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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
463/548

第四百六十三夜 おっちゃんとゴークス族との貿易

 バルスベリーでは、ダンジョンに赴く冒険者は少数だが、隊商の護衛をする冒険者は、多い。

 バルスベリーでは香料である白檀石と紙を輸出していた。白檀石は付近の山から採れる。


 紙は青の寺院の秘伝の薬液によりトウモロコシの葉や茎から作られていた。

 おっちゃんが冒険者ギルドに顔を出すと、ローサが明るい顔で声を掛けてきた。

「おっちゃん、どう? 調べ物は、進んでいる?」

「あまり進展がないな。まだ、初めてばかりやから、もうちっと腰を落ち着けて取り組むわ」


 ローサが元気よく、仕事を斡旋(あっせん)する。

「そう? なら、たまには体を動かしてみる気はない?」

「何や? 何か仕事か?」


「西の山の中腹に、ゴークス族と呼ばれる、山羊の頭を持つ種族がいるのよ。ゴークス族とは商取引があるんだけど、品物を運んでくれる人が足りないの」

「ゴークス族ってモンスターやろう? 取引してもええの?」


 ローサはにこにこした顔で、事情を説明する。

「ゴークス族は飛翔族と共に昔からカルルン山脈に住んでいて、バルスベリーとは交流があるのよ」

「モンスターやなくて、付き合いのある隣人なんやな」


「互いに入ってはいけない領分を明らかにして交易をしているわ」

(バルスベリーと、昔から付き合いがあるんか。なら、ゴークス族も昔の街や古い神様に詳しいかもしれないな)

「異種族との貿易か。ちょっと興味があるなー。ええで、手伝うわ」


「よかった。小規模な商隊だから、引き受け手がいなくて、困っていたのよ」

「そんで、具体的な中身は、どんな話?」


「荷物を背負って、ゴークス族の村まで行く仕事よ。報酬は銀貨十枚で、仕事は朝早くに街を出て、夕方に街まで帰ってくる。場合によっては、一泊するかもしれないわ」


「何や。日帰り可能なんか。楽勝やな」

「でも、山に雪は降らないけど、よく霧が出るわ。だから、天候によっては動かないほうがいい時があるのよ。そこらへんは商人のミゲルさんがベテランだから指示に従って」

「わかったで、なんでも慣れた人間に従うのが一番や」


 翌朝、ミゲルの店を訪ねると、ミゲルがロバに荷物を積んで待っていた。

 ミゲルは髪の短い、がっしりした体格の三十代後半の商人だった。ミゲルは動き易い服装をして、上からサンド色のマントを羽織っていた。


「おはようございます。わいは、おっちゃんの名で親しまれる冒険者です。今日はよろしくお願いします」

 ミゲルは、おっちゃんの格好を上から下まで、ゆっくりと見る。

「革鎧とブーツを見るからに、山歩きは初めてではないね」


「仕事がら、歩くことが多いです。山道も初めてではないですが、カルルン山脈は初心者みたいものですから、よろしゅう頼みます」

「いいね。俺は謙虚な人間は好きだよ。さあ、これを背負ってくれ、商品が入っている」

「大切に運びます」


 おっちゃんは、バックパックから必要な荷を出すと、背負う荷物に括りつける。必要な小物はベルト・ポーチに移して、バックパックを預かってもらい、準備をする。

「準備ができました。ほな、行きましょうか」


 ミゲルも荷を背負い、ロバを引いて山道を登ってゆく。

 道の舗装はされていなかったが、幅は広く、道はしっかりとしていた。

「歩き易い道でんな。これが、ゴークス族の村まで続いとりますの?」


 ミゲルが機嫌よく答える。

「そうだよ。この道は千年近く、商人をゴークス族の村へと導いてきて道さ」

「道にも歴史あり、ですな。わいはゴークス族って会うのが初めてですけど、どんな種族ですのん」


 ミゲルが穏やかな顔で解説する。

「山羊の頭を持つ種族だけど、怖い奴らじゃない。人間と変わりがない」

「そうでっか。この荷物って何ですの?」


「おっちゃんの背負っている荷物は本だよ。ゴークス族には人気の商品さ」

「帰りには何を背負ってくる予定でっか?」


「帰りは山羊のベーコンを背負ってもらう」

 おっちゃんは、おやと思う。

「山の中でベーコンって珍しいな。塩とかどうしているのやろう」


 ミゲルが得意げな顔で説明する。

「ゴークス族は塩田も持っていて、多くの山羊を飼っている。だから、可能なのさ」

「こんな山の中に、塩田があるんでっか?」

「しょっぱい水が湧く場所があって、その水から塩を取っているんだよ」


 山を五時間ほど掛けて上がると、下り坂になる。

 坂の下には、二百面ほどの白い棚田を持つ村が見えた。

「あの白い棚田が全部、塩田でっか?」


 ミゲルが気の良い顔で教える。

「そうだよ。凄いだろう。ゴークス族の塩は、バルスベリーに運ばれてから、近隣の村や街に売られていくのさ」

 村は四百軒ほどの民家があった。村はバルスベリー側に面した場所にのみ、壁が設けられていた。

 壁の外には周囲百mほどある大きな石の建物と、周囲五十mほどの小さな建物があった。


「あの二棟の建物は、何ですの?」

「大きいほうが取引所で商品の売買をしている。隣の小さい建物は宿泊施設さ。天候が悪くて帰れない時に、泊めてくれる施設だよ」

「村の中に入れませんの?」


 ミゲルが渋い顔で意見を述べる。

「絶対に入れない、拒否の態度ではない。けど、ゴークス族は人間を村の中には入れたがらない。だから、入ろうとしないほうがいい。お互いに厄介事は御免さ」

「心得ました。そこらへんは注意します」


 ミゲルとおっちゃんは取引所に到着する。簡素なクリーム色の布の服を着たゴークス族の取引所の長が出てくる。

 ミゲルはロバから荷を卸して取引所の長と商談を開始する。


 おっちゃんはミゲルの指示により、荷を下ろし荷解きをする。本に掛けられた紐を解いて、本を台の上に並べる。

 古書担当のゴークス族の商人が来て、一冊ずつ本を吟味して査定していく。


 おっちゃんは本を並べていて手が止まった。売却する本の中には、悪魔召喚の書が混じっていた。

(うわ。危険な書物が混じっとった。きっと、ミゲルさんは中身をわからずに買い取ったんやろうな)


 商人の手が悪魔召喚の書を手にすると、眼を細める。商人はおっちゃんをチラリと見る。

「何か?」と訊くと「別に?」と商人から素っ気ない言葉が返ってくる。


 商人は本を一冊だけ、別の場所によけて置いた。

 品物は全て買い上げられて、塩と山羊ベーコンに交換された。

 ミゲルは塩をロバに積み、山羊ベーコンをおっちゃんに背負わせる。ミゲル自身は、山羊のバターの入った壺を背負う。


 帰る前にミゲルが警告する。

「食品を持って帰るときは、気を付けてくれ」

「なんぞ、危険があるんですか?」


「冬の、この時期時季は食品の匂いに釣られて、猛禽や獣が寄ってくる事態もある。最悪、ロバと塩だけを守れればいい」

「狼とかが、寄ってくるんでっか?」


「そうだ。でも、一番危険なのはレッド・コンドルだ。あいつらは力が強く、仲間を呼ぶから、始末に悪い」

「そうでっか。ほな、レッド・コンドルに遭わないように祈りましょう」


 ミゲルの危惧は杞憂(きゆう)で終わった。帰り道は問題なくバルスベリーに着いた。

 おっちゃんは報酬を受け取って、ミゲルと別れた。


『おっちゃん冒険者の千夜一夜』の二巻は本日発売です。

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