表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
462/548

第四百六十二夜 おっちゃんと塾の先生

 青の寺院で調べ物をして過ごすが、一週間が経っても成果が出なかった。

 夕方に蔵書庫が閉まるので、冒険者ギルドに帰ってきて夕食を摂る。

 夕食は薄切りにした山羊のベーコンに唐辛子とトマトで作ったソースを掛けて、トウモロコシ・パンに挟んだものだった。

 バルスベリーではチベタの名で呼ばれ、屋台でも売っている名物料理だった。


 宿屋に帰ろうとすると、ローサに呼び止められた。ローサが穏やかな顔で質問する。

「おっちゃん、どう? 調べ物は進んでいる?」

「なかなか、成果が上がらんなあ。でも、これは、見つかれば大発見に繋がるかもしれんから、腰を据えてじっくり調べてみるわ」


 ローサがにこやかな顔をして、控え目な調子で申し出た。

「あのね、調べ物だけど、一人で難しいようなら、地元の魔術師を紹介するわよ」

「何や? 調べ物が得意な魔術師がおるんか?」


 ローサが明るい顔で勧める。

「元冒険者のセサルさん。今は地元で塾を開いているんだけど、空いている時間にできる仕事を探しているのよ」

「腕前のほうはどうなんや? 魔術やなくて、この場合は調べ物の腕やけど」


「セサルさんは冒険者時代に、よく青の寺院や赤の寺院に出入りしていたわ。たぶん、おっちゃんが調べるより、効率はいいと思うの」

「そうか。ローサはんが推すのなら、腕は悪くないんやろう。それで、価格はいくらや?」


 ローサが軽い調子で、価格を告げる。

「七日で銀貨二十八枚でどうかって、セサルさんは言っているわ」

「でも、塾と兼任やろう。一日中ずーっと調べ物をするわけにはいかんし、何日かは塾の準備に当てなくてならんやないの?」


「その通りだけど、それでも、四週間も任せてもらえれば、何かしら成果は出せそうだと、本人は申告しているわ」

「自己申告ねえ。ええわ。なら、お試しで、まず二週間だけ雇うわ。もしかしたら、わいが金を稼いで、セサルはんに金を払って調べ物を頼んだほうが、早く決着するかもしれん」


 おっちゃんはローサに銀貨を渡した。

 翌日に、青の寺院で調べ物をしていた。すると、灰色のローブを着た、青い髪の三十くらいの男性がやってきた。


 足が少し悪いのか、足を引きずるようにして歩いた。肌の色はローサと同じ薄いオレンジ色なので、現地の人間だと予想した。


 男性は謙虚な態度で質問してきた。

「もしや、あなたが、おっちゃんさんですか?」

「そうやけど、もしかしたら、あんさんが、セサルはんか?」


 男性は殊勝な態度で挨拶した。

「私がセサルです。この度は二週間の契約をしていただいて、ありがとうございました」

「契約期間は二週間やけど、成果が上がりそうなら延長もあるから、よろしゅう頼むわ。あと、さんは不用やで。おっちゃんでええよ」


「わかりました。御期待に添えるように努力します」

 セサルは短い挨拶を済ませると、司書の人間と話をするために立ち去る。


 閉館の時間になる。青の寺院の出口で待っていると、穏やかな顔のセサルが現れる。

「セサルはん、どうや? 一緒に飯でも喰わんか? 冒険者ギルドの酒場で良かったら、ご馳走するで」


 セサルは明るい顔でやんわりと答えた。

「では、お言葉に甘えてご馳走になります」


 セサルと一緒に、冒険者ギルドで食事をする。

「わいは、チチャとチベタ、それに、ジャガ・バターにする。セサルはんは、何にする? 遠慮なく頼んで」

「では、私も同じ物を頂きます」


 給仕に金を払い、注文をする。セサルが微笑を湛えて尋ねてくる。

「よろしければ、お聞かせください。おっちゃんの探している情報はやはり『詩人の岩窟』に関連する情報ですか?」

「どうやろうな。まだ、わからん。ひょっとしたら、関係あるかもしれんし、ないかもしれん。元冒険者だと『詩人の岩窟』が気になるか?」


 セサルはしょんぼりした顔で告白する。

「足を壊してダンジョンには行けなくなりました。でも、やはり、ダンジョンは気になります」


 おっちゃんは一週間以上、冒険者の酒場で夕飯を食べてきた。だが、冒険者の酒場は、夕食時でも混雑している光景を見た覚えがなかった。

「ここって、あんまり混雑している場面を見た記憶がないな。『詩人の岩窟』って、あまり人気のないダンジョンなんかな?」


 セサルが寂しげに微笑んで教えてくれた。

有態(ありてい)に言えば不人気です。『詩人の岩窟』の宝は金銀でも武具でもなく、詩なんですよ。童話に出てくる『戸締まりの詩』や『戦の詩』が、そうです」

「その詩が流れると、何ぞ、起きるんか?」


 セサルが澄ました顔で答える。

「別に何も起きません。詩は、昔に力を失ったと言われています」

「それ、また、冒険者には人気が出ない宝やな」


 セサルが柔和な笑みを浮かべて軽い調子で語る

「でも、中には凄い詩もあると聞きます。ダンジョン・マスターの『熱狂詩人ベルポネデス』の作った呪術詩は、実力がある者が歌えば、天候も変えると伝えられています」


「高度な魔法が発動するような詩もあるんやな」

「誰にでも歌えるものではないそうです。ですが、そんな魔法みたいな詩を求める冒険者が『詩人の岩窟』には挑戦しています」


 おっちゃんは酒場を見渡す。

「そういえば、バルスベリーには吟遊詩人が多いな」


 セサルが理知的な顔で講釈する。

「呪術詩を求める吟遊詩人も、バルスベリーにはやって来ます。ですが、ここは千年以上の歴史がある街。まだ見ぬ古い物語や詩も求めて、人がやって来るのです」

「なるほどのう」


 セサルが、ちょっぴり地元を自慢するように告げる。

「街には小さな劇場が、いくつかあります。そこで、吟遊詩人の弾き語りなどをやっています。時間のある時に顔を出して、聞いてみるのも面白いでしょう」

「そんな施設もあるんやなあ」


「バルスベリーには昔に伝説の詩人である、詩人王カルメロスと呼ばれた男がいました」

「凄そうな男やね」


「カルメロスは『熱狂詩人ベルポネデス』の呪術詩を使えただけでなく、感動的な詩を創作して小劇場で歌いました。今でも、カルメロスが歌った劇場は、残っていますよ」

「そうか。バルスベリーには、古い街の他に、詩人の街の側面もあるんやなあ」

 その後も、セサルと簡単な世間話をして、別れた。


『おっちゃん冒険者の千夜一夜』の二巻は明日の発売です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ