第四百五十夜 おっちゃんとミンダス島の秘密(前編)
おっちゃんは製鉄村の村長に手紙を渡す。
村長はおっちゃんからの報告を聞き、ほっとした顔で手紙を受け取った。
おっちゃんは仕事を終えたので、レイトンの街に戻ろうとした。
慌てた顔で村長が呼び止める。
「郵便屋さん、待ってくれ。もう、一つお願いがある」
「まだ、何か?」
村長が暗い顔で告げる。
「郵便屋さんが出かけた後に、今度は石炭村から連絡が途絶えた」
「また、ですか?」
「きっと、鉄掘村と同じく、良くない事態が起きている気がする。こっちも、様子を見に行ってもらえないだろうか」
「ま、乗りかかった船や。そっちも確認に行ってみますわ」
おっちゃんは保存食を買い、水筒に水を詰めると、石炭村に歩いて行った。
石炭村は鉄掘村の隣村に当たり、距離的には歩いて一時間の場所にあった。
夕暮れの中、村が近づいてくると、鉄掘村の時のように村が静かだった。
『透明』の魔法で姿を消して村に侵入する。
石炭村でも井戸の近くに呪われた酒甕が置いてあった。
(何や、石炭村も、同じ手口でやられたんか)
村の中を歩き回ると、石炭村の四箇所に呪われた酒甕が置いてあった。
『物品感知』の魔法で鳥の巣を探すと、椋鳥の巣を見つけた。
おっちゃんは呪いを運ぶ椋鳥を『魔力の矢』で始末すると、巣を壊す。次いで、酒甕に掛けられた呪いを『解呪』の魔法で解いた。
村は一日だけ混乱し、元に戻った。
おっちゃんは製鉄村の村長宅に戻った。
「石炭村も、鉄掘村と同じ手口でやられとりました。これは、気を付けたほうがええで。そのうち、酒商人がこの製鉄村にも来ますわ」
「実は、昨日、こんなものが回ってきたんだ」
製鉄村の村長が険しい顔で、一枚の手配書を見せてくれた。
「持ってきた役人の話だと、この男が呪われた酒を売っているそうなんだ」
手配書は、おっちゃんが顔を変えて魔女と会った時の顔だった。
(全ての罪を、わいに押し付ける気やったんか。抜け目ないやっちゃなあ)
おっちゃんは、それとなく注意しておく。
「この男が犯人でっか。人相が悪いな。でも、鉄掘村の村長が話していた男とは、人相がどうも違うような気がします。もしかしたら、酒売りは二人いるのかもしれん」
村長は険しい顔で頷いた。
「そうかい。なら、騙されないように気をつけるよ」
おっちゃんは、その日は製鉄村の郵便宿に泊まった。
すると、夜に村長宅から使いの者が来た。
「村長が今すぐ会いたいそうです」
おっちゃんは村長宅に向かう。
村長宅の前に、象が牽くタイプの荷車が止まっていた。荷車には鉄掘村と石炭村で見たのと同じ酒甕が載っていた。
(ついに、製鉄村まで来たんか)
おっちゃんは村長の家に来てドアをノックする。
村長が出てきて、厳しい顔で声を潜めて発言する。
「今、怪しい酒商人が来ている。今晩は家に泊まっていくように、と勧めた」
「わかりました。ほな、わいは外にいます。酒商人が眠ったら、教えてください」
夜も更けてくると、灯が落とされる。
しばらくすると、村長が外に出てきて、おっちゃんを手招きする。
「酒商人が眠ったぞ」
「わかりました。なら、酒商人の部屋を教えてください。あと、縄をください」
縄を貰い、酒商人が眠っている部屋を教えてもらう。
おっちゃんは『暗視』の魔法を使い、酒商人が眠っている部屋に忍び込んだ。酒商人は静かな寝息を立てて眠っていた。
おっちゃんは、そうっと、酒商人の荷物を調べる。怪しい気配のする袋があった。中を開けると、呪符が貼られた鳥の形をした米の塊と、呪われた鳥の巣があった。
(完全に黒やな)
おっちゃんは部屋に『光』の魔法で明かりを点けると、酒商人が眼を覚ました。
「おい、酒商人! 製鉄村で呪いを振り撒こうとしても、そうはいかんぞ。お前の荷物から、呪いの品を発見したで」
酒商人は慌てて逃げ出そうとした。
扉の外には村の男衆が待っていて、すぐに取り押さえられた。
村長が怒った顔で憤る。
「やっぱり、こいつが、鉄掘村と石炭村を襲った酒商人なんだな」
「そうや。おい、酒商人。誰に頼まれて、こないな悪事を働いた」
酒商人は青い顔をして黙ったので。横面を思いっきり張った。
「痛い目を見る前に、口を割らんか!」
酒商人は強張った顔で吐いた。
「お城だ。お城の商務大臣のアイオロスに頼まれたんだ」
おっちゃんは酒商人の胸倉を掴んだ。
「アイオロスは、何を企んでいる」
「それは、わからない。俺の役目は呪われた酒をばら撒くのが仕事なだけだ」
おっちゃんは酒商人の言葉に嘘を感じた。
(ここだと、村長の眼があるからかやり辛いな)
おっちゃんは酒商人を縛って、村長に話す。
「村長はん。この男を穀物蔵にいる役人に突き出してやりたいんやけど、ええか?」
村長は少々驚いた。
「いいけど、今から行くのかい」
「早いほうがよろしい」
おっちゃんは酒商人を連れて村を出る。
しばらく歩いて行くと、おっちゃんは剣を抜いて、酒商人に声を掛ける。
「お前は生かしておくと危険や。なんで、ここで始末させてもらうわ」
酒商人は慌てた。
「おい、ちょっと待ってくれ。俺は単なる酒商人なんだ」
「嘘やろう。お前は何かを隠しておる。死んでも喋らん気やろう」
おっちゃんは男を引き倒すと、馬乗りになって、剣を構える。
酒商人は、すっかり怯えていた。
「待て、殺さないでくれ。助けてくれ」
「なら、教えてもらおうか、秘密の絡繰を」
「わかった、だから、下りてくれ」
おっちゃんは男から降りると、道端に座る。
2018/05/24に『おっちゃん冒険者の千夜一夜』の二巻が発売予定です。




