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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ミンダス島編
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第四百四十五夜 おっちゃんと酒にまつわる話

 翌日、出勤するとアグネスに声を懸けられた。

「おっちゃん、今日は酒造村の酒造蔵まで手紙の配達を頼んでいいかしら」

「ええよ」と、おっちゃんは手紙と郵便鞄を受け取る。手紙に王家の紋章があった。


「お城絡みの配達か」

「米から造るお酒はお城の専売だから、そうなるわね」


「米から造る酒の酒造蔵は全て国の機関なんか?」

 アグネスが笑って答える。

「何を言っているの? 当たり前でしょう」


(国営の酒蔵か。一軒、二軒ならわかる、でも、何で全ての酒造蔵を国が管理しているんやろう。それに、米に限るって、何か理由があるんやろうか)

「米以外の酒は違うの?」


 アグネスが理的な顔で説明してくれた。

「果実酒は家庭でも自由に造れるわ。麦や豆から造る酒は制限があるけど、税を納めれば造れるわよ」

 適当に話をあわせておく。

「そういえば、そうやな、家でも果実酒を造った経験があるわ」


「でも、米から造る酒はお城が造って、貿易用に輸出しているでしょう。酒は、この島の重要な外貨獲得源よ」

(おかしいで、イルベガンにいたけど、レイトンで造られた酒は輸入されとらんかった。ミンダス島の貿易額の一位は『重神鉱』や『霊金鉱』の品で、二位が鉄器や)


 おっちゃんは疑念を隠して、話を合わせる。

「おお、そうやったな。酒は島の輸出品やった」

(米を税として徴収するのは、わかる。国は税として徴収した米を使って酒を盛んに造っているようやな)


 おっちゃんは街の酒場の光景を思い出す。

(酒場で飲んだり、飯を喰うた。でも、街では、それほど米の酒が飲まれているように見えんかったで。城では酒を輸出しとると発表しておるけど、ほんまやろうか?)


 おっちゃんは旅の準備を終えると、酒造村まで、手紙を入れた郵便鞄を受け取って運ぶ。酒造蔵は穀物蔵より二時間ほど北に行った場所にあった。

 途中で雨が降ってきた。穀倉村で雨宿りしてから、酒造村に行った。

 雨宿りで時間を食ったので、酒造村に着いた時には、日が落ちていた。


(もう、夜も遅い、急ぎの手紙でもないようやから、配達は明日で、ええか)

 おっちゃんは郵便宿を探した。

 酒造村では象族の老人が郵便宿をやっていたので、お世話になる。


 老人の家は三LDKで、一部屋が郵便局配達人用の部屋だった。

 象族の老人は優しい顔で、おっちゃんを労った。

「儂の名はパシャブ。狭いところだが、ゆっくりしていったらいい」

「わいは、おっちゃんの名で親しまれる郵便配達人です。お世話になります」


 パシャブは笑顔で申し出る。

「雨に濡れて、体が冷えてないか? 冷えているなら、熱いポポカン酒をご馳走するよ」


 ポポカン酒は知っていた。ミンダス島原産の、ポポカンと呼ばれる蜜柑に似た果実から造る酒で、島ではよく飲まれている

「ありがとございます。ほな、いただきます」


 湯呑みに入れた熱燗のポポカン酒が出てくる。

「温かいポポカン酒は初めて飲みましたが、これは美味しいですな」

「ポポカン酒は美味しいけど、一日で酢になってしまうからね」


「もったいないですな」

 パシャブは、のんびりした顔で事情を明かす。

「二日前に豚を一頭、絞めたからね」


「冬支度の準備ですか?」

「冬に向けて豚肉の酢漬けを作ろうと思って、造った酒さ。ポポカン酢に漬けると、豚肉は味が良くて美味しい酢豚の材料になるからね」


「酢豚か。あれは、美味しいですな」

 パシャブがニコニコした顔で申し出る。

「酢豚が好きかい。なら、明日の朝食に作ってやるよ」


「ありがとさんです」

 おっちゃんは何の気なしに尋ねた。

「ここは酒造りが盛んですやろう。今年のできは、どうですか?」


 パシャブが表情を曇らせる。

「今年は駄目だね。誰のせいか知らないが、醸造桶に穴を空ける奴がいて、仕込んだ酒が半分近く駄目にされた」

「何や、嫌がらせですか?」


 パシャブが困った顔で告げる。

「それが、犯人がまるでわからないんだよ。しかも、一軒だけでなく、何軒もの酒蔵で、やれているから始末が悪い」

「悪い奴がおるんやな」


「噂じゃ、被害はこの村だけじゃないって話だから、何とも嫌な事件だよ」

「誰ぞ、酒が嫌いな者の犯行ですかねえ」


 パシャブが暗い顔で、首を横に振る。

「それにしても、規模が大きすぎる。被害額もかなりになるだろうね」

「それは、大変な事態ですな」


「そうさ。それに犯人が捕まらないと、今年の酒を仕込んでも、また来年に壊されたら、目も当てられない」

 パシャブが立ち上がると、一度、席を外して、戻ってくる。

「さて、風呂の用意ができた。体が冷えただろう。温まるといいよ」


「え、悪いですわ。先に入ってくださいよ」

「いいんだよ。郵便配達人を持て成すのも仕事のうちさ。きちんとお金を貰っているから遠慮は不要だよ」

「そうでっか。なら、入らせてもらいますよ」


 風呂の窓からは、綺麗な星空が見えた。

 風呂から上がると、寝巻きが用意されていた。


「服はまだ湿っていたから、乾かしておくよ。ブーツも、泥を落としておいてやるよ」

「何から何まで、すんまへんな」

 おっちゃんは、その日は、ぐっすりと眠った。


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