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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ミンダス島編
444/548

第四百四十四夜 おっちゃんと暴飲の魔女コンリーネ

 手紙を持ってレイトンの街に帰った。

《なんでも窓口》で、回収してきた手紙と代金をアグネスに渡す。

「アグネスはん、稲作村から帰ったで。レイトンが配達先になっとる手紙と代金も回収してきた」

「ご苦労様」とアグネスは笑顔で、おっちゃんを(ねぎら)う。


「アグネスはん、鰻村への手紙って、ある? あったら配達するで」

 鰻村への配達依頼を探したのには訳があった。おっちゃんはコンリーネと秘密裏に戦うつもりだった。鰻村への配達は郵便局へのアイバイ工作をするためだった。


「あるわよ。お願いするわ」

 おっちゃんは鰻村へ手紙を届けに歩いて向かう。


 手紙を届け終わると、『瞬間移動』で穀物倉へと移動する。

 穀物倉へと続く草原で隠れて、グールの動きを探った。


 夕暮れになると、不自然に草原が揺れ出す。

(魔女に顔を覚えられると、面倒かもしれん)


 おっちゃんは変身能力で顔の容貌を変えた。その後、『飛行』の魔法と『透明』の魔法を使い、そっと空に飛び上がる。

 上から見ると、百を越すグールの集団が街道沿いの草原に潜伏している状態が、わかった。

(また、米を運んでくる村人を襲う気やな)


 おっちゃんは上空からコンリーネを探した。すると、グールの二百m後方に、直径二mほどの光る魔法陣があった。

 魔法陣の上にいるコンリーネを見つけた。


 おっちゃんは剣を抜くと、空中からコンリーネの真上まで近づき、急降下攻撃を仕掛けた。

 コンリーネは攻撃が命中する直前に気付いた。コンリーネが体を黒いガス状に変えて、攻撃をすり抜ける。


 おっちゃんは、そのままコンリーネから少し離れた場所に下り立つ。

「暴飲の魔女のコンリーネやな? なして、村人から米を奪う?」


 コンリーネはキッと、きつくおっちゃんを睨む。

「郵便配達人が生意気な。全ては大陸を災いから救うためよ。それが、ひいてはこの島を救うことにもなるのよ。邪魔をするな」


 視界が一気に暗くなった。視界を奪われたが、焦りはしなかった。

 おっちゃんの耳は、背後にコンリーネが移動してきた事態を察知していた。おっちゃんは、すかさず、炒り豆を握ると、背後に投げた。


「ぎゃああああ!」と叫び声がする。

 視界が元に戻ると、コンリーネがよろめいていた。コンリーネは体を黒い煙状に変えると、上空に飛び去った。


 おっちゃんは空を飛び、追いかけた。コンリーネの飛ぶ速度は速く、従いて行くのがやっとだった。

 おっちゃんは空を飛びながら、再度『透明』の魔法で姿を消す。高速で飛んでいくと、やがてレイトンの街が見えた。

(何や? コンリーネは街の中に逃げる気か)


 黒い煙となったコンリーネだが、そのまま、お城の最上階にある窓に飛び込むと、窓が閉まる。

 おっちゃんは、城の中まで追って行くのが危険と思い、追跡を諦めた。

(コンリーネが城の中に逃げたやと? これは、まずいのう)


 おっちゃんは再び『瞬間移動』で鰻村に行き、郵便宿で一夜を明かす。

 手紙と代金を回収して、翌日に郵便配達の帰りを装って、レイトンの街に帰った。

(よし、アリバイ工作は完成やな)


 街に着いた時は、夕方だった。

「アグネスはん、ただいま、帰ったで」


 アグネスが困った顔をして訊いてきた。

「お帰りなさい。ちょっと、いいかしら? おっちゃんは穀物倉に行った?」

(やはり、そう来たか、用心しておいて正解やな)


「行ってないよ。わいが配達に行ったんは、鰻村やで、ほれ、これが回収してきた、鰻村からの手紙と代金や」

 アグネスが鰻村からの手紙を受け取る。アグネスが浮かない表情で手紙を確認する。

「差出人の住所は鰻村だから、間違いなく鰻村の手紙ね。鰻村から穀物倉に行ったり、した?」


 おっちゃんは素知らぬ顔で(とぼ)ける。

「何でや? 鰻村と穀物倉って、方向がまるで逆やん」


 アグネスが悩みながら、弱々しく語る。

「そうよね。実は、お昼に穀物倉に行った郵便配達人はいないかと、お城から問い合わせがあったのよ。その問い合わせがあった郵便配達人と、おっちゃんの背格好が似ているのよ」

(わいを手配して追い出す気か。そうは、いかんで)


 おっちゃんは笑って話す。

「人違いやろう。一日で、鰻村に手紙を届ける。そんで、穀物倉に行って、また鰻村に戻る行程は不可能や」

「そうよね、人の足では移動できないわよね」


「それに、わいは郵便宿に泊まっていた。嘘だと思うならライリーに訊いてや。泊まっていましたと証言するはずや」


 アグネスはおっちゃんの言葉を疑わなかった。アグネスは考え込む。

「人相書きも、おっちゃんと感じが違ったし。なら、誰なんだろう? お城で探している郵便配達人って」


 それとなく訊いてみる。

「何や? その郵便配達人が、何かやったんか?」


 アグネスが浮かない顔で告げる。

「それが、妙なのよ。いるかどうかだけ問い合わせてきたのよ」

「それは、あれやな。誰かが郵便配達人の服を盗んで、悪さしとるのかもしれんな」


 アグネスが表情を歪める。

「同じ郵便局員の人間として嫌だわ、そんなの」


 おっちゃんはアグネスと別れて、食事にする。

 今日のお勧めは酢豚だったので、酢豚を注文する。

(これは迂闊に、コンリーネの情報を探るわけにはいかんのう。コンリーネがすでにお城に入り込んでおるのなら、有力者を取り込んでおる可能性もある)


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