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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
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第四百七十六夜 おっちゃんと『お休みリュート』

 二日後、冴えない表情のセサルがやって来て、おっちゃんを密談スペースに誘う。

「まずは御報告ですが、シルカベリーの港街はかつて存在したのが確実です。シルカベリーには女神アプネを祭る神殿があった事実もわかりました」


「そうやろうな。そんで、他には何かわかったか?」

「シルカベリーはバルスベリーとも交易がありました。交易路の長さから計算すると、それほど遠くない場所のようです」


「何や、この近くか。あれ? でも、この近くに海なんてないやろう」

 セサルが困惑した顔で釈明する。

「そうなんですよ。記録を総合すると、この近くに港街があったことになる。でも、ここは山の中なので混乱しております」


「それは記録が間違いかもしれんな」

 セサルが神妙な顔で申し出た。

「そこで、探索の手を青の寺院から赤の寺院に広げたいと思います」


「赤の寺院なんてのもあるんやな」

「赤の寺院も青の寺院と同じくらい古いのですが、こちらの記録は王家や公文書に関するものが多く、一般には公開されていません」


「何か、仰々しいとこやね」

 セサルが落ち着いた様子で教えてくれた。

「ただ、今回は青の寺院のアレハンデル文書管理長の口利きがあったので、利用可能になりました」

(銀貨やなく金貨を寄進しておいた効果が出とるね。宗教でも先立つものは金か)


「そうか。なら、引き続き調査を進めてくれ。きっと、わいでは調査しても調べきれん」

「わかりました。なら、さっそく赤の寺院に行ってきます」


 おっちゃんは二週間分の調査費用を払った。

 学術的な調査はセサルに任せる。

 おっちゃんは吟遊詩人たちを見つけては銀貨を払い、アプネに関連しそうな伝承を訊いた。こちらは金は掛ったが、収穫がなかった。


 手詰まり感が出てきたので、冒険者の酒場で時間を潰す。

 酒場で行商の人間が暗い顔で噂する

「南西のホイホイ村がおかしい。ホイホイ村に行った奴が帰ってこない、って話だ」

「何だって? 少し前から村人の様子がおかしいって話だったが、何が起きたんだ」

(何や、南西の村でも異常が起きとるんか? 大変やな)


 そのうち、ローサの手により、南西の村に行商に行った商人を捜して連れてきてほしいとの依頼が貼られる。

 手の空いていた下級冒険者が、さっそく依頼票を外して依頼受付カウンターに行く。

(やる奴がおるんなら、様子見やな)


 下級冒険者が出て行くと、入れ違いでイサベルが冒険者ギルドに入ってきた。

 イサベルは深刻な顔で何やらローサと話してから、おっちゃんの許に来る。

「こんにちは。イサベルはん、何ぞ困りごとか?」

「そうね。相談があるわ。詳しい話は、密談スペースで話しましょう」

「ええで、ほな、向こうで話そうか」


 密談スペースに移動すると、イサベルが暗い顔で話す。

「南西のホイホイ村がまずいわ。村人全員が深い眠りに落ちて、眼を覚まさなくなったわ」

「あれま。こっちは不眠で、そっちは眠ったままか」


「原因はわかっているわ。ある詩人が、魔法のリュートの『お休みリュート』を手に、呪術詩の『深き眠りの詩』を歌ったせいよ」

「何や呪術詩がらみか」


 イサベルが苦い顔で教えてくれた。

「詩人が呪術詩を歌うと『お休みリュート』から流れる旋律が止まらなくなったのよ」

「もしかして、その詩人に伝説の喉飴を渡して歌わせた人物はイサベルはんか」


 イサベルが落ち込んだ顔で、辛そうに発言する。

「ええ、そうよ。こんな深刻な事態になるとは思わなかったわ。リュートを壊すわけにもいかず、大弱りよ」

「起きた事件をあれこれ非難しても始まらん。これからどうするか、や」


 イサベルが弱った顔で淡々と告げる。

「セサルに相談したら、『深き眠りの詩』と対となる『爽快なる目覚めの詩』が存在すると教えてくれたわ。それを『お休みリュート』で演奏すれば、旋律は止まるわ」

「なら、すぐにも捜したほうがええで」


 イサベルが深刻な顔で打ち明けた。

「セサルの話では赤の寺院に『爽快なる目覚めの詩』があると教えてくれた。でも、赤の寺院は外から来た私には協力してくれない」

「そうか。敷居の高い寺院やからな」


 イサベルが真剣な顔で申し出た。

「セサルに頼んだら、『爽快なる目覚めの詩』を赤の寺院で探すことはできる。だが、赤の寺院に来ている目的はおっちゃんの調べ物のためだ。だから、おっちゃんに許可を貰ってほしいと、念を押されたの」

「もう、セサルはんも頭が固いの。ええで。わいから歌を捜してもらえるように頼んだる」


 イサベルが躊躇いがちに確認する。

「いいの? セサルに詩の捜索を頼めば、おっちゃんの捜している情報が見つかるのが、遅れるわよ」

「遅れていいとは言わん。だが、状況が状況や。止む無しや」


 イサベルはほっとした顔で頭を下げた。

「ありがとう、おっちゃん」

 おっちゃんは夜に、イサベルと共にセサルの家を訪ねる。

「こんばんは。イサベルはんから事情は聞いたで。シルカベリーと女神アプネの調査については遅れてもいいから『爽快なる目覚めの詩』を探してやって」


 セサルはほっとした顔をする。

「わかりました。お金を頂いて調べ者をしている手前、許可が欲しかったところです。それと、ずうずうしいようですが、一つお願いがあります」


「何や? セサルはんの頼みや。言うてみて」

 セサルが改まった顔で依頼してきた。

「イサベルに『夜更かしリュート』を貸してください」


「呪術詩で眠っている人間に『夜更かしリュート』って、効果あるの?」

「イサベルから詳しい話を聞きました。『夜更かしリュート』が鳴っている間だけ、村人は眼を覚ますでしょう」


 イサベルが驚いた顔で喰いつく。

「まさか、『夜更かしリュート』を持っているの? あれは大悪魔が持つ至宝よ!」

「何やかんやで、手に入れた。そうか、吟遊詩人が交替しながら、『夜更かしリュート』を演奏してもらったら、応急の処置にはなるんやな」


 イサベルが真剣な顔で頼む。

「借りた『夜更かしリュート』は必ず返すわ。だから、『爽快なる目覚めの詩』が見つかるまで、貸してちょうだい」

「わいが持っていても宝の持ち腐れやからな。ええで、『夜更かしリュート』を貸すわ」


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