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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ミンダス島編
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第四百五十一夜 おっちゃんとミンダス島の秘密(後編)

「まず、名前から教えてもらおうか」

 酒商人は素直に白状した。

「俺の名はドメニコス。城に出入りを許された酒商人の一人だ」


「そんで、城では何をしていた」

「俺たちの仕事は城が造った酒を輸出品として売るのが商売だった」


 おっちゃんは眼に力を入れて睨みつける。

「知っとるんやで。それは、表向きの話やろう」


 ドメニコスは怯えた顔でつらつらと告白する。

「そうだ。本当は違う。酒造蔵で造った酒をお城に運び込んで手間賃を貰うのが仕事だ。城では酒を輸出用として作っているが、実際に輸出はしていない。街に流す分以外は全て城で使っている」


「酒造蔵で造られる酒は、かなりの量や。城で全部を飲むわけではないやろう。なして、そんなに酒を消費するんや」


 ドメニコスは神妙な顔で自白した。

「『重神鉱』と『霊金鉱』だ。城には『酒神の像』がある。城では『酒神の像』に酒を捧げることで、鉄を『重神鉱』や『霊金鉱』に変えているんだ」

(何やと? 酒を使って、鉄を『重神鉱』や『霊金鉱』に変えるなんて、可能なんか? でも、それなら、一連の事態に説明は付くな)


「もうちっと詳しく聞かせてくれ」

 ドメニコスは唾をごくりと飲むと、説明した。

「百姓に米を作らせる。米から酒を造る。酒と鉄を一緒に城に運んで、『酒神の像』の力で『重神鉱』と『霊金鉱』を造る。『重神鉱』と『霊金鉱』は鍛冶屋に卸して、輸出用の武具を生産していたんだ」


 ドメニコスは、ぺらぺらと内情を教える。

「米が六十㎏では銀貨六十枚になる。酒にすると百四十四ℓできるから、銀貨にして二百八十八枚になる」

「それぐらいにはなるな」


「だが、それに鉄を加えて『重神鉱』と『霊金鉱』にすると、銀貨にして三千枚もの値が付くんだ。米と鉄が数百倍の値段で売れるんだ」

「なるほどのう。それが、お城の財源か。その儲けのおかげで郵便局のような施設も維持できたわけか。んで、その『酒神の像』は誰でも使えるんか?」


 ドメニコスは暗い顔で首を横に振った。

「できない。『酒神の像』は人を選ぶ。使える人物はこの島の女王だけだ」

「そんで今、女王の身に何かが起こっているんやな?」


 ドメニコスが俯いて話す。

「それは定かではない。でも、アイオロスの話では女王は病気だそうだ」

「話はそれだけではないやろう。それなら、魔女の目的はわからない」


「俺にも魔女の目的は、わからない。ただ、魔女はアイオロスと一緒になってミンダス島の王家が作り出したビジネス・モデルを破壊しようと画策している」

(魔女は王家を潰すと、同時に島を混乱させる気か。何やろう? 魔女の目的は島の乗っ取りか?)

「理由はわからないが、このままでは島は立ち行かなくなるのは確実やな」


 ドメニコスは真剣な顔で頼む。

「俺がこんなことを頼めた義理ではないが、王家を救ってくれ」

「なして、わいに、そんなことを頼む?」


 ドメニコスがしゅんとした様子で懇願する。

「俺だって、好きで島の経済を破綻させたわけじゃないんだ」

「なら、なんで魔女の手先になった」


「魔女に城が占拠され、アイオロスが態度を変えたので、しかたなく従っている。このままでは島は駄目になる、できれば島の経済を許に戻したい」

「そうか。わかった。命は取らん。せいぜい長生きしいや」


 おっちゃんはドメニコスのロープを剣で切った。

「すまない、恩に着る」

 おっちゃんはドメニコスを逃がすと、レイトンの街に帰る。


 昼に街に帰ると、街の雰囲気が暗かった。

 郵便局に帰って、回収した代金と手紙を渡し、アグネスに尋ねる。

「アグネスはん、どうしたんやろう? 何か街の雰囲気が暗いな」


 アグネスが困った顔で教えてくれた。

「レイトンの街には鍛冶屋さんが多いでしょう。その鍛冶屋さんが『重神鉱』や『霊金鉱』が入らないばかりか、鉄の流通が止まって、休業状態なのよ」

「それは大変やな」


 アグネスが不安な顔で訊く。

「鉄はお城の専売だから、今日、鍛冶師たちがお城に大勢で陳情に行ったけど追い返されたんだって」

「なかなかに、まずい状態やな」


「おっちゃん、製鉄村から戻ってきたんでしょう? 何か知らない?」

「製鉄村では原料が届かんくて、製鉄が止まっていた。原因は解決されたから、鉄は近々供給されるで」


 アグネスは、おっちゃんの言葉に安堵した。

「そうなの。良かったわ。でも『重神鉱』や『霊金鉱』が手に入らないと、鍛冶師たちも腕を存分に振るえずに、苦労するわ」


 慌てた郵便配達人が駆け込んできた。

「大変だ。大陸の奴らが攻めてきた。戦争になるかもしれん」

「どういうことや?」


 郵便配達人が早口で説明する。

「軍艦だよ。軍艦。大陸の軍艦五隻がレイトン湾に現れた。きっと、前回の要求が通らなかったことに腹を立てて、魔都イルベガンが軍隊を派遣したんだ。街は戦争になるぞ」


 郵便配達人は、すぐに郵便局から出て行った。

「おい、待て」

 おっちゃんは良くない噂が街を駆け巡るのを警戒して、郵便配達人を止めようとした。

 すぐに局から出たのに、郵便配達人の姿はなかった。


 おっちゃんは《なんでも窓口》に戻って、アグネスに尋ねる。

「さっきの、郵便配達人は誰や? 曖昧な噂で不安を煽ったらあかんで」


 アグネスが困った顔をする。

「ごめんなさい。ちょっと誰か、わからなかったわ」

(まさか、魔女の仕業か? 魔女が不安を煽ろうとしておる)


 おっちゃんは噂を確かめに港に行く。すると、湾内に五隻の軍艦の姿を認めた。


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