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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
482/548

第四百八十二夜 おっちゃんと『晴天を呼ぶ詩』

 おっちゃんは金貨を数えると、手元に八十二枚が残った。

(かなり、儲かったな。とりあえず、とっておこう)


 おっちゃんは七十枚を冒険者ギルドに預けておく。

 セサルが報告をしに冒険者ギルドを訪れた。セサルの顔は暗かった。

「申し訳ありません。進展があまりありません」

「難航しとるんか。どれ、進捗を聞かせてくれるか」


「シルカベリーの街の存在は明らかであり、アプネと呼ばれる古き神が奉られていたのは確かです。ですが、そこから先が全然わかりません」

「他には何か手懸かりはないの?」


 セサルが困惑した顔で推論を語る。

「ここからは推測の域を出ないのですが、シルカベリーの街はかなり発展した魔道都市でした。ですが、何かの切っ掛けで海中に没しました」

「海中に没して滅んだ古代都市ねえ……」


「沈んだ海域ですが、どうしても、特定ができません。場所を計算すると、沈んだ場所は、陸地になるんです」

「それまた、奇妙な話やなあ。でも、何で、シルカベリーは海中に沈んだんや?」


 セサルが沈んだ顔で教えてくれた。

「沈んだ理由については、神の怒り、とだけ記述がありました」

「何で神様が怒ったんやろうな?」


「シルカベリーの民は人間の身でありながら、天国への扉を開きました。それで、天界へと攻め入ろうとしたとする、古い物語は見つけました」

「物語レベルの話かあ。それでは、ちと曖昧(あいまい)やな」


 セサルが躊躇(ためら)いがちに尋ねた。

「調査は、まだ時間を要しますが、続けますか?」

「進展が何もないなら、中止する。せやけど、少しずつでも前に進んでいるのなら、ええ。続行や」


 おっちゃんは銀貨をセサルに払って別れた。

 セサルが帰ると、イサベルが冒険者の酒場にやって来た。


 イサベルは『夜更かしリュート』を返しに来た。

「何や、時間が掛かったな。何か問題でもあった?」

 イサベルが、うんざりした顔でぼやく。

「仲間の勘違いで、しなくていい冒険をするはめになったわ」


「それはお疲れやな」

 イサベルが疲弊した顔で(こぼ)す。

「バルスベリーで少し休むわ。さすがに疲れたわ。残りの金は年末までに払う。そしたら、『お休みリュート』を持って帰るわ」

「そうか。なら、ゆっくり待つわ」


 冒険者ギルドの扉が開いて、マントを羽織ったゴークス族の男二人が入って来た。

 近くの冒険者が驚いた顔で囁き合う。

「珍しいな。ゴークス族が麓まで下りてくるなんて」

「何か村で起きたのか?」


 入って来たゴークス族の男たちは、依頼受け付けカウンターに行く。

 ローサと簡単に話すと、ギルドの奥に入っていった。

(何やろう? 何か、厄介事の匂いがするで)


 一時間ぐらいして、ゴークス族の男たちは冒険者ギルドを後にした。

 ほどなくして、赤い服を着て、腰に剣を佩いた金髪の男が出て来る。

 男性の身長は百八十㎝、筋肉は付いているが太ってはいない。顔立ちは優しく、優雅さを感じさせる。


 男の名はオスカル。バルスベリーの冒険者ギルドのギルド・マスターだ。

 オスカルは険しい顔で、よく通る声で告げる。

「皆に報告がある。街に危機が迫っている」


 冒険者の一人が強張(こわば)った顔で訊く。

「具体的にはどんな危機なんですか?」

「カルルン山脈で雷雲を発生させる魔道具が発見された。魔道具が発生させた雷雲が、ゆっくりとだが、街に向かって来ている」


 冒険者が深刻な顔で質問する。

「このままだと、街が雷雲によって破壊される、と?」

「そうだ。まず、ゴークス族の村が消え、次に街が消えると予想される」


 おっちゃんの近くにいた冒険者が、厳しい顔で感想を漏らす。

「それで、ゴークス族が助けを求めて来たのか?」

「この魔道具を破壊するために、十名の勇士を募集する。報酬は破壊が成功した場合、一人に付き金貨七枚を出す。応募者が多数いた場合はこちらで選考する。我こそはと、思う者は志願してほしい」

 おっちゃんは気になったので尋ねる。

「雷雲は近づいただけで、雷を(はな)ってくるんやろう? どうやって雷を防ぐんや?」


 場が一瞬、しーんとなる

 隣にいたイサベルが苦々しい顔で告げる。

「方法なら、あるわ。ちょうど、私の仲間が『晴天を呼ぶ詩』を手に入れているわ」

「ひゅー」と誰かが口笛を吹く。


 おっちゃんは感心した。

「『晴天を呼ぶ詩』の効果で雷雲を消せるなら、その間に魔道具を破壊すればええな」

 オスカルが笑みを(たた)えて訊く。

「いい案だな。名前は?」


 イサベルが凛々しい顔で告げる。

「私の名前は、イサベルよ。仲間の詩人の名前は、カルロスよ」

 オスカルが後ろを軽く振り返って、ローサに指示を出す。

「よし、連れて行く二人はまず決まった。残りは八人だ」


 雷雲から身を守る術があるとわかると、次々と名乗りを上げる者が現れる。

 残りの八人は、すぐに決まった。

 イサベルが、どんよりした顔で愚痴る。

「やっと、ゆっくりできると思ったら、これよ」

「それだけ、冒険の神様に愛されておるんやろう」


 イサベルは、やれやれの顔で、迷惑そうに語る。

「カルロスの奴は喜ぶんでしょうね。苦労して手に入れた『晴天を呼ぶ詩』をこれで声も高らかに歌えるって」

「よかったやろ。しなくて良い冒険が役立つ冒険に変わって」


「生きて帰って来たら、一杯やりましょう」

イサベルは仲間のカルロスと共に、オスカルの許に移動した。


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