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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ミンダス島編
447/548

第四百四十七夜 おっちゃんと酒神様

 帰ったように見せかける。

『飛行』と『透明』の魔法を駆使して、空からパシャブを監視した。パシャブは、おっちゃんが帰ると、すぐに動き出した。


 パシャブは水桶と手提げ鞄を持って出かける。パシャブが村外れにある高さ一m五十㎝ほどの石に彫られた石像の前に行く。石像の後ろには、背の高い草原が広がっていた。

 パシャブは石像を綺麗に洗うと、鞄からおにぎりと酒を出して供える。

 パシャブが神妙な顔で頼む。

「酒神様どうか、酒造蔵を危険からお救いください。それと、私には酒桶を壊す仕事はできません。なので、この変化のワンドをお返しします」


 パシャブは小ぶりの杖を取り出して、石像の前に供える。

 すると、一陣の風が吹いた。どこからか男の声がする。

「我は酒神である。醸造の蔵の酒桶を壊すのじゃ。そうしなければ、村に大きな災いが起きるだろう」


 パシャブは畏怖の表情を浮かべて弱々しく発言する。

「無理です。私にはできません。村にとって、酒造りは大事な産業。これがなくては、村人は食べていけません」

「いいから、やるのじゃ。全ては村のためだ」


 おっちゃんは、魔法でどこからか声を飛ばしていると悟った。

(誰かが酒神に成り済ましておるの。悪いやっちゃな。よし、捕まえたろ)

「おい、こら、偽者! 覚悟せいや! ふん縛って、突き出したる!」


 おっちゃんの大声に(くさむら)が不自然に揺れた。おっちゃんは揺れた場所に猛然と突き進む。

 人間の男が逃げ出した。足場の悪い場所でも、おっちゃんはひょいひょいと自在に進んでいく。

対して、男は叢の中を思うように進めない。みるみる間に距離が縮まって、おっちゃんは男を組み伏せた。


 そのまま顎に強烈な一撃を一発がつんと食らわせると、男は気を失った。

 おっちゃんは叫ぶ。

「偽者の酒神様を捕まえたで!」


 おっちゃんは男を担いで、パシャブの許に行く。

 パシャブが眼を白黒させて、狼狽(うろた)える。

「私はこの男に騙されていたのか?」

「そうや、まずこの偽者を連れて行くで。証拠となるワンドを持って付いてきてや」


 パシャブの家に気絶した男を連れて行き、縄で縛る。

 男は身長が百六十㎝、頭は丸刈りで、人相の悪い、髭面の四十男だった。


 おっちゃんは男が気絶している間に、パシャブに事情を訊く。

「何で、パシャブはんは郵便配達人に成り済まして、脅迫状を送ったんや」

「脅迫する気は全然なかった。儂は酒を全て廃棄しないと悪いことが起こる神託を信じて警告の手紙を出しただけだよ」


「でも、何で。酒の廃棄を促したんやろうな?」

「それは、わからない。事情は聞いていないんだ」


「そうか。なら、こいつに訊いてみようか。酒造頭のインシュブはんを連れてきて」

「わかった、酒造頭にも聞いてもらおう」


 パシャブはインシュブを連れてきた。

 インシュブは困惑した顔で尋ねる。

「酒桶を壊していた犯人を捕まえたって本当かい?」

「そうや、いまから尋問する」


 おっちゃんは男を風呂場に連れて行って。水をぶっ掛ける。

 男が眼を覚ましたので訊く。

「ずいぶんと、村に(ひど)い仕打ちをしてくれたの。お前は魔道具で姿を変えて酒蔵に侵入した。そんで、酒桶を壊していた事実については、調べが付いておるんじゃ。なして、そんな悪事を働いた」


 男はむすっとした顔をして、横を向く。

 おっちゃんは男の頭を掴んで、風呂に沈めた。


 男が暴れるがしばらく押さえつける。男が動かなくなったところで、風呂から出して胸を押し、水を吐かせる。

 男は息を吹き返した。おっちゃんは男の頭を掴んで乱暴に脅す。

「さあ、責めはまだ始まったばかりじゃ。どこまで耐えられるか、見ものじゃのう」


 男は怯えた顔で、たどたどしく発言する。

「わかった、話す。話すから、止めてくれ」

「よし、お前はどこの誰じゃ」


「俺の名はマックス。元は城の役人だ。だが、酒で失敗して、職を馘首(くび)になった。今は無職だ」


 インシュブは訳がわからない顔で尋ねる。

「なら、何で酒蔵に侵入して、酒桶を壊したんだ!」


 マックスは、苦しげな顔で自白する。

「俺は日々、酒に溺れる生活をしていた。そしたら、城に出入りしていた商人のドメニコスが、頼み事があると誘ってきた」

「そんで、ドメニコスは、何と囁いたんや?」


「上手くいった暁には城に掛け合って前の職に戻れるようにしてやると約束してくれた」

「それが、魔道具で姿を変えて、酒桶を壊す仕事だったんじゃな」


 マックは俯いて白状した。

「そうだ。だが、それも面倒になってきた。そこで、信心深いパシャブに、眼を着けた。代わりに仕事をやってもらおうと思った」


 インシュブがパシャブを見るので、おっちゃんは鎌を掛ける。

「他にも隠していることがあるやろう!」

「パシャブに贈った、ポポカン酒の話か。あれは魔法の酒で、飲み続ければ、人の話を信じ易くなる効果がある。酢になっても効果は変わらない」


 パシャブが青い顔をする。

「そんな! あの酒に、そんな効果があるとは……」


「酒桶を壊す理由は、何や?」

「それは、正直に言うがわからない」


 おっちゃんはマックスを睨みつける。

「隠すとためにならんで」

 マックスは怯えた顔で、たどたどしく語る。

「たぶん、酒の値段を吊り上げるためだと、思う」


 おっちゃんは、インシュブに向き直る。

「とまあ、これが酒造蔵に起きた事件の真相ですわ」


 インシュブが表情を歪めて呟く。

「まさか、そんな成り行きになっていたとは。よし、わかった、儂からお城にいる親しい役人に手紙を書く。お城で調べてもらおう。マックスは穀物蔵にいる役人に引き渡す」

「ほな、マックスの件はお願いします」


 その日の昼過ぎには、酒造頭から連絡を受けた役人が、マックスを引き取りに来た。マックスは役人に引き立てられて行った。

 おっちゃんは報酬の金貨とお城への手紙を受け取って、レイトンの街に帰った。手紙と代金を本局に届けて、郵便鞄を返却して、その日は、ゆっくりと休んだ。


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