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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
マサルカンド編
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第四十三夜 おっちゃんと大物狩り

 五日後、バリスタ完成の報告を聞いた。おっちゃんは、手の空いている海賊十人の手を借りて、地形に罠を張りに行った。


 罠は太い鉄の杭を地面に深く刺して、ロープを張ったもの。それを十五m置きに六箇所、用意しておく。ロープの罠の後方の地面に直系十m深さ六十㎝の穴を掘っておく。


 翌日、全長三mのバリスタ五張、油の入った大きな壺、干し草の山、毒入りの羊肉二頭を用意して、前日に作った罠の場所に移動する。


『ボルガン・レックス』と戦う人間はおっちゃん、ポンズ。サワ爺と四十名の海賊。


 現場に着くと、おっちゃんは指示を出す。

「穴に干し草を敷いて、油を掛けといてや。それと、羊肉を焼く準備をしてな」


 海賊たちが指示に従っている間に。ロープを張った鉄の杭に『透明化』の魔法を掛けた。

「干し草と焙烙玉の準備が終わりました」と海賊の一人が声を上げた


『幻影』の魔法を掛けて油を被った干し草の山を、地面に偽装する。


 馬を離れた場所に繋いでおいた。羊肉を(あぶ)って臭いを風下に送った。バリスタの発射を準備させる。最後に全員の姿を『幻影』の魔法で、地形に変哲のない岩に偽装した。


 ポンズが感心したように、おっちゃんに声を掛けた。

「ここまで高度な魔法が使えるってことは、おっちゃんは、かなりできる冒険者だったのか」


 魔法を使える状況は、秘密にしたかった。だが、相手は『ボルガン・レックス』だ。全力でやらねば、死人が出る。

「おっちゃんが魔法を使える事実は、秘密にしてや。おっちゃんは、しがない、しょぼくれ中年冒険者や」


「わかった、海と風に懸けて、秘密にするよ」


 サワ爺が険しい顔をして、小声で合図する。

「やつが来たぞ。肉に向かっている」


「逃げてもええで」とサワ爺に伝えようとした。だが、口にできなかった。

『ボルガン・レックス』を見るサワ爺の目は、老人の目ではなかった。そこには、強敵に対峙しても怯まない冒険者の顔があった。


(なんや、サワ爺。昔は冒険者やったんか)


 罠を挟んだ向かいの位置に『ボルガン・レックス』は向かった。


 五mにも及ぶ身長、数トンはある巨体、黒い岩のような肌を持つ恐竜が二足歩行でやって来た。現れた『ボルガン・レックス』は美味そうに毒入りの羊肉を食べる。一頭を食べ終わると、もう一頭もすぐに平らげる。


「バリスタ発射」ポンズが指示を出す。

『幻影』を解除する。幻の地形が消える。


 五張のバリスタから太い矢が『ボルガン・レックス』を目掛けて飛び出した。


 二本の矢が外れる。命中した矢は、三本だけ。三本の矢は『ボルガン・レックス』に、しっかりと刺さった。


(やったで。バリスタなら、通用する)


「バリスタ装填」威勢の良いポンズの声が響いた。バリスタに次の矢が装填される。


 残りの海賊が弓矢で『ボルガン・レックス』の頭を目掛けて矢を浴びせる。だが、普通の矢は全て弾かれた。


『ボルガン・レックス』が怒りの声を上げて、突進しようとした。見えないロープに脚を取られて転倒する。


『ボルガン・レックス』が立ち上がるときに海賊が「装填完了」と叫ぶ。

 ポンズの「バリスタ発射」の合図で矢が飛ぶ。


 次は矢が一本しか命中しなかった。「三号故障」の声が飛ぶ。見れば、バリスタの一台の弦が切れていた。


「三号要員バリスタ廃棄。弓矢で応戦しろ。バリスタ装填」のポンズの声が飛ぶ。


 立ち上がった『ボルガン・レックス』が、再度の突進を試みた。二つ目の罠のロープを破って進む。だが、三つ目の罠で脚を取られた。


「装填完了」「バリスタ発射」三度目のバリスタが発射された。

 今度は三本の矢が命中する。『ボルガン・レックス』は、まだ倒れなかった。


『ボルガン・レックス』が見えないロープを警戒してか、ゆっくり近づいて来た。『ボルガン・レックス』が五つ目の罠を越えた。


「バリスタ装填」「装填完了」「バリスタ発射」四度目のバリスタが発射された。


 今度は全弾が命中する。だが、『ボルガン・レックス』はまだ倒れない。

『ボルガン・レックス』が張られたロープを踏み抜く。最後のロープの罠が破壊された。


「バリスタ装填」「装填完了」「バリスタ発射」

 五度目のバリスタが発射される。三本が命中した。


「焙烙玉、用意」ポンズの合図で、焙烙玉がバリスタにセットされる。


 装填中に『ボルガン・レックス』が干し草ゾーンに脚を踏み入れた。『ボルガン・レックス』は油の入った干し草の中で、足を滑らせ転倒した。


 おっちゃんは『火球』の魔法を唱える。大きな火の玉を『ボルガン・レックス』に投げつけた。

『ボルガン・レックス』に当った火球は派手に爆発。干し草に着火した。


 足元で火の手が上がった『ボルガン・レックス』が、顔を歪めた。けれども、まだ起き上がって前に出ようとした。


「焙烙玉装填完了」「焙烙玉発射」


 焙烙玉の一つは事故を起こした。飛んでいかず、バリスタを炎上させた。残りの三つの焙烙玉が飛んで行く。


 焙烙玉は命中、『ボルガン・レックス』が炎に包まれた。炎に包まれるも、『ボルガン・レックス』は雄叫びを上げて向かって来た。


「バリスタ用意」のポンズの緊迫した声が響く。


(まずい、次の装填が間に合わん)


『ボルガン・レックス』が干し草ゾーンを抜ける。バリスタとの距離は二十m。


 おっちゃんは剣を抜いて飛び出した。燃え盛る岩と筋肉の塊である『ボルガン・レックス』に肉薄する。噛み付こうとする『ボルガン・レックス』の一撃を掻い潜った。


『ボルガン・レックス』の膝に目掛けて剣技『金剛穿破』を放った。剣が『ボルガン・レックス』の硬い皮膚を貫き、深々と刺さる。


『ボルガン・レックス』が大きな悲鳴を上げた。おっちゃんは刺さった剣を捨てた。

『ボルガン・レックス』から距離を取る。おっちゃんのいた場所を尻尾の一撃が通過した。


「装填完了」「バリスタ発射」


 六度目のバリスタが発射される。二本のバリスタの矢が『ボルガン・レックス』に刺さる。だが、まだ倒れない。怒鳴るような「バリスタ装填」のポンズの声が響く。


(とんでもない化け物や)

 おっちゃんが焦りを感じた時に『ボルガン・レックス』が苦しみのたうつ。『ボルガン・レックス』の進撃が止まった。


(毒が効いてきたんか)


「装填完了」「バリスタ発射」


 七度目のバリスタの攻撃。バリスタから放たれた三本の矢が近距離で『ボルガン・レックス』を捕えた。それでも、『ボルガン・レックス』が立ち上がった。


「バリスタ装填」のポンズの緊迫した怒鳴り声が響く。


 一度は立ち上がった『ボルガン・レックス』だが、倒れて痙攣を始めた。


(やった、行けるで)


「装填完了」「バリスタ発射」ポンズの大きな声が響いた。


 八度目のバリスタの攻撃が全て当った。『ボルガン・レックス』は完全に動かなくなった。


「バリスタの矢を二十本以上も受けるまで倒れんとは、なんちゅう奴や。危ないところやったで」


 一同から歓声が上がった。終わってみれば怪我人は三人。バリスタが故障した時に切れた弦で打たれた人間が二人。焙烙玉の破裂で軽い火傷(やけど)()った一人だけだった。


 おっちゃんはサワ爺にギルドへの連絡を頼んで後始末を始めた。ほどなくして、ギルドのモンスター回収班が来て、『ボルガン・レックス』をギルドに回収していった。


 冒険者ギルドに帰ると、ちょっとしたお祭りだった。

『ボルガン・レックス』の討伐は、久々に冒険者ギルドに(もたら)された明るい話題だった。


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