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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ミンダス島編
442/548

第四百四十二夜 おっちゃんと稲作村

 二日後、おっちゃんはアグネスに呼ばれた。アグネスが穏やかな顔で頼む。

「おっちゃん、手紙の配達を引き受けてもらって、いいかしら?」

「今日は他の仕事がないから、ええよ。場所はどこや?」


「街から東に一日、行った場所に、稲作村があるわ。そこに手紙を届けて欲しいの」

(島の南側は湿地帯で、鰻の養殖や漁業で食っている。真ん中へんでは稲作をやっておるんやな)

「ほな、届けて来るわ」


 アグネスが朱の紋章が入った黄色い封筒と郵便鞄を渡してくれる。

「なんや? 普通の手紙より、仰々しいな」


 アグネスがにこにこしながら説明する。

「紋章は王家の紋章よ。中身を見てないから詳しくはわからないわ。だけど、差出人が王家で、封筒は黄色い。宛先は村長さんだから、税の督促(とくそく)に関する内容だと思うわ」

「税の督促ねえ。秋も終わりやかな。収穫された米を早く納めろの内容かのう」


「そうだと思うわ。この時季お百姓さんは、収穫と籾撒きと忙しいから、納税が遅れているのかもしれないわね」


(ミンダス島は暖かい。春、夏、秋と米を収穫する三期作をやっとるんやなあ)

「わかったで、しっかり届けたる」


 おっちゃんは旅支度をする。道に迷ったときのために保存食も三食分を購入する。

 食料品市場を覗くと、炒り豆が安かったので、おやつの代わりにと、炒り豆も購入しておいた。炒り豆が入った袋は腰から下げた。


 郵便局が発行している地図を見ながら、島の中央を目指した。道は大きい道が一本あるだけなので、迷いはしなかった。

 昼を過ぎた頃から、見慣れた湿地帯と密林の風景が鳴りを(ひそ)め、草原へと変わる。


 夜になったが、地図上ではもう少しで村なので、月明かりの中を歩く。月に照らされた収穫が終わった後の田園風景が見えてきた。

「着いたで、稲作村や」


 街はもう寝静まっていたので、村の外れで夜を明かす。保存食を食べて、朝を待った。

 農作業をしにやってきた象族の村人に会った。


 象族は顔が象で、灰色の肌を持ち、幅の広い体をした種族だった。平均身長は男性で二百二十㎝で、力が強い。ミンダス島では主に島の中央に住み、農業を営んでいた。


 村長の家を訊いて、村長の家に行く。村長の家は木造の平屋の家だった。家は大きく、周囲が百mはあった。

「村長さん、郵便を届けに来ましたで」


 奥から年をとった白い眉の象族の男性が出てきた。村長はクリーム色の半袖と半ズボンの服を着ていた。村長は、にこにこしながら告げる。

「配達ご苦労様だね。お茶でも飲んでいくかい?」

「ほな、お言葉に甘えます」


 村長と一緒に縁側に腰掛け、お茶をご馳走になる。

 お茶といったが、茶葉は使っていない。すーっとする香がするハーブ・ティーだった。お茶請けには、豆煎餅が出される。

「豆煎餅でっか。これは、気が利いてますな」


 村長がにこにこ顔で自慢する。

「煎餅の材料になる米粉も豆も、村で収穫されたものだよ」

「ほな、いただきます」


 豆煎餅はそれほど固くもなく、ほどよく塩味が効いていて、美味しかった。

おっちゃんが豆煎餅を食べて、お茶を飲んでいる横で、村長が手紙を読む。


 村長の表情は硬かった。

「どうしました? なんぞ、悪い内容でも、書いてありましたか?」

「他の村で米を運ぶ最中に、運搬人が魔物に襲われそうだよ。手紙は、注意するようにとの警告文だったよ」

「この辺りに、魔物なんて出ますの?」


 村長が暗い顔で、首を横に振る。

「聞いた記憶がないね。郵便屋さん、何か知らないかい?」

「レイトンの街の南に、鰻村がありますやろう」


「知っているよ。その鰻村でなにかあったのかい?」

「そこで、魔女が人を攫った話は聞いていますな。その魔女は、まだ捕まっていないと聞いとります」


 村長が真剣な顔で訊いて来た。

「そうか、そんな事件があったのか。なら、気を付けたほうがいいな。郵便屋さんはまだ配達があるのかい?」

「この村で郵便を集荷して、なければ、帰るだけですわ」


 村長が弱った顔でお願いした。

「そうか、なら、街に戻るだけだったら、二日ほど、この村に滞在してほしい。米の輸送に付き合ってもらって、いいだろうか?」

「米の護衛でっか?」


「普段なら、護衛なんて付けずに、穀物蔵のある村まで運ぶ。だけど、今回は注意喚起(かんき)の手紙も出ているからね、用心しないとね。ちゃんと報酬も払うよ」

「わかりました。ほな、明後日の米の輸送には付き合いますわ」


 おっちゃんは郵便宿を訪ねると、預けてあった郵便と代金を回収する。

 郵便はどれもレイトンの街宛で急ぎではなかった。


 おっちゃんは一日ほど時間ができたので、村を見て歩く。

 村は広く、田圃(たんぼ)も多い。籾撒(もみま)きの最中だが、村は、のんびりとした空気に覆われていた。


 象族の老人たちが寄り添ってお茶を飲んでいる場面に出くわしたので、尋ねた。

「すんまへん、この辺りに、人間が住んでいませんやろうか?」


 象族の老人が穏やかな表情で答える。

「ここら辺に人間は住んでないね。昔は人間の家族が一組いたが、街に出ていったきりだね」

「ほな、近くの村はどうですか?」


「近隣の村にも、人間が移住してきた話は聞かないね」

 おっちゃんは落胆した。

「そうでっか。ありがとうございます」

「いえいえ、配達ごくろうさま」


 おっちゃんは老人と別れる。

(キヨコ、どこにいるんやろうな?)


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