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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ミンダス島編
450/548

第四百五十夜 おっちゃんとミンダス島の秘密(前編)

 おっちゃんは製鉄村の村長に手紙を渡す。

 村長はおっちゃんからの報告を聞き、ほっとした顔で手紙を受け取った。

 おっちゃんは仕事を終えたので、レイトンの街に戻ろうとした。


 慌てた顔で村長が呼び止める。

「郵便屋さん、待ってくれ。もう、一つお願いがある」

「まだ、何か?」


 村長が暗い顔で告げる。

「郵便屋さんが出かけた後に、今度は石炭村から連絡が途絶えた」

「また、ですか?」


「きっと、鉄掘村と同じく、良くない事態が起きている気がする。こっちも、様子を見に行ってもらえないだろうか」

「ま、乗りかかった船や。そっちも確認に行ってみますわ」


 おっちゃんは保存食を買い、水筒に水を詰めると、石炭村に歩いて行った。

 石炭村は鉄掘村の隣村に当たり、距離的には歩いて一時間の場所にあった。

 夕暮れの中、村が近づいてくると、鉄掘村の時のように村が静かだった。


『透明』の魔法で姿を消して村に侵入する。

 石炭村でも井戸の近くに呪われた酒甕が置いてあった。

(何や、石炭村も、同じ手口でやられたんか)


 村の中を歩き回ると、石炭村の四箇所に呪われた酒甕が置いてあった。

『物品感知』の魔法で鳥の巣を探すと、椋鳥の巣を見つけた。

 おっちゃんは呪いを運ぶ椋鳥を『魔力の矢』で始末すると、巣を壊す。次いで、酒甕に掛けられた呪いを『解呪』の魔法で解いた。


 村は一日だけ混乱し、元に戻った。

 おっちゃんは製鉄村の村長宅に戻った。

「石炭村も、鉄掘村と同じ手口でやられとりました。これは、気を付けたほうがええで。そのうち、酒商人がこの製鉄村にも来ますわ」

「実は、昨日、こんなものが回ってきたんだ」


 製鉄村の村長が険しい顔で、一枚の手配書を見せてくれた。

「持ってきた役人の話だと、この男が呪われた酒を売っているそうなんだ」

 手配書は、おっちゃんが顔を変えて魔女と会った時の顔だった。

(全ての罪を、わいに押し付ける気やったんか。抜け目ないやっちゃなあ)


 おっちゃんは、それとなく注意しておく。

「この男が犯人でっか。人相が悪いな。でも、鉄掘村の村長が話していた男とは、人相がどうも違うような気がします。もしかしたら、酒売りは二人いるのかもしれん」


 村長は険しい顔で頷いた。

「そうかい。なら、騙されないように気をつけるよ」


 おっちゃんは、その日は製鉄村の郵便宿に泊まった。

 すると、夜に村長宅から使いの者が来た。

「村長が今すぐ会いたいそうです」


 おっちゃんは村長宅に向かう。

 村長宅の前に、象が牽くタイプの荷車が止まっていた。荷車には鉄掘村と石炭村で見たのと同じ酒甕が載っていた。

(ついに、製鉄村まで来たんか)


 おっちゃんは村長の家に来てドアをノックする。

 村長が出てきて、厳しい顔で声を潜めて発言する。

「今、怪しい酒商人が来ている。今晩は家に泊まっていくように、と勧めた」

「わかりました。ほな、わいは外にいます。酒商人が眠ったら、教えてください」


 夜も更けてくると、灯が落とされる。

 しばらくすると、村長が外に出てきて、おっちゃんを手招きする。

「酒商人が眠ったぞ」

「わかりました。なら、酒商人の部屋を教えてください。あと、縄をください」


 縄を貰い、酒商人が眠っている部屋を教えてもらう。

 おっちゃんは『暗視』の魔法を使い、酒商人が眠っている部屋に忍び込んだ。酒商人は静かな寝息を立てて眠っていた。


 おっちゃんは、そうっと、酒商人の荷物を調べる。怪しい気配のする袋があった。中を開けると、呪符が貼られた鳥の形をした米の塊と、呪われた鳥の巣があった。

(完全に黒やな)


 おっちゃんは部屋に『光』の魔法で明かりを点けると、酒商人が眼を覚ました。

「おい、酒商人! 製鉄村で呪いを振り撒こうとしても、そうはいかんぞ。お前の荷物から、呪いの品を発見したで」


 酒商人は慌てて逃げ出そうとした。

 扉の外には村の男衆が待っていて、すぐに取り押さえられた。


 村長が怒った顔で憤る。

「やっぱり、こいつが、鉄掘村と石炭村を襲った酒商人なんだな」

「そうや。おい、酒商人。誰に頼まれて、こないな悪事を働いた」


 酒商人は青い顔をして黙ったので。横面を思いっきり張った。

「痛い目を見る前に、口を割らんか!」

 酒商人は強張(こわば)った顔で吐いた。

「お城だ。お城の商務大臣のアイオロスに頼まれたんだ」


 おっちゃんは酒商人の胸倉を掴んだ。

「アイオロスは、何を企んでいる」

「それは、わからない。俺の役目は呪われた酒をばら撒くのが仕事なだけだ」


 おっちゃんは酒商人の言葉に嘘を感じた。

(ここだと、村長の眼があるからかやり辛いな)


 おっちゃんは酒商人を縛って、村長に話す。

「村長はん。この男を穀物蔵にいる役人に突き出してやりたいんやけど、ええか?」

 村長は少々驚いた。

「いいけど、今から行くのかい」

「早いほうがよろしい」


 おっちゃんは酒商人を連れて村を出る。

 しばらく歩いて行くと、おっちゃんは剣を抜いて、酒商人に声を掛ける。

「お前は生かしておくと危険や。なんで、ここで始末させてもらうわ」


 酒商人は慌てた。

「おい、ちょっと待ってくれ。俺は単なる酒商人なんだ」

「嘘やろう。お前は何かを隠しておる。死んでも喋らん気やろう」


 おっちゃんは男を引き倒すと、馬乗りになって、剣を構える。

 酒商人は、すっかり怯えていた。

「待て、殺さないでくれ。助けてくれ」

「なら、教えてもらおうか、秘密の絡繰(からくり)を」

「わかった、だから、下りてくれ」


 おっちゃんは男から降りると、道端に座る。


2018/05/24に『おっちゃん冒険者の千夜一夜』の二巻が発売予定です。

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