第四百五十二夜 おっちゃんと威圧外交の真相
翌日、郵便配達に見せかけて《陸のカモメ亭》のガイルを訪ねた。
《陸のカモメ亭》の一室でガイルは会ってくれた。ガイルは苦い表情をしていた。
「おっちゃん、いいところに来てくれた。俺も話がしたいと思っていたところだ」
「何や? 使節団の動きを何か、知っているんか?」
ガイルが神妙な面持ちで頷く。
「昨夜、こっそり泳いで船に上がって、情報交換をしてきた」
「イルベガン参事会は威圧外交に舵を切ったんか?」
ガイルが暗い顔で、首を横に振る。
「そうじゃない。ドンゲルの失敗により、各ダンジョンの足並みが乱れた。それで、独自交渉に切り替えようとしたら、船が五隻も出る結果になった」
おっちゃんは窓から湾内を見る。船は帆船だが、船種に統一感はなかった。
「あの船団、魔都イルベガン参事会が五隻を出したんやなく、個別のダンジョンから一隻ずつ出したら五隻になったんか? 交渉窓口が五つもあるって、まずいで」
ガイルが表情を歪めて内情を語った。
「俺も事態のまずさはわかっている。各船の使節もまずい事態を理解している。だが、どこのダンジョンも、引き下がる気はない」
「最悪の交渉やな。これは、城がまともに機能していても困るで。ちなみに、どこのダンジョンが船を出してきたんや?」
「『冥府洞窟』『タタラ大洞窟』『海洋宮』『ラタン砂塵宮』『ダブダル廃城』だ」
「『冥府洞窟』も個別にって、あかんやろう。骸はんの支持母体が独自路線に踏み出したら、参事会もバラバラになるで」
「船に乗っている奴らから聞いた話では、参事会は空中分解寸前だそうだ。ひょっとしたら、すでにバラバラになっており、さらに軍艦が増えるかもしれん」
おっちゃんは苦々しく思った。
「骸はんの手腕では、参事会を纏め切れんかったか……」
ガイルが渋い顔で訪ねる。
「それで、おっちゃんのほうは、何かわかったか?」
「お城では『酒神の像』を使って、『重神鉱』や『霊金鉱』を作っとる。そんで『酒神の像』を使える女王様が病気になって、鉱物資源の生産がストップしておる。せやから、ミンダス島は輸出したくても輸出できんのや」
ガイルが暗い表情で相槌を打つ。
「そんな状態だったのか」
「さらに悪いことに、大陸から来た暴飲の魔女コンリーネが暗躍しておる。これが、王家を潰そうとしておるんや。そんで、コンリーネはすでにお城の中に潜伏しておる」
ガイルが暗い表情で意見を述べる。
「かなり状況は悪いな。王家を潰そうと思っているなら、この機会を利用して開戦を目論み王家を潰すな」
「そうやねん。コンリーネにとっては、足並みが揃わず、事情を知らない軍艦は渡りに船やねん」
ガイルが真剣な顔で提案した。
「なら、コンリーネを城から追い出すか?」
「追い出そうにも、コンリーネが城にいるとしかわからん」
ガイルが自信ありげな顔で語る。
「コンリーネが城に潜伏しているのなら、誰に化けているかはわかる。商務大臣のアイオロスに化けている」
「なして、そんなことがわかる?」
ガイルが笑って答える。
「おいおい、俺だって遊んでいたわけじゃないんだ」
「頼もしいのう。なら、本物はどこにおるん?」
「本物のアイオロスは、城の地下牢に幽閉されている。場所もだいたい目星が付いている」
「よし。なら、城に乗り込んで、コンリーネと対決しよう」
ガイルが真剣な顔で提案した。
「今日はまずい。明日にしてくれ。明日なら、俺の友人たちに話をつけて、アイオロス救出の算段ができる」
「よっしゃ。なら、明日やな。わいは明日、イルベガンの使節として城に乗り込む」
「コンリーネと直接対決だな」
「わいがコンリーネと会談をしている場所に、本物のアイオロスを連れてきてくれ。そこでコンリーネの正体を暴いて、コンリーネを城から追い出そう」
ガイルが眼に力を入れて発言する。
「わかった。では、急ぎ準備をする。明日の昼にまたここに来てくれ」




