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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
ミンダス島編
440/548

第四百四十夜 おっちゃんと不可解な魔女

 一夜が明ける。さすがに、長距離を歩き慣れている郵便配達人にも、疲れが出た。

次の日は、ぐっすり休んだ。翌日には、クロコ族の村長にニコラスとマリノスが報告に行った。

 ライリーの家は狭い。おっちゃんは他の先輩郵便配達人に気を使って、外で寝起きしていた。


 おっちゃんの許に、線の細い郵便配達人がやって来る。救出した郵便配達人のレノスだった。

レノスは先月に十六になったばかりの、新人の郵便配達人だった。まだ酒が抜けきっていないのか、苦しそうな顔で礼を告げる。

「おっちゃんさん。助けに来ていただいて、ありがとうございました」


「なんや、もう、ええんか? レノスはんかて、慣れない酒を魔女に無理やりに飲まされて、大変やったろう?」

 レノスが恥ずかしそうな顔をして、ぺこぺこと頭を下げる。

「最初は脅されて飲んでいたんですが、最後のほうは美味しくて自分の意志で飲んでいました」


 おっちゃんは軽く注意しておく。

「習慣性のある酒やったんやな。十六になって成人したとはいえ、レノスはんは、まだ若いんや。飲むなら、もっと体が成長してからのほうが、ええで」


 レノスが恐縮した顔で尋ねる。

「マリウス先輩にお礼が言いたかったんですけど、どちらへ」

「マリウスはんなら、ニコラス隊長と一緒に村長の家や」


「そうですか」とレノスが移動しそうだったので、引き止める。

「待ちいや。ちょっと聞かせて欲しいんやけど、ええか。魔女に何かされんかったんか?」


 レノスが眉間に皺を寄せて思い出そうとする。

「酒を飲めと命令されました。最初は躊躇ったんです。でも、食事が出なかったので、危ないと思いつつも、空腹に負けて、つい酒を飲んでしまいました」

「食事を出さずに、酒を飲ませる魔女かー。他に何か、されんかったか?」


 レノスが難しい顔をして答える。

「何もないですね。ただ、日に三度、食事の代わりに酒を出されるだけでした」

(なんやろう? 魔女が人を攫った目的が、わからん)

「なんか、こう、他に、酒を飲ませる以外で変わったこととか、なかったか?」


 レノスがさっぱりわからない顔で申告する。

「いいえ、特には。ただ、お酒の味は毎回、違いました」

 レノスがそこで思い出した顔をする。

「そうだ。あと、魔女が杖に向かって、実験がどうのと、話していました」


(気になる単語やな。レノスは酒だと思うていたが、実は、何かの魔法薬だったんやろうか?)

「どんな実験の話や?」

 レノスが申し訳なさそうに詫びる。

「申し訳ないですが、酔っ払っていたので、詳しくは覚えてないです」


「血を抜かれたり、とか、せんかった?」

 レノスが素っ気ない顔で告げる。

「血は採られませんでした」


「酒の抓みって、何か出た?」

 レノスが苦い顔で告げる。

「いいえ、でも、塩分が欲しかったので、俺は持っていた炒り豆を食べていました」


「あれ? 荷物は取り上げられんかったんか?」

 レノスがわけがわからない顔で話す。

「食糧は取り上げられました。ですが、豆の入った袋だけはなぜか、取り上げられませんでした」

「小さな袋やから、気付かなかったんかなー」


「豆の入った袋に魔女は気が付いていたんです。でも、豆の入った袋は触るのも嫌そうでした」

(なんやろう? 気になるで。魔女が嫌う特殊な物が入っていたんやろうか?)

「炒り豆が入っていた袋を持っているか」


 レノスが炒り豆の入っていた袋を差し出したので、袋を調べる。

「何の変哲もない、普通の袋やな」

 臭いを嗅いでも、異常は見当たらなかった。


「ライリーさんから貰った炒り豆なんで、普通の豆だと思いますよ。レイトンの街で売っているものと、味は変わりません」

「わけがわからん魔女やな」


 レノスが立ち去った後に、マリノスがやって来て、真剣な顔で指示する。

「明日、村の男衆と一緒に、俺たちは魔女の家に奇襲をかける。おっちゃんも、参加してくれ」


「参加人数は、何人くらいですのん?」

「俺たちも含めて、二十四名だ」


(クロコ族は戦力になるけど、二十四名か。ちと、不安な人数やな。もしかしたら、魔法の腕前を披露する展開になるかもしれんけど、止むなしか)

「わかりました。わいも行きます」


 翌日、二十四人で密林に入って魔女の住処を目指す。

 密林の中にできた不自然に開けた場所に出た。だが、そこには円形の形に湿地が拡がるだけで、家はなかった。


 場所を間違えたのかも、と付近を捜索するが、何もない。

 村の男たちがニコラスを不審そうに見る。

「本当に家があったんだって」とニコラスが慌てた顔で弁解する。


 昼過ぎまで掛かったが、魔女の家は見つからなかった。

 ただ、目撃者が多い事態から、魔女はいたんだろうの話にはなった。


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