も、今は別の場所にいるそうだし」

「アプネ様って、実在しますの! どこに行ったら、会えるんやろう?」


 ゴークス族の商人は明るい顔で、すらすら教えてくれた。

「伝承では青の寺院、赤の寺院、緑の寺院を巡ると、白の寺院の場所がわかる、と言い伝えられているね」

「何や、女神様は、白の寺院にいるんでっか?」


 ゴークス族の商人は酔って気分が良かったのか、とても機嫌がよかった。

「俺も会った経験はない。だけど、老人たちの話だと、白の寺院にいる実在の女神らしいね」

「これは、ラッキーやわ。ええ話が聞けた」


 ゴークス族の商人が、表情を軽く歪める。

「そうとも言えないよ。噂では試練があって、勇敢な者しか、白の寺院に辿り着けないって話さ」

(何や、簡単には会えんのか。でも、ええわ。こうなったら女神アプネに会って、直接にキヨコの情報を聞いたろ)


 商人は他の人間の商人に名前を呼ばれて、席を外した。

 おっちゃんは、飛翔族の大商人の取り巻きに、そっと加わる。

 飛翔族は痩せた体型の者が多い。だが、大商人は身長が百七十㎝、体重は百二十㎏もありそうな巨漢だった。


 大商人は四十くらいで、紫のゆったりとした商人服を着ていた。大商人も少々酒が回ったのか、人の輪から離れて、椅子に腰掛けて休む。


 おっちゃんはミントティーを持ってきて、声を掛ける。

「酒に酔われましたか? 冷えたミントティーがありますが、飲みます?」

「おお、これは、有り難い。貰うよ」


 おっちゃんは横の席に腰掛けて、簡単な自己紹介と世間話をする。

 大商人は、パパエルと名乗った。

 おっちゃんは会話の合間を見て本題を切り出す

「いやあ、でも、飛翔族って凄いですな。こんな場所にまで商売に来られるなんて」


 パパエルは自慢顔で語る。

「私もここまで来るまで、色々あった。だが、商売の面白さはどこに行っても変わらない」

「飛翔族ってあっちこっちで手広く商売をしてはりますやろう。きっと、村はさぞかし金持ちなんでっしゃろうな?」


「まあ、それほどでもないよ」と大商人が鼻で笑って謙遜(けんそん)する。

「わいも一度、行ってみたいなー」

 パパエルは鷹揚(おうよう)に構えて発言する。

「村に来たいのなら、『詩人の勲章』が必要だよ」

「これですか」と、おっちゃんは『詩人の勲章』を見せた。


 パパエルは目を細めて、おっちゃんの手の詩人の勲章を確認し、感心した。

「それだよ。どうやら、おっちゃんは見かけによらず。優秀な冒険者のようだ」

「そんなことありまへん。これ自分でダンジョンに挑んで取ったんやなく、人から譲ってもらったものですよ」


 パパエルが愛想のよい顔で発言する。

「冒険で手に入れようが、交渉で手に入れようが『詩人の勲章』は『詩人の勲章』だ。いいだろう。私は一月五日の夕刻に村に戻るから、その時に、客人として招待しよう」

「そうですか。すいませんが、その時に同じく、『詩人の勲章』を持つ人間を、もう一人か二人、連れて行って、いいですやろうか?」


「いいとも。『詩人の勲章』を持っているなら、構わない」

「パパエルはんが気前良くて、助かりました」


 吟遊詩人が声を上げる。

「さあ、皆さん、もう(じき)、新年です。カウント・ダウンをしましょう」

 皆でカウント・ダウンをして新年を迎える。

(これで、わいも、四十七やなあ)


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