表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ミンダス島編
446/548

第四百四十六夜 おっちゃんと脅迫状

 朝になり、パシャブに自慢の酢豚を振舞ってもらう。

 しっかり朝食を摂ってから、酒造蔵に行く。

「郵便を届けに来ました」


 白い服に身を(つつ)んだ象族の男性が出て来て、面倒臭そうな顔で話す。

「何だ。また、手紙かい。一緒に持ってきてくれてもいいのに」

(わいの他にも、配達に出た人がおるんやろうか? でも、郵便宿で会わんかったな)

「誰やろう? ちと、見当が付かんわ」


 おっちゃんは配達を終えたので、酒造蔵を後にしようとする。

 年配の象族の男に呼び止められた。象族の男は困った顔をしていた。

「ちょっと待ってくれ、郵便屋さん。この早朝に届いた郵便だけど、どこから出ているかわかるかい」


 おっちゃんは封筒を受け取る。

 差出人の住所がレイトンの本局の住所だったが、差出人の名前がなかった。ただ、消印が似ているが、レイトンの郵便局で押した消印ではないと見抜いた。


「これ、本局を経由した手紙やないな。本局で押す消印と似ているが、違うとる」

「ちょっと、いいか」と年配の象族は、おっちゃんの袖を引いて庭の隅に連れて行く。


「どうかしましたか?」

「私の名はインシュブ。ここの酒造を預かる酒造頭だ。この郵便には実は脅迫状が入っていたんだよ。『酒を全て廃棄しないと、悪いことが起きる』ってね」


「手紙を見せてもろうても、いいですか」

「これが、そうだろう。酷いだろう」


 手紙は、紙に書かれたごく短い文だった。

(一見すると、おかしいところはない。だが、それは、素人目線の話や)


「脅迫状の差出人を調べてみますから、脅迫状をお借りしても、ええですか?」

「よろしく頼むよ」とインシュブは頼んだ。


 おっちゃんは穀物蔵まで行き、兵士に尋ねる。

「すんまへん、早朝にここを通った郵便配達人って、いますか?」

「いないね」と兵士は素っ気ない態度で答える。


 次に会館に行き、管理人に尋ねる。

「昨日、会館に泊まった、郵便配達人は、いますか?」


「いないよ」と、こちらもアッサリした顔で返事があった。

 穀物蔵で時間を潰してから、夕方に『瞬間移動』でレイトンの街に帰った。


《なんでも窓口》にいるアグネスに尋ねる。

「ちょっと、この手紙と封筒を見てや。酒造村に送られてきた脅迫状や」


 アグネスが険しい顔で封筒と手紙を見る。

「住所は本局で、差出人は、なしか。消印は良く似ているけど、島で使われているのと、微妙に大きさが違うわね。手紙はおそらく、象族が書いたものね」


「手紙で、種族がわかるの?」

「わかるわよ。使われている言葉は同じだけれど。書体が、クロコ族、モグラ族、人間、象族で微妙に違うのよ」


「そうなんか。あと、これを酒造村に配達した郵便配達人がおるんやけど、わいの後に、酒造村に向かった郵便配達人って、誰や?」

「ちょっと、待って」と、アグネスが冴えない表情で、リストをチェックする。

「誰も行ってないわよ」


「郵便配達人の服って、どこかで売っとる?」

 アグネスが表情を曇らせて教えてくれた。

「配達人になった時に支給されて、退職した時には返還してもらうわ。でも、長く務めていた人は記念に制服をこっそり、持っていくことも、あるわ」


「なるほど。退職者の制服が本人が亡くなった後に、古着屋に持ち込まれるケースはあるんやな?」

「そうね。否定できないわ。でも、郵便配達人は配達鞄を持っていたかしら」


「鞄には何か特長あるんか?」

「制服を記念にこっそり持つ人はいても、鞄は駄目なのよ。鞄は局で管理しているから、帰ってきた時に必ず回収しているでしょう」


「そう指摘されれば、そうやな」

 おっちゃんはレイトンの街を出ると、『瞬間移動』で酒造村まで戻った。


 酒造蔵で、おっちゃんはインシュブに再度、会う。

「今朝のことを、もう一度、思い出してほしいんやけど。配達人は郵便鞄から手紙を取り出しました?」


「郵便鞄を持っていた気はするけど、似た鞄だったかもしれないね」

「そうですか。他に何か妙な点って、なかったですかね?」


 インシュブが閃いた顔をする。

「ああ、そういえば、ブーツが綺麗だったな」

「何で、覚えておりますの?」


「郵便配達人が玄関先に立っていたんだよ。それで、郵便を受け取ったあと玄関を清めるために水を撒こうとしたら、泥がほとんど落ちていなかった」

(おかしいで。昨日は雨が降っとった、穀物蔵から酒造村の道は泥だらけやった。普通なら、ブーツには泥がついているはずや)


 おっちゃんはまず、コンリーネを疑った。

(コンリーネは飛べるし、『瞬間移動』かてできる。でも、コンリーネは今まで犯行に際して脅迫状を出した過去はない。郵便配達人に化ける必要もない気がする。とすると、郵便配達人は、この村にいた人間やろうか? )


 コンリーネの犯行も捨てきれないが、どうも違うように思えたので保留しておく。

「この村に人間の方っていますか?」

「人間は醸造家になれないし、畑も持てないから、ここでは暮らしていけないよ」


 おっちゃんは醸造蔵を後にして、郵便宿に泊まる。

「今日も一泊、お願いします」

「いいとも、泊まっていきなさい」とパシャブは愛想のいい顔で了承した。


 その晩、横になりながら考える。

(偽の郵便配達人はおそらく、この付近に隠れとる。だが、人間のいない村で人間が住みつけば、話題になるやろう。まさか、象族の誰かが魔女の力で人間に化けたんやないか)


 おっちゃんは、すぐにパシャブを疑った。

(脅迫状を運んできた郵便配達人が魔法で化けたものなら、パシャブはんが怪しい。昨日の晩から朝にかけて、わいの制服がここにあった。ブーツの泥を落としたのも、パシャブはんや。もし、パシャブはんが姿を変えられるなら、郵便配達人に化けられるな)


 おっちゃんは疑問に思う。

(でも、何でや? パシャブはんは昔からこの土地にいた人や。わからん。これ、ちょっと調べてみる必要があるで。コンリーネの犯行を疑うのはその後やな)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ