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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
487/548

第四百八十七夜 おっちゃんと掘り当てた遺跡(中編)

 遺跡の中はクリーム色の廊下が左右に続いていた。用心しながら、中を探索する。中には罠はなく、危険なガーディアンもいなかった。

 ただ、時折、鍵の掛かった扉があるので、魔法で鍵を開けて中を見る。

(これは、危険な遺跡やないな。何かの研究施設か、実験施設やな)


 部屋を見て回るが、取り立てて目ぼしいものなかった。

 途中、ズタ袋のような袋があったので拝借する。資料室のような場所があった。適当に資料を詰めて、お土産にした。


 建物の中を進むと、一番奥に大きな扉があった。扉の鍵を開けようとしたが『開錠』の魔法では開かなかった。『透視』の魔法を唱えると、中が見えた。

 縦百m、横二十五m、天井までも二十mもある広大な空間であり、空間の奥には高さ十八m、太さ一mのポールが二本、二十mの間隔を開けて立っていた。

(何や? 実験装置か? かなり巨大やで)


 おっちゃんは無理に扉を開けようとせず、入口に戻った。

 入口では監督トロルの他にナーガ族の女性魔術師が待っていた。ナーガ族は下半身が蛇で上半身が人間の種族である。

 待っていたナーガ族の女魔術師は紫の肌をして、肩まである緑の髪を伸ばしていた。服装は上半身が隠れる茶のハーフ・ローブを着て、杖を持っていた。


 おっちゃんはナーガ族の女魔術師にズタ袋を渡した。

「ただいま、戻りました。これ、お土産です。資料室で見つけました」

 ナーガ族の女魔術師は気の良い顔で、おっちゃんからズタ袋を受け取る。

「中を覗いて資料を持ってくるとは感心ね。調査隊を出す手間が省けるわ」


 ナーガ族の女魔術師は真剣な表情で、御付のナーガ族にズタ袋を渡して指示を出す。

「闇雲に入らないで。まずはこの資料を解読するわ」

 ナーガ族の女魔術師と、御付のナーガ族を伴って戻って行った。

 昼の休憩の時間が終わっていたが、おっちゃんは現場監督の計らいにより、長めの昼休みを貰った。休憩が終わって、現場に戻ろうとする。


 現場監督と先ほどのナーガ族の女魔術師が来た。現場監督が冴えない顔で告げる。

「おっちゃん、現場の仕事は今日はもうしなくていい。後はこっちのナージャさんの元で働いてくれ」


 ナージャはつんとした顔で、てきぱきと指示を出す。

「まず、シャワーを浴びて、泥と塩を落としなさい。シャワーが終わったら、着替えて()いてきなさい。私は待たされるのが嫌いです。迅速に指示に従いなさい」

(何や、気難しそうな女性やな)

「わかりました、すぐに綺麗な格好をしてきます」


 おっちゃんは、すぐにシャワー室で泥と塩を落とし、用意された新しい腰巻に着替える。

「準備ができました」

 ナーガ族の女魔術師は厳しい顔で注意した。

「これから、『ベルポネデス』様の許に行きます。くれぐれも失礼のないように」

 身綺麗になったおっちゃんを伴って、ナージャはマジック・ポータルを開く。


 マジック・ポータルを出た先は床が大理石張りの会議室だった。会議室の上座には赤の豪奢(ごうしゃ)な衣装と羽帽子を身に着けた、身長百五十㎝の黒い女性の鬼が座っていた。

 鬼の左右は六席ずつ背凭(せもた)れが着いた椅子があり、様々な種族が座っていた。

(これは完全な幹部会やな。座っているのはダンジョンの各分門の責任者やろう)


 ナージャが正面の上座に座っている鬼に(うやうや)しく挨拶をする。

「御館様。遺跡の内部をじかに見たトロルのおっちゃんを連れて参りました」

(『熱狂詩人ベルポネデス』って、女性やったんやな)


 おっちゃんが礼をすると、『熱狂詩人ベルポネデス』が軽く右手を挙げて、一同に合図を送る。

『熱狂詩人ベルポネデス』の左にいる、(ふくろう)の頭を持つ種族が宣言をする。

「それでは、会議を始めます。議題は人間の遺跡についてです。それでは、ナージャどの、ご報告をお願いします」


 ナージャが真剣な顔で報告する。

「この、おっちゃんなるトロルが持ち帰った資料によれば、遺跡は千年前に存在したシルカベリー人の遺跡です」


『熱狂詩人ベルポネデス』が真剣な顔で訊く。

「して、何のために、遺跡は創られたの?」

「遺跡は、大規模なマジック・ポータルを開くためのものです。昔の伝承と持ち返った資料を合わせて考えるに、人間が天界に攻め入ろうとして遺跡を作ったと思われます」


 会議が進むと、会議の参加者から遺跡の内部についての質問が出るので正直に答えた。

 一通りの情報共有が済むと、『熱狂詩人ベルポネデス』が険しい顔して口を開く。

「事情はわかったわ。それで、この遺跡をどうするかよ」


 十二人いる『熱狂詩人ベルポネデス』の家臣は、保存か取り壊しかで、半分に割れた。

ナージャを筆頭にする魔術師が保存を主張して、魔術師以外が取り壊しを進言していた。

 会議の結論は出ず、再調査する方向で調整が図られた。


(遺跡は文化的にも学術的も価値があるものや。せやけど、ダンジョンにとっては、メリットがないからな。シルカベリーの件を考えると、マジック・ポータルは災いを呼ぶかもしれんし、仕方ない議論やな)


 翌日から、おっちゃんは現場に戻ったが、作業内容が変わった。おっちゃんの仕事は塩を運ぶ仕事から、遺跡から出る古書を運搬する仕事になった。

 遺跡の入口で古書を天秤棒で担いで、ダンジョン側の指定した場所に運ぶ。


 三時間後、遺跡が揺れた。

 遺跡が五分間ほど揺れると、血相を変えたナーガ族の魔術師が飛び出てきた。

(これ、遺跡で何か、良くない事態が起こったで)


 魔術師が消えると、十分で二十名の護衛を伴った『熱狂詩人ベルポネデス』が姿を現した。

『熱狂詩人ベルポネデス』がやって来ると、遺跡から青い顔のナージャが出てくる。

「御館様、大変な事態になりました」


『熱狂詩人ベルポネデス』が不機嫌な顔で先を促す。

「何よ、詳しく報告して」

 ナージャが弱った顔をして事情を説明する。

「私の部下が、誤って遺跡を起動させました。このままでは、バルスベリーの街が巨大なマジック・ポータルに飲み込まれ、地上より消滅します」


(何やて? 街が消滅やて? 洒落(しゃれ)にならん事態や)

 おっちゃんは内心かなり慌てた。でも、黙って聞いた。

『熱狂詩人ベルポネデス』が険しい顔で質問する。

「マジック・ポータルを停める方法はないの?」


 ナージャが真剣な顔をして、申し開きをする。

「街ではなく遺跡とマジック・ポータルを繋げば人間の街は救われます。ただ、大きなマジック・ポータルを開けば、ゲートを通って目を覚ましたモグロドンがこちらの世界にやって来ます」


『熱狂詩人ベルポネデス』が顔を歪めて、苦々しく意見する。

「モグロドンね。モグロドンは天界の番人。倒すことは不可能よ」

 ナージャは弱りきった顔で献策(けんさく)をする。

「そうです。ですから、人間の街を犠牲にするしかありません」


 このままでは街が犠牲にされると思ったので、おっちゃんは声を上げた。

「おそれながら、申し上げます。モグロドンを再び眠らせることは、できないのでしょうか」

『熱狂詩人ベルポネデス』以外が、険しい顔でおっちゃんを睨み付ける。


『熱狂詩人ベルポネデス』は困った顔で教えてくれた。

「モグロドンを眠らせるには私の『深き眠りの詩』でも難しいでしょうね」

「なら、『深き眠りの詩』に『お休みリュート』の力を加えてはいかがでしょうか?」


『熱狂詩人ベルポネデス』は驚いた顔をした。

「『お休みリュート』を知っているの! あれは『夜更かしリュート』と並ぶ、大悪魔の秘宝よ」

「それが、その、今なら、手に入るんですわ」


『熱狂詩人ベルポネデス』は決意の籠もった顔で命令する。

「わかったわ。ナージャよ。ここに、マジック・ポータルを繋げるのよ。おっちゃん、早急に『お休みリュート』を持参して」


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