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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
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第四百七十八夜 おっちゃんと『詩人の岩窟』の試練

 朝、おっちゃんはセサルが目覚めるのを待つ。

 朝になっても起きないので、塾に来た子供に「今日と明日は塾を休みます」と伝えて、帰ってもらった。


 昼過ぎにセサルが眼を覚ましたので、食事と飲み物を持って行く。

「セサルはん、無理しすぎやで」


 セサルがよろよろと上半身を起こす。セサルが辛そうな顔で発言する。

「すいません、おっちゃん。これから、塾の準備をしなければ」

「塾の生徒さんなら、もう帰ったで。明日も塾を開けられるかわからんから、今日と明日は休みますと伝えておいた」


 セサルが申し訳なさそうな顔をする。

「そうですか。それは、子供たちに悪いことをしました」

「今日と明日は調べものもええから、ゆっくり休み。詩を知っている詩人を捜す仕事は、わいとイサベルはんで、やってみる」


「すいません」とセサルは詫びると、食事を摂って、すぐに眠った。

 部屋の掃除をして、イサベルが来たので、お願いする。

「セサルはんの世話を頼むわ。わいは今日は用事があるから、ちょっと出かける」

「わかったわ。セサルのことは、心配しないで」


 おっちゃんは腰巻きを買うと、モスフェウスが教えてくれたダンジョンの裏口へ行く。近くで装備品を隠して、トロルに変身する。

トロルは身長三m、岩のような肌を持つ、筋肉の塊のモンスターである。


 裏口でモスフェウスから教えてもらった秘密の方法でノックをする。

 少しの間を置いて、通用口の覗き窓が開いた。誰かが、おっちゃんの姿を確認する。


 おっちゃんが軽く会釈をすると、扉が開いて、腰巻きを着けたトロルが姿を現す。

 おっちゃんの肌は薄い緑色だったが、出て来たトロルの肌は褐色だった。

「わいの名はオウル。おっちゃんの通り名で商売している、トロルです。『詩人の岩窟』さん相手に商売をしたいんやけど、どうしたらいいですかね?」


 トロルはおっちゃんをじろじろ見る。

「俺の名はギロル。あんた、ここら辺のトロルじゃないね。どっから来たの?」

「へえ、出身は西大陸です」


 ギロルは驚いた顔をする。

「西って、随分と遠いところから来ているね」

「東大陸で旅行会社が始まりましたやろう。おかげで、東大陸での移動がスムーズになりました。そんで、東の珍しい物を買って、西に運んで儲けようと考えました」


 ギロルは突っ込んで訊いてきた。

「でも、一人だと運べる量に限界があるから、そんなに利益にならんだろう?」

「そこで、東大陸にある『詩人の岩窟』さんに眼を着けました。呪術詩なら嵩張(かさば)らんし、輸送中に破損することもありません。何で、運び易い呪術詩を仕入れに来ました」


 ギロルは懐疑的な顔で意見をする。

「なるほど。確かに、おっちゃんの言う通りだ。魔法のスクロールに書いてある呪術詩なら、持ち運びし易いし、破損もしにくい。でも、売れるかな?」

「それはもう、商売する前に市場調査はしています。買ってくれそうな当てがあっての、仕入れですわ」


 ギロルが興味を示した顔で尋ねる。

「ちなみに、どんな奴が、うちの呪術歌を買うんだい?」

「いやあ、それは教えられません。何たって、商売の肝ですからね」


 ギロルが愛想よく申し出た。

「呪術詩を売るのはいい。だけど、あんたを試すために、仕入れを頼んでもいいかな?」

「どうぞ。そんで、何を仕入れてくればいいでしょう? 喉飴でっか?」


 ギロルは気を良くした。

「いいね。ちゃんと呪術詩を歌うには喉を潤す飴が必要だと、知っているんだね」

「それはもう、存じております」


「うちは取引したい商人が来たら、一つ課題を出すことにしているんだ。今回は甘い物を仕入れてきてくれ」

「お菓子でっか? それとも、砂糖でっか?」


 ギロルは晴れやかな顔で、陽気に告げる。

「そこは任せるよ。量も大して要らない。うちのダンジョン・マスターの『ベルポネデス』様が気に入ったら、合格だ」

「わかりました。ほな、甘い物を持って参上します」


 おっちゃんはギロルと別れる。

 人間の姿に戻り、着替えて冒険者ギルドに行った。


 ギルド依頼受付カウンターに機嫌の良い顔のローサがいたので、尋ねる。

「あんな、ローサはん、ちと訊きたい。ここら辺で甘い物いうたら、何が有名? 水飴? 甘酒? それとも、干し果物?」

「どうしたの? 急に甘い物なんかについて訊いて」


「宿題を出された。『熱狂詩人ベルポネデス』が好きな甘い物を調べなあかんねん」

 ローサが明るい顔をして、軽い調子で教えてくれた。

「その答なら有名よ。『熱狂詩人ベルポネデス』はキャラメルが大好きだって、昔話にあるわ。だから、正解はキャラメルよ」

「そうか、ありがとう」


 おっちゃんはキャラメルを買おうとした。ところが、どこの菓子店にも飴屋にも売っていなかった。

(おかしいな。どこの店を覗いても、キャラメルが売っておらん)


 飴屋の従業員に尋ねる。

「すんまへん。キャラメルって置いてないの?」

 飴屋の従業員が渋い顔で答える。

「バルスベリーでは、どこの店にもキャラメルはないよ」


「何で? 材料が手に入らないんか?」

 飴屋の従業員は表情を曇らせて教えてくれた、

「そうじゃないんだ。バルスベリーでは、法律によりキャラメルが輸入も製造も禁止なんだ」

「キャラメルやで。何で禁止なの?」


「さあ、昔の領主様が決めた法律だからね」

(バルスベリーは、わけのわからん街やなあ)


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