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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
474/548

第四百七十四夜 おっちゃんと悪魔エンヘル(前編)

 エンヘルは伝説の詩人と張り合った悪魔である。歌唱合戦でまともに勝負しても、勝てると思なかった。

 おっちゃんはそこで一計を案じた。


「セサルはん。ダニエルはんに孫娘って、おらんの?」

 セサルが冴えない表情で簡単に答える。

「以前に捜していただいたアンナがそうですが」

「なら、アンナと話がしたい」


 セサルが渋い顔をして、やんわりと拒絶した。

「アンナはまだ子供です。危険な真似はさせられません」

「ただ、歌を聞かせてもらうだけや」


 塾にやってきたアンナに、お願いをする。

「ちょっと訊きたいんやけど、おじいちゃんと一緒にお歌を歌ったことって、あるかな?」

アンナは、にこにこした顔で答えた。

「あるよ。『トウモロコシの詩』よ」


「『トウモロコシの詩』って、なに?」

 セサルが柔和な顔で説明する。

「ここらへんでよく歌われる、トウモロコシを収穫する時に歌う詩ですね。労働歌と童謡の中間の詩です」


「そうか。なら、ちょっと、おっちゃんに。『トウモロコシの詩』を教えてくれるか」

「いいよ」とアンナは、にこにこしながら歌う。

 おっちゃんは、じっとアンナの一挙手一投足を見守った。二度ほど歌ってもらい、三度目は一緒に歌った。

「ありがとうな」と、おっちゃんはアンナと別れる。


「ほな、歌を覚えるから、塾が終わったら、宿屋に来て」

 アンナが着ていた服と同じような子供服を古着屋で購入し、靴屋で靴を購入する。


 冒険者ギルドに行って、ローサに話し掛ける。

「ローサはん。ダニエルはんって、いつぐらいに来る?」

 ローサが眠そうな顔をして答える。

「ダニエルさんなら、いつもお昼過ぎにやって来て、ここで時間を潰していくわ」


「そうか。ありがとうな」

 おっちゃんは宿屋で『トウモロコシの詩』を暗記する。独り歌えるようになったので、付近の地図を買ってセサルを待つ。


 昼過ぎに塾が終わる時間になったので、宿屋でセサルと合流する

「セサルはん。こっちの準備はできた。そんで、エンヘルがどこにいるかわかるか?」

 セサルが真剣な顔で地図を見ながら場所を指し示す。

「事前に得た情報ではエンヘルは街の南側の、この岩場の辺りにいます」


 おっちゃんは地図を確認しながら尋ねる。

「随分と街に近いな。ここなら、危険な獣も、レッド・コンドルも、出ないやろう」

 セサルが戸惑った顔で控えめな口調で質問してきた。

「襲われる危険はないと思いますが、なにを考えているんですか」


 おっちゃんは地図に印を付ける。

「なら、この印を付けた場所に、ダニエルさんと一緒に待機していてくれ」

 セサルが神妙な顔で困った口調で訊く。

「待機はいいですが、まだ、おっちゃんが何をしたいか見えてきません」


「わいは、そこにエンヘルを連れて行く。そこで、ダニエルさんを審判にして、エンヘルと歌で勝負する」


 セサルは驚いた顔で意見する。

「大丈夫ですか? 相手は伝説の詩人と張り合った悪魔ですよ?」

「わいは魔法でアンナの格好に化けて歌う」


 セサルの表情は渋かった。

「孫娘の歌う歌なら、ダニエルさんの判定は有利でしょう。ですが、上手(うま)くいきますかね?」

「任せておいて。上手くやるから」


 おっちゃんはセサルを外で待たせるとアンナに化けた。

 外で待っていたセサルは、おっちゃんを見て驚く。

「魔法で化けたにしても、完成度が高いですね。どう見てもアンナです」

「なら、先に出るから、指定位置にダニエルさんを連れてきて。そんで、セサルはんは、隠れて見ていて」


 おっちゃんはセサルに頼むと、エンヘルがいる岩場に向けて歩き出した。

 城門から出て三十分ほど歩く。岩場は元石切り場だったのか、道がまだ残っており、歩くのに困難はなかった。


 灰色の岩が切り出された、四角い場所にやって来た。四角い場所からは、街が良く見えた。

「出てこい、悪魔! 勝負しに来たわよ」


 おっちゃんが叫ぶと、空中に身長百六十㎝の悪魔が現れる。

 悪魔に頭髪はなく、小さな二本の角があった。悪魔の目の下には隈があり、青い肌をしている。

 悪魔は革のベストを着て、革の茶のズボンを穿()き、とんがり靴を履いていた。悪魔は堂々と名乗る。


「俺の名はエンヘル。詩を嗜む悪魔だ。子供が何の用だ?」

「勝負よ。勝負に勝ったら、『夜更かしリュート』を演奏するのを止めて」


 エンヘルは馬鹿にしたように笑った。

「こんな子供が俺様の相手だと? 馬鹿にするな。もっとできる奴を連れてこい」

「私はこれでもカルメロスの最後の弟子の孫なのよ」


 エンヘルが複雑そうな顔をする。

「カルメロスの関係者なのか、そうでないのか、微妙な立ち位置だな」

 おっちゃんは大きく構えて、挑戦的に発言した。

「どう? 勝負する気になった?」


 エンヘルは、(あざけ)るように鼻を鳴らす。

「まあ、いいだろう。まず肩慣らしに相手になってやろう」

「そうなら、ここから歩いていって、最初に会った人間を審判にして勝負よ」


「いいだろう」とエンヘルは答える。

 エンヘルは空中で宙返りをして、男の子に姿を変えた。エンヘルと一緒に岩場を下りて行く。


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