表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ミンダス島編
455/548

第四百五十五夜 おっちゃんと病気の女王(前編)

 おっちゃんはトロルの姿で、翌日のお昼に登城した。

 昨日と同じ応接室に、おっちゃんは通される。


 アイオロスはすぐに会ってくれた。アイオロスは(やつ)れていたが、身なりは綺麗になっていた。アイオロスが礼をする。

「昨日は、助けられました。礼を言わせてください。ありがとうございます」

「昨日の今日で、まだ体も回復しておらんのに大変やな」


 アイオロスが穏やかな顔で告げる。

「私に化けたコンリーネのせいで、城は混乱しています。これを早急に立て直さなくてはなりません。甘えは許されない状況です」

「コンリーネから聞かされたで。女王は病気なんやて? 回復の見込みはどうや?」


 アイオロスが沈痛な顔で語る。

「残念ながら、眼を覚まさない状態です。医師の手にも負えない状況です」

「なら、無理に島の中だけで問題を解決しようとせんと、一つ、大陸の知恵を頼ったら、どうや?」


 アイオロスは真剣な顔で頼む。

「私もそう考えておりました。ですが、魔女が私に成り代わって、強固に反対しておりました。ですが、もう、魔女はいない。お願いできるでしょうか?」

「協力は得られると思う。せやけど、うまくいったら、イルベガンに対する『重神鉱』と『霊金鉱』の輸出を増やしてもらう約束が欲しい」


 アイオロスが軽く頭を下げて、約束した。

「それは、重々わかっております。女王が回復された暁には増産をお約束します」

「わかった。ほな、大陸から医者と魔術師を連れてきますわ」


 ガイルと一緒に城を出ると、湾内に停泊しているブラッド・オレンジ号に移動した。

 ブラッド・オレンジ号の船長はドロゴロンと名乗った。ドロゴロンは龍の顔を持ち、人間に似た種族の龍人族だった。龍人族は人間と違い鱗が生えた体を持つている点で異なる。


「わいや。オウルや。『重神鉱』や『霊金鉱』の輸出について、話の進展があった。至急、骸様に連絡が取りたい」

 おっちゃんは船長室に案内された。船長室には直径六十㎝の鏡があった。


 ドロゴロンが鏡に向かって、呪文を唱える。

 鏡に女性が映る。女性は年の頃は二十前後、青い髪に白い肌をしており、赤い目をしている。魔都イルベガンの管理者の、骸だった。

「骸様。わいです。おっちゃんです。『重神鉱』と『霊金鉱』の輸出について、進展がありました」


 おっちゃんの言葉を聞き、骸の顔が輝いた。

「まことか! 輸出が止まり、参事会は混乱しておったところだ。して、どうなった?」

「実はミンダス島では、鉱物資源の生産には女王が深く関わっております」


 骸が少しだけ表情を曇らせる。

「女王は面会を拒否しておる、と聞いたぞ」

「女王はご病気で、眼を覚まさないんですわ」


「なんと、それで、交渉の席に出てこなかったわけか」

「そこで商務大臣と話し合いました。そんで、女王の治療が上手くいったら、輸出再開と増産を約束してくれました」


 骸が真剣な顔で了承した。

「わかった。イルベガンで最高の医師、薬師、僧侶、魔術師で、治療団を結成して送る」

「あと、もう一つ、お願いがあります」


「なんじゃ、また何か必要か?」

「レイトン湾には、独自交渉をしようとするダンジョンの船が他に四隻も来とります。混乱を避けるために、調整をお願いします」


「それも、どうにかしよう。後で、船長のドロゴロンから、船を出しているダンジョンを聞き、すぐに各屋敷に遣いを走らせる」

 おっちゃんは通信が終わると、《陸のカモメ亭》で治療団の到着を待つ。


 一夜が明けて、朝になると、様々な種族からなる十二名の治療団がやって来た。

(マジック・ポータルを使ったにしても、一晩でやって来るとは、対応が早いな。それだけ、魔都イルベガン側も、切羽詰まっておるんやな)


 治療団のリーダーと思わしき、白い服を着たオーガの女性が前に出る。

 オーガは角を生やしている種族で、女性でも人間の男性よりがっしりした体格を持っている。


 女性のオーガは赤い肌と赤い短い髪をしており、凛々しい顔をしていた。

(できる女性の雰囲気やな)


 オーガの女性が理的な顔で挨拶する。

「おっちゃんさんですか、骸様から派遣されてきました。医師のエンデです」

「先生、よく来てくださいました。よろしければ、すぐに城に案内します」

「疲れてはおりません、すぐに診察に行きましょう」


 おっちゃんは治療団を伴って、お城に向かう。

 アイオロスに連れられて、女王の寝室に入った。女王は一見すると人間に見えた。

 女王の身長は百六十㎝。年の頃は四十代。赤みが掛かった肩まである黒髪。小麦色の肌。細い眉と小さな口で、安らぎを覚える柔和な顔をしていた。


 おっちゃんは言葉を失った。

(キヨコ。キヨコや。キヨコが女王なんて、どういうことや?)

 エンデが真剣な顔でアイオロスとおっちゃんに声を掛ける。

「これから診察をするので、別室でお待ちください」


 おっちゃんとアイオロスは別室で待たされた。

「アイオロスはん。女王はいつから女王なんですか?」


「女王は在位七年です」

(七年やと、ちょうど、わいの前から消えたのと、同じ頃や)

「女王はこの島の生まれでは、ないですやろう。どこから来たんですか」


 アイオロスは丁寧な態度で説明を拒絶した。

「残念ですが、女王の出生については島の重要な機密です。私の口から申し上げられません」

「そこをなんとか、教えてもらうわけにはいきませんやろうか」


「もし、お知りになりたいのなら、女王がお目覚めになった時に、直接、女王の口から、お聞きください」

(女王の正体はキヨコなんやろうか。でも、何で、ミンダス島にキヨコは連れて来られたんや? それとも、ここに来たのは、キヨコの意志なんやろうか?)


 女王について、あれこれアイオロスに尋ねたかった。

 だが、アイオロスの秘書が厳しい表情でアイオロスの許に来て、何かを囁く。


 アイオロスは険しい顔で報告を聞いた。

「すいません、急用ができました。少し席を外します」


 おっちゃんは待合室に一人にされた。

 女王は本当にキヨコなのか。キヨコは病気なのか。キヨコは助かるのか。

 おっちゃんは、やきもきしながら、医師の診断が着くのを待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ