表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ミンダス島編
457/548

第四百五十七夜 おっちゃんと災厄の蟹

 翌日、おっちゃんはブラッド・オレンジ号の通信用の鏡の前で、連絡を待った。

 連絡は日が暮れても入らなかった。月が高く昇る頃に、やっと骸から連絡が入った。


 骸の(しか)め面が、会合が不調に行った事態を告げていた。

「ダメじゃ。やはり、一本化はできぬ。各ダンジョンで独自に行動する決まりになった」

「そうなりますか。そうなると、不安でんな」


 骸は残念そうな顔で発言する。

「そうじゃのう。最悪、ブラッド・オレンジ号以外は沈むことになろう」

「ブラッド・オレンジ号は退却でっか?」


 骸が素っ気ない態度で簡単に語る

「いいや。ドロゴロン船長にこのあと作戦を指示するが、ブラッド・オレンジ号は他の船の手に負えなかった時のみ、参戦する」。

「そんな悠長な戦術で大丈夫でっか? 最初からブラッド・オレンジ号も参戦していたほうが、勝率が上がるんと、ちゃいますか」


 骸が自信のある顔で告げる。

「おっちゃんよ。これは秘密だが、今回の戦いでレイトンの街にどれだけ被害が出るかわからん。だが、『冥府洞窟』の勝利は揺るがないのじゃ」

「その自信はどこから来ておるんですか?」


 骸が澄ました顔で告げる。

「見ておれ。明日になればわかる」

「わかりました。ほな、心配はしません」


「それと、おっちゃんよ。御主は戦いが始まったら、決してブラッド・オレンジ号を離れるでないぞ。これは厳命じゃ」

「しかと心得ました」


 骸はそのあと船長のドロゴランを呼んで、明日の作戦を伝える。

 だが、おっちゃんには作戦が知らされなかった。


 翌日になると、街が慌しくなる。

 レイトンの守備隊は港に配備され、艦隊が負けた時の決戦に備える。軍艦三隻が、災厄の蟹を封印した海中の神殿を、三方向から取り囲む。


 港と神殿が一直線上になるように距離を置いてブラッド・オレンジ号と、『タタラ大洞窟』の海の怒り号が配置に就く。

 神殿と港が三百m離れており、神殿とブラッド・オレンジ号は四百m離れていた。

 おっちゃんとドロゴロンは、甲板の上にいた。


 水夫のクロコ族が、真剣な顔で告げる。

「ドロゴロン船長。ミンダス島側から通告があった、封印を破って祭器を取り出す時刻です」


 悠々たる態度で、ドロゴロンは発言する。

「そうか。いよいよ、始まるな。『海洋宮』『ラタン砂塵宮』『ダブダル廃城』だけで、どこまでできるか、見物(みもの)だな」

(何や、『冥府洞窟』は余裕やの。災厄の蟹を甘く見とるんか。だとしたら危険やで)


 八分が経過すると、神殿のある場所から波が立った。

 海底から高さが二十五m、幅五十mの青い大きな毛蟹が現れた。


 毛蟹を囲む軍艦から矢と魔法が浴びせられる。

 おっちゃんは『遠見』の魔法を使って、状況を見守る。


 毛蟹は軍艦に近づき鋏を振り下ろし、軍艦の側面を叩いていく。魔法も矢も、毛蟹には当っているが、毛蟹は攻撃を、ものともしない。

 そうしているうちに、一隻目の軍艦が沈んでゆく。

(これは、毛蟹の怪我が再生しとる。あかん。あの巨体で再生能力持ちなら簡単に倒せん)


「加勢しなくて、ええんですか、ドロゴロン船長? このままでは、各個撃破されます」

 ドロゴロンは尊大に構えて発言する。

「加勢はしない。奴らは、骸様の呼びかけを拒否して協調を拒んで、独自路線を採った。なら、意地を見せてもらう」


 そうこうしているうちに、二隻目の軍艦が沈む。

 三隻目は逃げ出そうとした。だが、巨大な軍艦を素早く操作することもできずに、毛蟹の追撃を受けて、沈められた。


 三隻の軍艦を沈めた毛蟹は勝ち誇ったように鋏を振り上げて喜ぶ。毛蟹はいい気になったのか、残りの敵も沈めようとこちらに向かってきた。

「ドロゴロン船長。毛蟹が、こっちに向かってくるで」

「船首砲、用意!」ドロゴロンが、威勢よく宣言する。


 巨大な髑髏の船首像が左右に分かれる。中から、砲座に固定された兵器が現れた。兵器は龍の頭を持ち、全長は三m、口径四十五㎝の、赤い筒状の形をしていた。

 船長室が開いて、真剣な顔をしたエウダが姿を現した。


 ドロゴロンがエウダに、(うやうや)しく頼む。

「暴食の魔女エウダ様。どうかあやつの弱点をお示しください」

 エウダが『弱点看破』の魔法を唱えると、蟹の眉間が光った。


 骸骨の水夫が、大声で叫ぶ。

「獄炎弾装填完了。ドラゴン・ソウル・ウエポン、起動します!」


 すると、船首砲の眼が光った。

 おっちゃんの頭の中に、青年の声がする。

「祖龍の血に選ばれし者よ、私を使いなさい。我らに逆らう愚かな敵を、共に滅するのです」

「何や、これは? 兵器が喋っとる。兵器が使えと囁いておる」


 ドロゴロンが威勢よく促す。

「おっちゃん、ドラゴン・ソウル・ウエポンの出番だ。これで、あの蟹を撃つんだ」


 蟹との距離は百mを切っていた。

(あかん! これは、ここでやらんと、やられる)


 おっちゃんはドラゴン・ソウル・ウエポンに付いている台座に座り、砲身を調整する。

 エウダが着けた弱点の光を狙う。引き金を引いた。


 しゅぼすううううう、辺りの空気を一気に吸い込む音がした。強烈な熱線が放たれる。

 熱線が毛蟹の眉間を貫いた。毛蟹の頭は発生した熱により瞬時に沸騰して、激しく弾け飛んだ。


 毛蟹の身が飛び散るなか、ドロゴロンは歓声を上げた。

「やったー。ドラゴン・ソウル・ウエポンの実験は成功だ」


 エウダが素っ頓狂な声を上げる。

「せっかくの蟹味噌が吹き飛んだ!」


 ドラゴン・ソウル・ウエポンは、激しく発熱していた。

 あまりの熱さに、おっちゃんは座っている砲座から転げ落ちるように逃げた。


 発熱は凄まじく、砲座を焼き、火災を発生させた。すぐに海水が汲まれて、消火活動が開始される。

 おっちゃんはドラゴン・ソウル・ウエポンの威力に戦慄(せんりつ)した。

(何ちゅう威力や。弱点を射抜いたとはいえ。あの強大な化け物が一撃で沈んだで。これは、人間の手に渡せん武器や)


2018/05/24に『おっちゃん冒険者の千夜一夜』の二巻が発売します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ