第四百八十三夜 おっちゃんと毒蛇ゼナ・ベムボルトの毒
オスカルと十人の勇士は、魔道具を破壊しに街を出て行った。
三日後、おっちゃんが酒場で飲んでいると、オスカルたちが帰って来た。十一人全員が帰って来たが、全員の表情は暗かった。
帰って来た冒険者から話を訊こうと、冒険者の輪ができる。
イサベルは輪から離れた場所に座った。
おっちゃんは向かいに腰掛け、暗い顔のイサベルに話し掛ける。
「お疲れのところ悪いが、向こうで話を聞きたい」
おっちゃんが密談スペースにイサベルを誘うと、イサベルが難しい顔で応じた。
「いいわよ。あまり話す内容もないけど」
密談スペースに座って質問を開始する。
「面白い話が聞けるとは、思うてへん。せやけど、聞かせて欲しい。魔道具はどうなったん?」
イサベルが険しい顔で説明する。
「魔道具は無傷よ。特殊な力場があって、半径五m以内に近づけなかった。剣も矢も壁があるように弾かれる」
「魔法による破壊は、どうや?」
「魔法も駄目。魔法も見えない壁に当ると打ち消されるわ」
「そうか。なら、もう一つ、質問や。雨はどうや?」
イサベルが怪訝な顔をする。
「辺りに、霧雨が降っていいたけど、雨は弾かれていなかったわね」
「なるほど。液体なら行けるんやな」
イサベルが否定的な顔で、問題点を指摘する。
「大量の水で魔道具を下に押し流す作戦は難しいわよ」
「魔道具がどんな状態か、詳しく教えてくれるか」
「魔道具のある場所は高地で、魔道具は大きいわ。どれくらいの水を運んで上から流せばいいか、見当も付かない」
「すまんが、魔道具の形状を紙に描いてもらって、ええか?」
「いいわよ」
おっちゃんが紙とペンを持ってくると、イサベルが紙に魔道具を描く。
魔道具は全長が二・五m、牡牛のような二本の角を持つ、ずんぐりした大砲の形をしていた。
魔道具は斜面に台座の部分が埋まっていた。おっちゃんは魔道具について詳細を聞き、魔道具の弱点を推測する。
「わかったで。この魔道具は、エネルギーを砲身の底に貯めて撃つタイプや。底に小さな穴でも空けてやれば、暴発するで」
イサベルが機嫌も悪く否定する。
「魔道具は金に似た特殊な金属でできているのよ。近づければまだしも、離れた場所から穴を空けるなんて、無理よ」
「液体が近づけるなら、行けるで」
「なにを考え着いたのよ」
「魔道具の底を壊すのに、死の谷の女王のゼナ・ベムボルトの毒を使うんや。黄金をも腐らせるゼナ・ベムボルトの毒なら、腐食させられる」
イサベルは冴えない表情で指摘する。
「でも、黄金すら腐るなら、どうやってゼナ・ベムボルトの毒を運ぶのよ」
「ゼナ・ベムボルトは元々、毒蛇のベムボルトが成長した個体や」
「そうでしょうね。それが毒の運搬方法と、何の関係があるの?」
「ベムボルトにはゼナ・ベムボルトの毒に耐性があるやろう。だから、小さなベムボルトを殺して、袋の代わりに使うんや」
イサベルの表情が和らぐ。
「なるほど。それなら、ゼナ・ベムボルトの毒だって運べるわね」
「ゼナ・ベムボルトからの毒の採取も、前回にランテンの実を手に入れたように、酒を使えば、簡単やろう」
イサベルが思案の表情で、前向きな意見を述べる。
「毒を採るから難易度は前回より上だけど、できない計画ではないわね」
「そうやろう? 後は、毒を現地までべムボルトに入れて運んで、尻尾に小さな穴を空ける」
イサベルは機嫌もよく褒めた。
「穴から滴る雨垂れのように、毒を魔道具の砲身の底に垂らして魔道具を破壊すればいいのね。見事な解決策ね」
「どうや? 行けそうやろう?」
イサベルが明るい顔で提案した。
「魔道具を破壊できるかもしれない。さっそく、オスカルに献策するといいわ」
「献策はわいじゃなくて、イサベルはんが思いついた経緯にして、報告してくれるか」
イサベルが意外そうな顔で意見した。
「何で私なの? 作戦が上手く行けば、作戦を思いついた人間に褒美が行くわよ」
「ええねん。わいはしがない、しょぼくれ中年冒険者。そんな大層な作戦を思いつく人間やないねん」
「何か訳があるのかしら?」
「まあ、そんなところや」
イサベルは澄ました顔をして、深くは追及してこなかった。
「人にはそれぞれの事情があるものよね。いいわ、深くは聞かない。私が考え付いた経緯にして、相談してみるわ」
イサベルは席を立つと、冒険者ギルドの奥に消えて行った。
おっちゃんはイサベルに描いてもらった紙を手にして、冒険者の酒場で待つ。
十分もすると、ローサに呼ばれて、九人の冒険者が冒険ギルドの奥に行く。
(作戦が決まったようやな。有能な冒険者が十一人いれば、策もうまくいくやろう)
おっちゃんは安心して、酒場で飲んでいた。
夕食を摂りに、顔色のよいセサルがやってくる。
「こんばんは、おっちゃん。どうしたんですか、にやにやして? 何かいい話があったんですか?」
「別に。わいは、いつものわいや」
向かいに座ったセサルが、おっちゃんの持つ紙に興味を示した。
「その紙をちょっと見せてもらっても、いいですか?」
「これか? ええよ」とイサベルが描いた魔道具の絵を見せる。
セサルが難しい顔で絵を見て、尋ねる。
「おっちゃん、この絵を、どこで手に入れました」
「どこでって、ここでやけど? その絵が、どうかしたの?」
「場所を変えましょう」とセサルが真剣な顔で頼むので、密談スペースに移動する。
密談スペースに来ると、セサルが知的な顔で見解を語った
「これと同じような形状の兵器を赤の寺院の書庫で見ました」
「これは何やの?」
「シルカベリーの街にあった、飛行戦艦に装備されていた砲によく似ているんですよ」
「これはカルルン山脈にあって、雷雲を発生させる魔道具やと聞いたで」
セサルが難しい顔で考え込む。
「だとすると、シルカベリーの軍隊は、かつてはこの付近で軍事行動をしていたのかもしれませんね」
「何や? もしかすると、このカルルン山脈のどこかに飛行戦艦が眠っているかもしれんのか?」
セサルが考え込む顔をして、力強く告げる。
「砲身が落ちていただけでは、何ともいえません。でも、あるなら大発見ですよ」
「そうやろうね。飛行戦艦の中に地図や航海日誌があれば、シルカベリーの街かて発見できるかもしれんなあ」




