第四百四十四夜 おっちゃんと暴飲の魔女コンリーネ
手紙を持ってレイトンの街に帰った。
《なんでも窓口》で、回収してきた手紙と代金をアグネスに渡す。
「アグネスはん、稲作村から帰ったで。レイトンが配達先になっとる手紙と代金も回収してきた」
「ご苦労様」とアグネスは笑顔で、おっちゃんを労う。
「アグネスはん、鰻村への手紙って、ある? あったら配達するで」
鰻村への配達依頼を探したのには訳があった。おっちゃんはコンリーネと秘密裏に戦うつもりだった。鰻村への配達は郵便局へのアイバイ工作をするためだった。
「あるわよ。お願いするわ」
おっちゃんは鰻村へ手紙を届けに歩いて向かう。
手紙を届け終わると、『瞬間移動』で穀物倉へと移動する。
穀物倉へと続く草原で隠れて、グールの動きを探った。
夕暮れになると、不自然に草原が揺れ出す。
(魔女に顔を覚えられると、面倒かもしれん)
おっちゃんは変身能力で顔の容貌を変えた。その後、『飛行』の魔法と『透明』の魔法を使い、そっと空に飛び上がる。
上から見ると、百を越すグールの集団が街道沿いの草原に潜伏している状態が、わかった。
(また、米を運んでくる村人を襲う気やな)
おっちゃんは上空からコンリーネを探した。すると、グールの二百m後方に、直径二mほどの光る魔法陣があった。
魔法陣の上にいるコンリーネを見つけた。
おっちゃんは剣を抜くと、空中からコンリーネの真上まで近づき、急降下攻撃を仕掛けた。
コンリーネは攻撃が命中する直前に気付いた。コンリーネが体を黒いガス状に変えて、攻撃をすり抜ける。
おっちゃんは、そのままコンリーネから少し離れた場所に下り立つ。
「暴飲の魔女のコンリーネやな? なして、村人から米を奪う?」
コンリーネはキッと、きつくおっちゃんを睨む。
「郵便配達人が生意気な。全ては大陸を災いから救うためよ。それが、ひいてはこの島を救うことにもなるのよ。邪魔をするな」
視界が一気に暗くなった。視界を奪われたが、焦りはしなかった。
おっちゃんの耳は、背後にコンリーネが移動してきた事態を察知していた。おっちゃんは、すかさず、炒り豆を握ると、背後に投げた。
「ぎゃああああ!」と叫び声がする。
視界が元に戻ると、コンリーネがよろめいていた。コンリーネは体を黒い煙状に変えると、上空に飛び去った。
おっちゃんは空を飛び、追いかけた。コンリーネの飛ぶ速度は速く、従いて行くのがやっとだった。
おっちゃんは空を飛びながら、再度『透明』の魔法で姿を消す。高速で飛んでいくと、やがてレイトンの街が見えた。
(何や? コンリーネは街の中に逃げる気か)
黒い煙となったコンリーネだが、そのまま、お城の最上階にある窓に飛び込むと、窓が閉まる。
おっちゃんは、城の中まで追って行くのが危険と思い、追跡を諦めた。
(コンリーネが城の中に逃げたやと? これは、まずいのう)
おっちゃんは再び『瞬間移動』で鰻村に行き、郵便宿で一夜を明かす。
手紙と代金を回収して、翌日に郵便配達の帰りを装って、レイトンの街に帰った。
(よし、アリバイ工作は完成やな)
街に着いた時は、夕方だった。
「アグネスはん、ただいま、帰ったで」
アグネスが困った顔をして訊いてきた。
「お帰りなさい。ちょっと、いいかしら? おっちゃんは穀物倉に行った?」
(やはり、そう来たか、用心しておいて正解やな)
「行ってないよ。わいが配達に行ったんは、鰻村やで、ほれ、これが回収してきた、鰻村からの手紙と代金や」
アグネスが鰻村からの手紙を受け取る。アグネスが浮かない表情で手紙を確認する。
「差出人の住所は鰻村だから、間違いなく鰻村の手紙ね。鰻村から穀物倉に行ったり、した?」
おっちゃんは素知らぬ顔で惚ける。
「何でや? 鰻村と穀物倉って、方向がまるで逆やん」
アグネスが悩みながら、弱々しく語る。
「そうよね。実は、お昼に穀物倉に行った郵便配達人はいないかと、お城から問い合わせがあったのよ。その問い合わせがあった郵便配達人と、おっちゃんの背格好が似ているのよ」
(わいを手配して追い出す気か。そうは、いかんで)
おっちゃんは笑って話す。
「人違いやろう。一日で、鰻村に手紙を届ける。そんで、穀物倉に行って、また鰻村に戻る行程は不可能や」
「そうよね、人の足では移動できないわよね」
「それに、わいは郵便宿に泊まっていた。嘘だと思うならライリーに訊いてや。泊まっていましたと証言するはずや」
アグネスはおっちゃんの言葉を疑わなかった。アグネスは考え込む。
「人相書きも、おっちゃんと感じが違ったし。なら、誰なんだろう? お城で探している郵便配達人って」
それとなく訊いてみる。
「何や? その郵便配達人が、何かやったんか?」
アグネスが浮かない顔で告げる。
「それが、妙なのよ。いるかどうかだけ問い合わせてきたのよ」
「それは、あれやな。誰かが郵便配達人の服を盗んで、悪さしとるのかもしれんな」
アグネスが表情を歪める。
「同じ郵便局員の人間として嫌だわ、そんなの」
おっちゃんはアグネスと別れて、食事にする。
今日のお勧めは酢豚だったので、酢豚を注文する。
(これは迂闊に、コンリーネの情報を探るわけにはいかんのう。コンリーネがすでにお城に入り込んでおるのなら、有力者を取り込んでおる可能性もある)




