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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
魔都イルベガン編
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第四百三十一夜 おっちゃんと妻の影

 モンスター酒場で飲んでいると、モンスターの噂話が聞こえてくる。

 不安な顔のトロルが語る。

「『鉱山主リカオン』の奴が、まずいらしい。『イヤマンテ鉱山』が人間に攻略される寸前だそうだ」


 別のオーガが笑って答える。

「またか、数年前も人間に攻略される噂が流れた。でも、大丈夫だっただろう。今回も乗り切るさ」

「だといいんだがな」


『イヤマンテ鉱山』が攻略される情報が流れた三日後、突如として『イヤマンテ鉱山』の屋敷が閉鎖された。屋敷の閉鎖により『イヤマンテ鉱山』が人間たちの手に渡った状況が街中に知れ渡った。


 おっちゃんは閉鎖された『イヤマンテ鉱山』の屋敷を眺めながら思う。

諸行無常(しょぎょうむじょう)やの。また一つ、ダンジョンが人間の手によって攻略されたか」


 街中では『重神鉱』や『霊金鉱』の価格が高騰する。街にダンジョン攻略で職を失った浪人モンスターが、次々とモンスター酒場にやってきていた。

 そんな、ある日、おっちゃんは骸の使いに屋敷に来るように命じられた。


 屋敷に行くと、骸は渋い面をして、縁側で茶を飲んでいた。

 おっちゃんが隣に座ると、骸が話し出す。

「企画書の件は、ご苦労じゃったな。三度目の提出にして、企画書は通りそうじゃ」

「モルモル族も喜びますやろうな」


 骸は冴えない顔で告げる。

「時におっちゃんよ。『イヤマンテ鉱山』が攻略されて、『鉱山主リカオン』が討たれたニュースは、知っておるな?」

「へえ、知っとります。モンスター酒場にも、職を求めて、『イヤマンテ鉱山』の浪人が多数、やって来とります」


 骸が複雑な表情で語る。

「『鉱山主リカオン』は我が母の『髑髏公主』の政敵であった」

「なら、一つ肩の荷が下りましたか?」


「『鉱山主リカオン』が討たれた状況を、魔都イルベガンを預かる身としては、素直に喜んでもおられぬ」

「鉱物資源の高騰の話でっか?」


 骸が神妙な顔で頷く。

「そうじゃ。『鉱山主リカオン』から鉱物資源を購入していたダンジョンは多い。街も多い。これが絶たれた今、新たな輸入先が必要じゃ」


「でも、『重神鉱』も『霊金鉱』も普通には産出しない鉱物。西大陸では『イヤマンテ鉱山』が独占していた鉱物でっしゃろ。東大陸か南大陸から輸入するんでっか?」


 骸が難しい顔をして語る。

「実はイルベガンから西に三百㎞行ったところに、大きな島がある。現地の種族がミンダス島と呼ぶ島じゃ」

「聞いた覚えがない島でんな」


「ミンダス島は、イルベガンと貿易があるだけで、西大陸のどのダンジョンとも交流がない。あまり、内情が知られていない島なのじゃ」

「付き合いがないから、知れていない島ね」


「ミンダス島の輸出品だが、鉄器の他に『重神鉱』でできた武具を輸出しておる。また、『霊金鉱』でできた宝飾品も、主な輸出品に含まれておるのじゃ」

「なるほど、ミンダス島が貿易の輸出量を増やしてくれれば、助かるわけでっか?」


 骸が真剣な顔で告げる。

「そうじゃ。昨日の緊急参事会があり、ミンダス島に使者を送ると決定した」

「西大陸のダンジョンの総意として、貿易量を増やすように要求するわけでんな?」


 骸が期待の籠もった顔で頼んだ。

「それで、その使者の一人としてミンダス島に行ってくれまいか?」

「なんで、わいを選ぶんでっか?」


 頭が痛いと嘆かんばかりの顔を、骸がする。

「参事会で人選をしようとした。じゃが、政治が絡んで難航しておる」

「偉い人は偉い人で、大変でんな」


「皆が皆、自分のダンジョンから使者を出そうと躍起なのじゃ。これでは、使者を決めるだけで、下手をすると半年は掛かる」


「どこも、自分のダンジョンが大事やからな。抜け駆けしても、資源が欲しいんやろう。でも、使者の選定でそれだけ掛かるなら、交渉が絡めばもっと時間が掛かりますな」


 骸が神妙な顔で提案する。

「そう。そこで、どのダンジョンからも息が掛かっていない者を先に何人か、事前交渉の使者として送りたい。そうすれば、交渉の時間を短縮できるじゃろう」


「でも、わいは、そういう使者とかは、あまり得意やないです。元を(ただ)せば、しがない、しょぼくれ中年トロルやし」


 骸が頬を膨らませて憤慨(ふんがい)した。

「なぜじゃ! 御主は他の者の相談に乗って、すでに成果を出しておろう。なら、わらわの依頼も受けてくれても、いいじゃろう」


「でも、責任重大やからなあ……」

「実はこの話。御主にも利益があるのじゃ。これを見よ」


 骸が掌を上に向けると、二十㎝四方の鏡が宙に現れる。

 鏡には長年、おっちゃんが捜し求めていた、キヨコの姿が映っていた。

「骸様、これを、どこで?」


「御主が、このキヨコなる女性を探しておると、モンスター酒場のリンダから聞いた。それで、わらわが(つて)を辿って探したのじゃ」

「キヨコは今どこにおるんですか?」


 骸が穏やかな顔で、やんわりと提案する。

「それは、ミンダス島じゃ。だが、ミンダス島には一般人は立ち入れない」


「そんな、どうにかなりませんか」

「事前交渉の使者なら、上陸も可能じゃろう。どうじゃ、事前交渉の使者を引き受けてくれまいか?」


「そういう事情なら、わかりました。事前交渉の使者を、やらしてもらいます」


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